1-4 戦勝式典2
その後は国歌斉唱やお偉方の挨拶が続き――最も、皇帝の後で長々とスピーチをする者は居なかったが――、遂に今回の戦いの論功行賞の時がやってきた。
朱理は軍人の上位にいる、特に12名の『竜騎士』が属する『ゾディアック』の面々を思い浮かべ、この後の流れをシュミレートしてみる。
(さて、いよいよね。真田先輩は『竜騎士』じゃないけど参謀トップで功績大。まぁ俗っぽいからお金か物でいいでしょうし、真は義理堅いから何貰っても断らないわよね。私は居残りで陛下の護衛だから何も無しでいいし、轟のアホは怪我と消耗でノックアウトしてていないけど、まぁアホだからどうとでもなるわ。防人さんは今は会場の警備で最後の大戦も前線に部隊を送り届けてからすぐ国の守りに戻ったから勲功1等ってワケじゃないし、そもそも控え目な人だから自分の手柄を誇張したりしないわね。残りの『竜騎士』は全滅、と。寂しくなったものね、『ゾディアック』も。で、肝心の神崎先輩は・・・正直、功績が大きすぎて与えるに値する物が無いっていうのが事実よねー。そもそも軍の最高位である竜将だし、お金や物に靡くような簡単な人じゃないし。領地でも与えるってのも下策なのよね。今の国土は荒れ放題もいい所で、そこそこ豊かなのはこの皇都の『高天原』くらいで、まさか皇帝直轄領を分譲なんて出来ないし。そうすると、異論があるのはもちろん分かってはいるけど、志津香様の伴侶にっていうのは割りと妥当な線ではあるのよ。大体、神崎先輩が居なかったらこの国はおろかこの星の全ての人間は死に絶えたでしょうし。そして民衆が英雄を求めるのは歴史が証明してる。おそらく大多数は賛成するから、この数で押せば大っぴらに反対出来る人なんていないわ。けれど・・・)
そこまで考えて朱理は首を捻る。
(どうにも、神崎先輩がすんなり受けるとは思えないのよね。何を貰っても表情一つ変えない気がしてならないわ・・・そもそも神崎先輩って女に興味あるのかしら? 今まで恋人一人居た事はないのは分かってるんだけど・・・)
そして朱理はハッとある推論に思い至る。
(軍といえば男所帯。そして神崎先輩の周りには真田先輩や真をはじめとした男がいつもたむろってるわ! つ、つまり、これはいわゆるひとつのBでLな薔薇色の理想郷が建国されていたら・・・ダメよ! ダメダメ!! そんな筋肉の牙城に志津香様の細腕じゃあ割って入る事なんて出来ないわ!筋肉だわ! マッスルが足りないのよ! 流暢に言うならマッソォー!!)
・・・若い経験不足な一応いいとこのお嬢様の考える事であるのでご容赦頂きたい。(色々な意味で)腐っていても良家のご令嬢なので、男女の機微には疎いのだった。
《・・・汝はユウに恨みでもあるのか? 彼奴は女はおろか男にも興味は無かろうよ。それは調査の段階で分かっておったであろうが。女の影も男の影も一切無い事は》
相棒の暴走した妄想に辟易したサーバインが聞くに堪えぬとばかりに口を挟む。着用者とは『心通話』で話せるので外部に漏れる心配は無い。
(分かってるわよサーバイン。ちょっとしたオトメの楽しみじゃない)
朱理もそんな事は承知の上で暇潰しをしていたのだ。ただ、女の影という部分では、多少気になる噂は耳に挟んでいた。
(神崎先輩は無愛想で仏頂面で堅物だけど、顔は上の下って所だし、面倒見もいいから部下には慕われてるわ。事実、何人かの女性隊員が告白までいったって話だけど・・・誰もその時どんなやり取りがあったのかを話そうとしないのよね。おまけになぜか玉砕したと思われる娘達はこれまで以上に鍛え始めてるっていう話だし。うーん、謎だわ)
そんな事を考えている間に再び登壇した志津香が、薄らと頬を赤らめながら悠に視線を送っている。
「では、此度の大戦の一番手柄。アポカリプスを屠った神崎竜将から・・・」
そこまで志津香が言ったところで、当の悠が挙手して発言を求めた。
「陛下の発言を遮るなど不敬の極みではありますが、宜しいでしょうか?」
周囲の者達も困惑を隠せずにいた。およそ神崎 悠という男は余計な口を挟むなどする事の無い人物であり、その人物がこのような重要な場で発言を求めるからには軽い理由からでは有り得ないと思ったからだ。それでも皇帝陛下に対しての不敬である事は確かであるので、周りの官吏達が嗜めようとしたが、
「はい、構いません。神崎竜将の発言を許可します」
と、当の皇帝陛下に言われては口を噤まざるおえない。
志津香は志津香で、
(もしかして・・・悠様自ら褒賞に「貴女が欲しい(キラッ☆)」と仰って下さるのでは! のでは!! 嗚呼、もしそう言って頂けたら、喜んでその胸の中に飛び込みますのに・・・)
などと期待に胸を膨らませて必死に表情を保とうとしていたのだが、悠の次のセリフで志津香や朱理はおろか、雪人や真のみならず官吏や民衆全てが凍りついた。
「退役のご許可を頂きたく思います」
連合国家の軍隊の序列を以下に記しておきます。
竜将
虎将
鳳将
竜佐
虎佐
鳳佐
ここから上が仕官です。尉官はいません。少数精鋭になったため廃止されました。竜騎士、竜器使いは最低でも鳳佐以上から軍歴が始まります(例外もあります)。前線で戦うメインになります。
それに伴い下士官以下も簡略化されています。
軍曹
兵長
上等兵
一等兵
二等兵
義勇兵
9割以上がこの中に入ります。なにしろ基本的に階級が上なほど前線で戦うので危険度も階級が上がるにつれてうなぎ上りになっていきます。基本的な下士官以下の任務はサポート全般であり、実際の戦闘にはあまり参加しません。
最下位にいる義勇兵は有志による民兵です。軍としてはなるべく死なせたくないので戦闘には参加しません。(当然、襲われたら戦いますが)
この12階級がこの国の軍制です。