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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-157 お人好しの挽歌2

「では行くか……その前に、ペコ」


「ん?」


悠はペコに向き直ると、腰の袋からペコが身に着けている物に似た青い宝石の嵌ったペンダントを取り出した。


「今まで俺とファティマに協力してくれてありがとう。礼とするには不足かもしれんが、ファティマとこれを交換してはくれないだろうか?」


悠が取り出したペンダントは様々な褒賞の一部を路銀用に取り置いていた物だが、精緻な装飾が施されており、金銭的な価値で言えば金貨50枚は下らないものだ。だが、ペコの協力はこの一件においてその程度では収まらないと悠は思っていた。


しかし、ペコは僅かに眦を下げ、悠に問い返した。


「……おねえちゃん、つれて行っちゃうの?」


ペコは俯き、静かに淡く光るファティマに目を落とした。


「おねえちゃん、やさしかったよ? あぶないこともするけど、わたしだけはぜったいにケガはさせないって、何があってもわたしがまもるって……おねえちゃん、いつもあやまってた、ごめん、ごめんねって。……おにいちゃん、まだおねえちゃんはゆるしてもらえないの? こんなにいっしょうけんめいなのに、こんなにいっぱいごめんなさいしてるのに、ゆるしてもらえないの?」


「……」


子供だからこその直截な疑問に、悠は迂闊に返答する事が出来なかった。その場しのぎで当たり障りのない答えを口にするのは、大人としてあまりに情けない事だ。


この旅は実に悠を悩ませる事案に事欠かない旅となった。人と人の間で生きている以上、悠もまた罪とは無縁ではいられないのだ。エースロットの命でファティマを助けたように。


大人はもっともらしい理屈で子供に教える。悪い事をしたと思ったら謝るのだと。


だが、それらに関して大人は曖昧である。罪だと思わない事には謝らなくていいのか、謝られたらどんな事でも許さなくてはならないのか……それに真摯に答える大人は少ない。もしそんな疑問を口にする子供が居れば、大人は逃げ口上と受け取り叱りつけ、答えを知らない事実を隠してしまう。そして答えを見つけられないまま子供達は大人になり、同じように罪の自白と許容を強要するようになるのだ。もしくは、罪の意識を捨て、悪に妥協するようになる。自分達の罪からは目を背けつつ……。


悠が暫定的ながらも子供達を保護し先生と呼ばれている限り、ペコに対して適当な返事でお茶を濁す事は許されなかった。


「……ペコ、俺にも分からんのだ」


悠は跪いてペコと視線を合わせると可能な限り真摯に、そして優しくペコに語り掛けた。


「俺は心底悔い、行いを改める者は許されて欲しいと思う。だが、どうなるかは当事者間でしか答えを出せん。……言い方が難しいなら一つ例えを出そう。ペコ、両親を殺し、故郷の村を滅ぼした『無限蛇ウロボロス』が憎いか?」


悠の言葉を必死に理解しようとしていたペコは両親の仇の話になると口元を噛み締め、はっきりと頷いた。


「そうだろうな。では、『無限蛇』が暴れたのは自分の意志ではなく、今は大変申し訳ないと思ってペコにたくさん謝ったならペコは許せるかな?」


「っ!」


ペコはようやく悠が言わんとしている事に理解が及び、答えようとする口を凍らせた。今の話で『無限蛇』とファティマを置き換えれば、ペコにも罪とは何かがおぼろげながらも分かったのだ。


ペコは引っ込み思案だが優しい少女だ。しかし、そんなペコであっても両親を殺した相手はどんな理由があっても憎いのである。


倫理は許せとペコにいうが、感情は絶対に許せないとペコを追い詰めた。答えの出せない袋小路にペコの目が潤むが、悠はそんなペコの頭をそっと撫でた。


「嫌な事を思い出させて済まない。だが、その気持ちは忘れないでいてくれ。答えの分からない問いだからこそ、俺はファティマの顛末を見届けたいと思う。それがファティマへの答えになると思うからだ」


悠の言う事を全て理解した訳では無いだろうが、ペコは目を擦り、ファティマのペンダントを外して悠に差し出した。子供ながらにペコの答えはペコが、ファティマの答えはファティマが出さなければならないのだと伝えられたから。


