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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-145 狂乱12

ハリハリの『次元破砕砲ディメンションクラッシャー』は『機導兵マキナ』の密集地を的確に突き、数百に上る数の戦果を上げたが、生物なら怯むであろうその戦果も感情を持たない『機導兵』には数分の猶予を得たに過ぎなかった。抉り取られ消し飛ばされても黙々とその穴を埋めて前進する『機導兵』はまだ優に1千5百以上は残っており、エルフ達にハリハリの魔法の余韻に浸る暇を与えない。


後方で見守る『水将』軍、『光将』軍、『土将』軍は援護すら出来ず後方に下がりそれを眺めている事しか許されなかった。


「ここまで来てやれる事が何も無いとは……!」


怒りに燃えるセレスティは今にも飛び出して行きそうだったが、魔法が使えない『光将』軍が助勢しても出来る事は何もないと理解しており、その衝動を必死に堪えていた。


「……っ」


その隣のナルハは、或いはセレスティ以上に危険地帯に身を置くハリハリを助けに行きたかったが、ハリハリから絶対待機の命令を受けており、それを守る為に全精力を傾けていた。沈黙で応えたのは、口を開けば地位も責任もかなぐり捨ててハリハリの下に走り出してしまいそうだったからだ。


「『火将』軍、『闇将』軍、『風将』軍は未だ壊滅状態です。その上我々までもが無意味に戦場に倒れ、ハリーティア様を落胆させてはいけません……」


理性的な発言で自制を促すベームリューも言葉とは裏腹に、目は戦場に固定されており、師であり上司であり、そして憧れでもあったハリハリの安否を窺っていた。


いずれもそれぞれの分野では並ぶ者が無い魔法の達人だったが、彼らを包むのはその自負ではなく、大きな無力感だ。


セレスティは発動しない魔法を試しては歯噛みし、ナルハは自分の細腕に溜息を吐き、ベームリューは満足に振るえないであろう剣の輝きに憧憬を浮かばせた。今彼らが欲しいのは、原始的で物理的な力であった。


それを体現する者が2人、エルフ軍の先頭で『機導兵』を切り倒して吼える。


「どきやがれ!!!」


バローの神速の剣が壁となって迫る『機導兵』の体を上下を分断し、


「ルゥゥゥアアアアアッ!!!」


ギルザードの大剣が殴り飛ばすように『機導兵』を吹き散らす。


もし四方八方を『機導兵』に囲まれても2人には切り抜ける自信があったが、広い空間であるが故に2人だけに『機導兵』を集中させる事は叶わず、取りこぼしが背後に流れるのを止める事は出来なかった。


二番目の壁はバローとギルザードの背後で奮闘する『過重戦鎚グラビティハンマー』隊と国軍の兵士達だったが、彼らの殲滅速度は前述の2人とは比べ物にならないほど遅く、損傷率もまた高かった。


「クソッ、どんどん湧いて来やがる!!」


「囲まれたらあっという間に魔力マナが枯渇するわよ! 手が空いている者はフォローに回って!」


オルレオンとヴェロニカが必死に檄を飛ばすが、既に手の空いている者など誰も居らず、ゲオルグとハリハリが遊撃隊として戦場を駆け回らなければならなかった。


「大賢者様よ、ちと国軍の兵士がヤバいぞ!」


「プハッ! あちらのフォローはお願いします! ここはワタクシが引き受けますから!」


次元断ディメンションカッター』で『機導兵』の頭を叩き割り、ハリハリは一瞬の空隙を生かして『龍水ドラゴンウォーター』と『魔力回復薬マナポーション』を立て続けに飲み干しながらゲオルグに命令を下した。もう何度目かになる補給もそろそろ限界が近いが、『機導兵』はようやく千を割り込んだかどうかというところだ。ここで踏ん張らなければ一気に全滅へと雪崩込みかねない。


「ミルヒ、お前は下がれ!」


「……済みません兄上……!」


兵士の中でも特に接近戦を鍛えたロメロとミルヒの兄妹はギルザードの補佐として国軍の部隊長を務めていたが、やはり女性のミルヒはロメロに比べて体力、筋力に劣り、回避もままならなくなっていた。『魔法鎧マジックアーマー』で攻撃は防いでいたが、『魔甲殻』で高めている防御力が弱まればそれも望めないだろう。


意地を張らずに後退しようとした刹那、純魔銀ピュアミスリルの『機導兵』の突撃が足のもつれたミルヒを襲う。


「くっ!?」


「ミルヒッ!」


咄嗟に鎧で攻撃を受けたミルヒだったが、その防御でなけなしの魔力は底を付き、荒い息を吐き膝を付くが、脅威が排除された訳ではない。ミルヒが隙を見せた途端、周囲の『機導兵』もまたミルヒを屠らんと殺到して来たのである。


『機導兵』は以前よりも確実に最適行動を行うようになっていた。それが『機神兵デウス・マキナ』の影響だとミルヒ達は知らなかったが、指揮能力だろうと学習の成果であろうと、危険度が増した事に変わりはない。


「っ!」


誰も助けに入れないミルヒの窮地にロメロはせめて自分の体を盾にしようと悲壮な決意を固めたが、思わず目を閉じかけたミルヒの頭上を輝く閃光が通り過ぎた時、『機導兵』達の体は斬線を残してガラガラと崩れ落ちた。


