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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-160 お人好しの挽歌5

「もうこんな時間か……」


悠が研究所から出て来た時、既に日は傾き始めていた。一つ一つの部屋を虱潰しに捜索するのは悠でも手間のかかる作業だったのだ。


《いっそ建物ごと壊したかったけど、生存者も探さないといけなかったしね》


「亡くなった者達も供養してやらねばならん。『機導兵マキナ』の残骸の撤去も考えれば今日は夜を徹しての作業になるだろうな」


アルトやシュルツが奮戦したといっても被害が0とはいかず、荒れた街中もそのままにしておく訳にはいかないが、一般人が触れるには『機導兵』は少々剣呑な品である。兵士達も疲れ切っているとなれば悠が働かなければならないだろう。


《屋敷から人を呼べば良かろう。もうここに危険はあるまい》


《そうね、いいアイデアじゃない? トモキやハジメが居てくれたら捗るわ》


「そうだな……頼んでみるか。ナターリアにも許可を取らねばなるまいが……」


屋敷に居る面子を頭に思い浮かべ、悠は魔法阻害が消えた事を確認してから蒼凪に『心通話テレパシー』を送った。


「蒼凪、聞こえ《お呼びですかユウ先生!!》


殆ど反射の速度で答えた蒼凪はまるで待っていたかの如くであったが、実際に蒼凪はいつでも悠からの連絡を待ちわびていたのであり、何かあれば食事中だろうが睡眠中だろうが悠を待たせる事は無い。特に今回のように離れて行動しているとそれが顕著なのだ。


忠義というより依存、崇拝というべき態度が正しいとは悠も思わないが、蒼凪に刻まれた悠への想いは強制して治るものでもなく、悠としては時が解決するのを期待するしかなかった。


「……蒼凪、一応の目処がついたから後片付けを手伝って欲しいのだが、屋敷の者達の手は空いているか?」


《ユウ先生に頼まれて断る人はここには居ません。手が空いていなかったら空けるだけです》


蒼凪の中でそれは当然の事だった。どんな案件を抱えていようと、何よりも優先されるのは悠の都合であるべきなのだ。それによってどんな不都合が生じようと蒼凪にとっては些事である。


《時が解決するのは期待薄ねぇ……》


レイラの呟きに悠も概ね異論は無かったが、オリビアにしろ蒼凪にしろ、悠を精神の拠り所としている者達に無理強いしても良い結果になるとも思えず、自分が気にしなければいいかと気を取り直した。


「ならば外で動ける準備をしておいてくれるか? 年少組は疲れが見えるなら休ませてくれ。入国の許可が得られたら迎えにいこう」


《分かりました、すぐに準備します》


取り急ぎ用件を伝えると、悠は足を王宮へと向け歩き出した。途中で一旦変身を解除して悠々と進む姿にはもう激戦の気配は欠片も残ってはいなかったが、もし敵が現れたら即座に全力で戦える男である。


王宮の入り口で悠はちょうど帰ってきたらしいバロー達と鉢合わせた。


「よう、手伝えなくて悪かったな。こいつら、自分達も乗るってきかなくてよ」


バローが視線で示すのは『六将』の3人であった。シルフィードの危機と聞いて譲らなかったのであろう。舟はさぞ窮屈だったに違いない。


「本国の危機に『六将』が全員不在とあっては申し開きが立たん」


「だからベムは後にしなさいって言ったのに……」


「ぼ、僕だってハリー様が心配だったんですもん! それに、魔法が使えるなら『土将』である僕が一番お役に立てます!」


結局、3人とも先行したハリハリが心配でついて来たという事だろう。無論、アリーシアやナターリアの事も心配していたに違いないが。


「いいから入らないか? 見る限り、王族の方々やハリハリは無事だろう」


呆れたようなギルザードに促され、一行は顔パスで王宮に入った。


やはりというべきか、王宮内は『機導兵』の残骸が散らばっており、動ける者はその対処にかかる体力も残されていないようだ。主力たる兵士達が戦場に行っている中で、彼らはよく生き延びたというべきだろう。


先に進む内に悠は遠目にアルトの姿を捉え、軽く手を上げて呼び掛けた。


「アルト、無事か?」


「あっ、ユウ先生!」


花が咲いたような笑顔で応えたアルトが恵やデメトリウスと共にやってきて合流を果たすと、アルトの肩口に止まっていたプリムが悠に飛びついた。


「ユウ~!」


「プリム、隠れていたのか?」


「そんな訳ないよ! わたしも二匹倒したモン!」


完全武装で勇ましく槍(針)を振るうプリムはちゃんと戦果を上げていたのだ。弱点である頭部に槍を突き刺し、全力で水気マリーンを放出する事でプリムはピンポイントで核を破壊していたのである。


