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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-153 ロスト・キングス3

倒れたドスカイオスの身長が縮むと、悠は切り落とした腕から2本本物の腕を拾い上げてドスカイオスの腕に接着し、『切断面を再生した。現物があるならこの方が竜気プラーナの消耗が少ないのだ。


《……どうかな、ドスカイオス様の様子は?》


少し疲れた声のエースロットに促される前に、悠はレイラと共にドスカイオスを解析していた。肉体的な損傷で大きい物は癒やしたが、問題は魂の方だ。


《ちょっと待ってね……っ!》


レイラが解析の目を凝らした時、カッと目を見開いたドスカイオスを見た瞬間、悠が槍を再び構え、ドスカイオスに突き付けた。


「我が悲願、水泡に帰すか……」


「……貴様は誰だ・・・・・?」


明らかにドスカイオス本人に呼びかける言葉としては不適当だったが、悠はこれがドスカイオスではないと確信していた。その悠の判断を後押しするように、レイラもまた鋭く問い詰める。


《ドスカイオスの魂が大きくなったからよく分かるわ。今喋っているのは別人の魂よ!》


「ドワーフ三代に渡る夢、究極の力……それを汚した貴様らは万死に値するぞ!!」


立ち上がったドスカイオスが放った言葉で悠は今喋っているのが誰なのか、答えに行き着いた。ドスカイオスを含めて三代、ミトラルが言った才能ギフトの継承……そこから導き出される答えは一つだ。


「それは貴様の野望であって、ゴルドランの、ましてやドスカイオスの夢などでは無かろう……シルバリオ、妄執の狂王よ」


悠の断定にドスカイオスは少しだけ驚いた顔を見せ、大きく口元を吊り上げた。


「そこまで至ったか、褒めてやろう。だが、狂っていると言われるのは心外極まるな。ドワーフ男児であれば最強を求めるのは至極当然の事よ」


「それに子孫を巻き込んで悪びれないからこそ貴様は狂っているのだと理解に及ばんならもう話す事もあるまい。さっさとその体から出て行け」


「断る。下郎に諭されて恐れ入るほどこのシルバリオは小心では無いわ!!」


《こいつ……本物の屑ね!》


吐き捨てるようなレイラの言葉にもシルバリオはニヤニヤと邪悪な笑みを崩さなかった。ドワーフの全てが高い精神性を持つ訳ではないというのがシルバリオを見れば嫌でも理解出来てしまう、そんな笑みだ。


悠が槍をシルバリオの眼前に突き付けるが、シルバリオは表情を崩さぬまま口を開いた。


「虚仮威しなど通じんぞ。ユウ、貴様にドスカイオスは殺せぬ。殺す力を持ちながら、未だにどうすればドスカイオスを救えるのかと考えておるのだろう? ……ククク、無駄無駄無駄ァ!! そんな甘っちょろい事でこのワシを殺れるか!!」


シルバリオは手刀を作ると、それを悠に向けるのではなく、自らの首に押し当てた。


「まだ僅かに『暴狂帝カリギュラ』の力は残っておるぞ。ククク、ここで首を落とせば貴様の苦労も水の泡、ワシの溜飲も下がるというものだ」


「……」


自分を人質にするシルバリオに悠も迂闊には仕掛ける事が出来なかった。悠が何かを仕掛けるよりもシルバリオが動く方が速いのは間違い無く、手を切り飛ばしても舌を噛まれるかもしれず、膠着状態に陥ってしまった。


悠が動けないと確信を得たシルバリオは笑みを深くし、悠に要求を突き付ける。


「ドスカイオスを救いたいのならこの場は退け。次こそはワシが貴様を殺してやる!!」


《ユウ、もはやこれまでだ! ここでこの下種を逃がすなど有り得んぞ!》


我慢の限界に達したスフィーロが槍となった我が身を震わせながら叫んだ。スフィーロに言われるまでもなく悠もシルバリオを逃がす気などなかったが、悠が寸毫でも動けばシルバリオは最後の嫌がらせとして悠達の努力を無に帰すだろう。シルバリオもまた昏い決意を固めていた。