「うん……」


「ありがとう。それと、ピコにこれを渡してくれ。妹さんには世話になったと伝えてくれると有り難い」


悠はペコの首に代わりのペンダントを身に着けさせると短剣を取り出してペコに持たせた。ピコは武器に興味があるようだったのできっと喜ぶだろう。


「ラグドールの許し無しには鞘から抜かんようにな」


「ありがとう! おにいちゃんよろこぶよ!」


自分がペンダントを貰った時よりも嬉しそうに、ペコは短剣を胸に抱き締めた。兄が自分の意志を尊重して送り出してくれた事を、ペコは忘れていなかったのである。


「また会おう、ペコ」


「うん! ……あのね、さっきのはなしだけど……わたし、たぶん、いくらあやまってもゆるせないとおもうの……」


悠が正直に話したように、ペコもまた真剣な表情で正直に自分の考えを悠に話した。悠もペコに許せと言っている訳ではないので頷いたが、ペコの話にはまだ先があった。


「……でもね、今はゆるせないけど、ずっとずっと、ずーっとごめんなさいっておもってくれたら……もしかしたら、わたしが大きくなって大人になったとき、ゆるしてあげられるかもしれないの……」


――このペコの言葉に大人達がどれほど衝撃を受けたか、見当もつかなかった。個人だけではなく、エルフとドワーフにも当てはまるその言葉を聞いたら、エースロットやゴルドランは感動に咽び泣いただろう。


すぐに恨みを忘れるなど、聖人でもなければ出来はしないが、相手が本当に悔いているのならばいつかは許せる日が来るかもしれない。そのいつかを実現する為に人は努力をするのである。


「いつか……そうだな、いつかは……」


ペコの話に感じ入る所のあったザガリアスはハリハリに向き直ると、深々と頭を下げた。


「……大賢者、馬鹿な妹ではあるが、エンジュの命だけは助けてやってくれまいか。反省の色が無いようなら好きにして構わんが、もし反省しているならしばらく頭を冷やした後に返還して欲しいのだ。一時は斬って捨てようかと思ったが、俺にもあいつを許せる日が来るのかもしれん……」


「ワシからも頼もう!! 帰って来たら来たでワシ直々に躾てやるわ!!」


隣のドスカイオスまでが威圧感たっぷりに頭を下げると、ハリハリは慌てて手を振った。


「王族2人で頭など下げないで下さいよ! それに、エンジュ王女は頃合いを見てお返しするつもりでした。処刑などしてはせっかくの和解が無駄になってしまいます」


「そうか……感謝するぞ、大賢者」


ザガリアスが笑顔を見せ、ハリハリも笑顔を返す。そこにはぎこちなくはあっても、確かに通じ合うものが感じられたのだった。


「さて、名残惜しいが今は互いに忙しい身、ここで別れるとしよう」


「ユウ、そちらが落ち着いたら必ずグラン・ガランに来いよ! 祖父殿の約束もあるのだからな!」


「うむ!! ユウよ、次はその力で相手をせい!! また全力で競い合おうぞ!!!」


「ドスカイオス様と自分が全力でやり合ったらあの闘技場では保ちませんな。観客の為にもご辞退申し上げます」


悠は軽く流して頭を下げると、ハリハリの手を握って浮かび上がった。


「別れを告げる者の居る戦場は悪くない。それが死別では無いなら殊更にな……義に生きる種族の王よ、次に会う日まで壮健なれ」


「その肩書きに恥じぬように精進しよう。……不謹慎かもしれんが、お前との旅は楽しかった。またな、戦友……」


「不謹慎だろうが何だろうが、お前との戦いは血湧き肉踊ったぞ、ユウ!! エルフばかりに旅をさせるのも悪かろう、次はワシがシルフィードに行ってやるわ!!」


はにかんで手を振るザガリアスと呵々大笑するドスカイオスに悠も手を振り返し、悠は高く舞い上がった。


傷付き、倒れ、死に別れすらあった、決して楽しい事ばかりの旅では無かったが、あえてそう締めくくったザガリアスと笑い飛ばしたドスカイオスの態度は悠に対する礼なのだろう。次に会う時はまた気持ち良く再会しようという、ドワーフ流の心遣いに悠は頭上で一度旋回して返答し、シルフィードに向けて飛び去ったのだった。

そして舞台はシルフィードに移るのです。

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