「流石はプリム、水精族ニンフ一の勇者だな。俺が見くびっていたようだ」


「えへん!」


戦果は2体といえど、普通のエルフでは1体すら倒せていないのだからプリムの戦果は十分に誇るべきものであった。その2体が居なかったお陰で救われた命があるかもしれないのだから。


プリムを労い肩に乗せ、悠は恵に向き直った。


「恵、済まん。怖い思いをさせただろう?」


「あ、謝らないで下さい、私も覚悟してここに来たんですから! それに、アルト君が守ってくれましたし」


「そうか……アルト、お前が居てくれて助かった。お前が居てくれたからこそ俺も皆の無事を信じる事が出来たのだ」


恵とアルトの肩にそれぞれ手を乗せ、悠は掛け値なしの本音でアルトを労った。非常に珍しい事に口角がミリ単位でほんの僅かに上がっているその顔は、分かる者だけに分かる笑顔に違いなかった。


それがどれだけの事か理解しているアルトは全ての蟠りが吹き飛び、誇らしさが胸を満たして目から零れ落ちていた。私的にはどんな事情があろうと、やはり悠はアルトにとって最も眩しい存在である事に変わりはないのだ。


「ユウ、先生……僕は……!」


泣き顔を悠の胸に埋めるアルトに恵も貰い泣きの涙を漏らし悠に取り縋った。どれほど実力があろうと、2人はまだ十代半ばの少年少女なのだ。頼るべき相手を前にして涙腺が緩むのは自然な事だった。


「……私には労いの言葉は無いのかね? 両手に花で随分といい役回りに見えるが?」


「お前がどうにかなるような相手ならこの国は無事ではあるまいよ、デメトリウス。……が、恵とアルトを守ってくれた事には感謝しよう」


未だ女性の体のままのアルトが自分の胸で泣いてくれない切なさを不機嫌に変えたデメトリウスだったが、悠の言葉で多少気を良くしたようで大仰に頷いた。


「宜しい。この防衛戦は是非とも記録や絵画として世に残したいね。不死の魔法使いと傾国の美剣士、シルフィードを死守したもう……いいね、誰か筆の立つ者を探さないと。最後には2人には幸せな結末が待っているはずさ!」


まだ諦めないデメトリウスはいっそ立派だが、その道のりは悠の関知する所ではないのでアルトと恵を伴い、一行は謁見の間を目指した。


待たされる事もなく通されたその場所にはナターリアとアリーシア、クリスティーナ、そしてハリハリが一行を待っていた。


「ユウ、皆の者、ご苦労だった。これで終わったな……」


「いえ、今日始まったのです。エルフの新しい時代が……」


「新しい時代、か……重責だな」


「お一人で担う必要は御座いません。陛下を助ける多くの者達がその荷を共に担ぐでしょう。微力ながら自分もお手伝いさせて頂きます」


「その言葉、期待させて貰おう。さて、今日はもうゆっくり――」


「お待ちを」


「何か?」


労いの席を設けようとするナターリアに待ったをかけ、悠は先ほどの案を切り出した。


「まだ働くつもりか!? お前は一連の事案の最大の功労者だ、今日くらいは他の者達に任せても誰にも文句は言わせないぞ?」


「自分は動けるから動くだけで、その事と戦の貢献は別と考えております。それで、入国の件はご許可願えますか?」


怠けるという単語を知らぬ風な悠にナターリアは唖然としたが、これもまた悠らしいかと思い直し、苦笑しつつ許可を出した。


「数百年に及ぶ戦争もユウを疲れさせる事能わず、か……分かった、好きにしろ。だが、明日の夜は空けておけよ? 国として功労者を労うのは対外的にも必要な事なのだからな」


「御意に、陛下」


必要なやり取りが終わると、悠は早速屋敷に向かうべく謁見の間を辞去した。最後まで呆けた様子のハリハリの事は気になったが、ハリハリも一区切りついて気が抜けたのだろうと思い、一路屋敷へと向かったのである。

何名か危なかったですが、一人も欠ける事なく乗り切れました。


ちなみにまだ本人達以外、ハリハリとアリーシアの結婚の事は知りません。

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