《魂の継承……そうか、だから……》


レイラを通じて外の様子を知ったエースロットは何かに納得したように頷き、密かにレイラに尋ねた。エースロットの話を聞いたレイラは解析の目を凝らし、それが正しいと知ると悠に伝えた。


《ユウ、名を呼ぶのよ。あんな偽りの王なんかじゃない、過ちを知る、本当の王の名を!》


「無駄と言ったであろうが!! ワシが居る限りドスカイオスは目を覚まさぬわ!!」


「力だけを求めた貴様には死んでも理解出来まい。真に受け継がれるべき遺志は、魂に刻まれた想いは決して消える事など無いのだと……今こそ目覚めたまえ……!」


「だから無駄だと――」


悠は呼ぶ、王の名を。シルバリオが失念している、無念の果てに散ったもう一人の王の名を。




「――ゴルドラン!!」




星幽体アストラルに干渉する竜の力を込めた悠の声にシルバリオが意表を突かれた表情を見せた時、ドスカイオスの体はシルバリオだけの物では無くなっていた。慌てて手刀に力を込めるが、その手は凍り付いたように一ミリすら動こうとはしなかったのである。


「な、何っ!?」


「……愚かな真似をなさいましたな、父上。ですが、あなたの悪行もこれまでです」


「ば、馬鹿な……! 我が子でありながらワシの邪魔をするか、ゴルドラン!!」


シルバリオでもドスカイオスでもない落ち着いた声を放ったのは、シルバリオの実子にしてドスカイオスの父であるゴルドランであった。受け継がれる魂が才能を支えているのなら、シルバリオと同じくゴルドランの魂もまたドスカイオスに継承されているのではないか。エースロットはその可能性に気付き、レイラに解析を頼んだのだ。


ドスカイオスの口から異なる意志を持った声の応酬は続く。


「子なればこそ、父であるあなたの愚行を止めねばなりません。そしてドスカイオスは我が愛息、その身を守る為であれば儂はあなたに弓引く事も厭いません!!」


「愚息が……! 貴様など、才能を今に伝える為の乗り物に過ぎんのだぞ!!」


「そんなものはドワーフには不要!! ……エースロット王、そこに居るな?」


《陛下、お久しゅう御座います!》


エースロットの嬉しそうな声に、ドスカイオスの中のゴルドランは眦を下げて言葉を続けた。


「重ね重ね済まぬ。我が父の蛮行がドワーフのみならずお前とエルフにまで迷惑をかけてしまった……詫びて済む話では無いが……」


《陛下もまた被害者では御座いませんか! 詫びなどお止め下さい!》


「相変わらず良き男よ、エースロット……だがそうはいかん。王族が身内の不始末から目を逸らす事は許されぬ。それは同じ王たるお前も分かっていよう、エースロット?」


《陛下……っ!》


エースロットには分かっていた。ゴルドランの性格であれば己を罰せずにはいられないのだと。どんな理由があれ、戦争の引き金となった責任は果たすつもりなのだと……。


「ぬううううんッッッ!!!」


「ぐ、ぐおおおおッッッ!!!」


ゴルドランの裂帛の気合いの声とシルバリオの苦鳴が響き、ドスカイオスの体から淡い光を放ちつつ遊離していった。背後から羽交い締めにしているのがゴルドラン、されているのがシルバリオだろう。


「純粋な星幽体アストラル……よほど強固な意志が無ければここまではっきりと存在は出来まい」


再び崩れ落ちたドスカイオスの上でシルバリオは必死にゴルドランを振り解こうと暴れたが、ゴルドランの拘束は欠片ほども緩む事は無かった。


《は、離せ、離さんか!!》


《諦めなさい父上、儂を振り解けないという事は、意志力であなたが儂に劣るという事。……人族の勇者ユウよ、お前に頼みがある》


「何なりと、陛下」


悠は槍を外し、拳を合わせてゴルドランに頭を垂れた。悠にそうさせるだけの威厳がゴルドランにあると認めたのだ。


ゴルドランは好ましい者をみる目で一瞬相好を崩すと悠に言った。


《うむ、ドスカイオスとの戦い見事であった。お前なら、魂をも滅せよう。……ユウよ、儂が抑えている間に儂ごとシルバリオを討て。古の亡霊が動き回っては生者の障り、ここで幕を下ろすのだ》