「諦めてんじゃねえ!!」


幾多の音が重なる戦場でその声が届いたのは偶然であったのだろうか。手にもう一本の剣を持ったバローが振り抜いた姿勢のまま射抜くような目でミルヒを見た後、口元を緩めて無音の声を放つ。


(わ)


(ら)


(え)


唇の動きを読みそれが伝わると、ミルヒはハッとした表情の後に痛みも疲労も無視し、無理矢理笑顔を作って見せた。すると、遠くのバローが踵を返し、剣を大きく掲げてみせる。


まだ俺は健在だ、お前の笑顔に力を貰ったとでもいう風にバローは自ら密集地へと駆け出して行った。


「何度、我々は奴らに助けられるのか……」


ミルヒを引き起こし、ロメロが万感の思いを込めて強く剣を握った。もしバロー達が居なければ、エルフィンシードは今頃滅んでいただろう。金属かねの足が故国を蹂躙し、物言わぬエルフの亡骸は誇りや尊厳と共に踏みにじられて土に還ったはずだ。


「兄さん……」


「剣で戦うなど、野蛮な事だと思っていた……だが、違うのだな。そこに懸ける想いがあれば、あんなにも輝くのだ……!」


街に居た時はやれ女だ酒だと欲望に忠実なバローに呆れたものだったが、こうして戦場で死地に立つバローは別人のように雄々しく、その背中は大きかった。自分達の前方で孤軍奮闘するギルザードも普段の砕けた雰囲気は無く、内なる激情を解放しているのだと今なら分かる。


「まだだ、まだ死んではならん! シュトーレンの家に生まれたからには、借りは返さねば!」


「はい、兄さん」


刻一刻と悪くなる戦況の中で兄妹は強い笑みを交わした。たとえ泥を啜ってでも勝ち、生き残るのだ。




――一人一人の努力と願いが一念天に通じ、想い等しく叶う時。人はそれを奇跡と呼ぶ。




どこからともなく空を切り裂く音に、バローは天を仰ぎ、破顔して視線を戻した。大仰に喜んで叫ぶ必要など無いのだと言わんばかりに。


ギルザードは大きく口元で弧を描き、景気付けに大剣の腹で手近の『機導兵』を打ち上げる。『機導兵』の残骸でその降臨を彩るように。


ハリハリは眉間の皺を解き、不謹慎とは思いながらもヒュウと口笛を吹く。奇跡の顕現を祝福するように。


「いつもよりちっとばかり遅ぇが、大負けに負けて間に合ったって事にしておいてやるか!」


「やはり分のいい賭けだったが、配当金は期待出来そうだ」


「ヤハハ、エルフからも『大愚者ザ・フール』と呼ばれずに済みそうで何よりです」


3人の言葉が何を差しているのか分かるエルフはごく少数だったが、天から降る一筋の赤光は戦場の全ての者が目撃し、地面スレスレでブレーキをかけると纏った光を弾けさせながらその姿を現した。




「ザガリアス、よもや腰を抜かしてはおらんよな?」


「陛下ってば、ちょっと震えてるんじゃない?」


「だ、誰に言っている!! これは……武者震いだ!!」


「ならば働いて貰おうか」




緊迫した戦場で気負いなくいつものやり取りを交わす悠はそのまま呆けるドワーフの本陣まで移動すると、ヒョイとザガリアスを下ろしエルフの前線に舞い戻った。


「どけ、人形共」


ついでとばかりに『機導兵』の側を飛び、翼に触れた『機導兵』達を切り刻んで悠とファティマは地上に舞い降りた。


「ファティマ、後は頼んだぞ。あの汚い髭面か、その隣の軽薄そうなエルフに言えば話は通る」


「了解!」


「誰が汚い髭面だよ!」


「軽薄そうなエルフって酷くないですか!?」


「2人共自覚があって何よりだ。ここは任せたぞ」


言うなり、自由になった悠は翼をはためかせると、低空飛行で『機導兵』達をラッセル車のように押し潰しながらもう一つの光の方へと飛び去っていった。バロー達以外に何が起こったのか分からないエルフ達だったが、不敵に肩を竦めるファティマがバローとハリハリに話し掛けた。


「いいのかい? 今が戦線を立て直す好機だと私は思うけど?」


「なんだこのチビっ子は?」


「私はファティマ、ユウの恋人さ」


「はあ!?」


「それはまた……ヤハハ、ユウ殿ったらこんな可愛らしい現地妻連れとは……ですが、くれぐれもウチの女性陣の前では言わないで下さいね」


割と真剣な目のハリハリにニヤリと笑い、ファティマは頷いた。


「知ってる。シャロンの良い人を掠め取ろうとは思わないよ」


「ふむ、どうやら色々事情に通じていそうですね。差し当たって我々はどうするべきですか?」


見た目で判断しないハリハリに表情を改めたファティマは指を立て、策を示した。


「私を信じてくれるなら良い策があるよ」


「ユウ殿が信じた相手ならワタクシも信じますとも」


「じゃ、あっちに向かって迂回しようか?」


ファティマは立てた指を真っ直ぐにドワーフに向けたのだった。

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