《ば、馬鹿な真似は止めろ!! 魂を滅するなど……その苦痛は肉体を失う時の比では無いのだぞ!?》


《それは重畳。儂とあなたの罪を思えばそのくらいの苦痛が無ければ贖罪にはなり得ませんでな》


恐怖の表情でもがくシルバリオとは対照的に、ゴルドランは穏やかにすら感じられる口調でそれを受け流した。


ドワーフは苦痛を恐れず死を畏れずという生き様を体現するゴルドランは生粋のドワーフであった。


《陛下!!》


《さらばだエースロット、儂は一足先に逝かせて貰うぞ。叶うならばドワーフとエルフを頼む。……やれ、ユウ!》


《死ぬなら貴様だけ死ね、この出来損ないがッ!!!》


シルバリオの背中が隆起し、錐となってゴルドランの体を貫通する。星幽体は意志の力で変化するものであり、肉体では不可能な変化も行えるのだ。


《ぐおっ!?》


《シルバリオ、貴様ぁ!!》


《大人しく偉大な父に従っておれば良いものを。意志の力だと? どの口でほざくか!!》


山嵐のような棘がゴルドランを幾度も貫き、苦痛の声を上げる度にシルバリオは嘲笑を漏らした。


《ガハハハハハハハ!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね、際限無き苦痛の中でもがき苦しんで死ねえっ!!》


血の代わりに散るのはゴルドランの魂の欠片であろうか、シルバリオは一切の容赦なくゴルドランを存分に責め抜いた。


――だが、どれほどの苦痛を与えても、ゴルドランの拘束だけは微動だにしなかった。それだけが生きる証であるかのように、込めた意志がシルバリオを封じつ続けていた。


《……な、何故離さん、何故緩まん!? もうとっくに消滅してもおかしくない苦痛を与えたはずだぞ!?》


《……あなたには、永遠に分かりますまい。苦痛など、死の覚悟があれば意に介さぬわ!! ユウ、殺れい!!》


「見事なり、ゴルドラン王。……謹んでお命頂戴仕る」


《今なら我にも手が届くぞ……シルバリオ、竜の怒りをその身をもって存分に味わえ!!》


《大分鬱憤が溜まってたみたいだから今回は譲ってあげるわ……やりなさい、スフィーロ。『豊穣ハーヴェスト』は切っておくから》


《おおっ!!》


悠が再び握った『竜槍スフィーロ』が眩い緑光を放ち、物質体から星幽体へと変化していく。竜の究極の力にスフィーロは目覚めつつあった。


悠と旅をし、笑い、悩み、怒り、憤った経験がスフィーロを新たな段階に押し上げていた。精神的な成長がスフィーロを届かせたのだ。


《怒れる竜の力を死の間際に思い知れ!!》


際限なく輝きを増す槍の穂先が視認不可能な速度で回転し、悠が背後に体を捻った。


《や、止めろ!! やめろおおおおおおおおおおおッッッ!!!》


シルバリオが叫ぶが、全身全霊の力もゴルドランから逃れる事は出来ず、遂に絶望が表情を満たした時、ゴルドランが笑った。


《せめて一緒に消えるのが最期の親孝行か……ドスカイオス、達者でな……》




「……この勝利は俺の力ではない。散っていった者達の、そして今を生きる者達の正しき怒りが貴様を殺すのだ、シルバリオ! 『竜ノ赫怒アストラルデストラクション』!!」




悠の手から投擲されたスフィーロは一筋の緑光となってシルバリオの眉間を直撃、瞬間、弾けて魂を粉々に引き裂いた。痛みという範疇では言い表せない苦しみに悲鳴すら上げられず、ドワーフとエルフに徒をなし続けた元凶である狂った王は、死後の世界を含めた全てから完全に消滅したのであった。

タイトル通り、過去の王様総出演です。

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