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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-135 狂乱2

一方、アガレス平原のドルガンはと言えば、決死の覚悟で決戦の準備を進めていた。


「若様、いや、陛下は罪には問わんと仰せられたが、エンジュ様をお止め出来なかったのは我が不明。せめて幾許かでも失地を回復せねば陛下に合わせる顔など無いわ!」


と、いうのがドルガンの主張であり、決して功名に逸っての行動では無かったのだが、結果としてそれがエルフ側の警戒心を刺激し、全面戦争の気配をもたらしたのは判断に苦しむ所だ。ザガリアスもそうなる予感を薄々と感じ、追加兵力がアガレス平原に向けて出立していたが、間に合うかどうかは微妙なラインであった。


かくしてエルフとドワーフの運命の朝がやってくる。




薄暗い牢獄の最も奥で一人怒りに燃える人物をクラフィールとギリアムが訪ねたのはまだ早朝というべき時間帯の事であった。


「……何だ貴様ら。わざわざオレを早くから叩き起こした正当な理由があるのだろうな!?」


「はい、ベヒモス様」


恭しく頭を下げ――伏せた目には侮蔑の光が宿っていたが――、クラフィールはギリアムが押してきた台車に乗せられた木箱の封を解き、内部に光を当てた。


「むっ!?」


僅かな光を燦然と反射する大甲冑にベヒモスの口から思わず感嘆の声が漏れ、クラフィールは密かに微笑むと、さも誠実そうな顔でベヒモスに向き直った。


「前の戦闘においてベヒモス様は不覚を取られましたが、私はあれが正当な決闘の結果とは思っておりません。不意を突き、武装に任せてベヒモス様に勝ったと吹聴する人族の驕慢にはドワーフの一員として腹の据えかねる所。そこでベヒモス様にドワーフの技術の粋を結集したこの甲冑をお試し頂きたく早朝より参上致しました」


「これをオレに? 兄者ではなく?」


訝しげな視線を送るベヒモスにクラフィールは用意していた台詞で応えた。


「ドスカイオス様は最強なれど、もうお年でお体が保ちません。なれば、それに次ぐ力をお持ちのベヒモス様にこそご協力を願いたいのです。……いえ、これを纏えば、ドワーフ最強はベヒモス様のものとなるのは相違ありません」


「ドワーフ最強……このオレが……」


ベヒモスの目に欲望の火が灯り、太く節くれだった指が鉄格子を握り、ミシリと軋ませた。


「……ならば、オレとあの人族をもう一度戦わせろ!!」


「もちろんで御座います。我々の意見であれば陛下も無視は出来ないでしょう」


クラフィールは懐から牢の鍵を取り出すと、それを鍵穴に近付けたが、その手をギリアムが掴んだ。


「……離しなさいギリアム」


「クラフィール、やっぱりこんなのは間違ってるさ。ユウはちゃんと力を示して……」


「本当に馬鹿ね、あなたは……」


「何を……がっ!?」


ギリアムの手を握り返したクラフィールの手から発せられた強烈な電撃に、ギリアムは体の自由を奪われ倒れ込んだ。


「クラ、フィール……!」


「土壇場でひっくり返すなんて許さないわ。さあベヒモス様……」


「おおよ!」


クラフィールの手で開かれた牢からのそりと潜り出たベヒモスは痙攣するギリアムを鼻で笑い、『機神兵デウス・マキナ』と相対した。


「ククク……こうして対峙しているだけでも背筋に感じよるわ……! かの覇王鎧でもこれほどの力は持つまい!」


「少々大きゅう御座いますが、内部で合わせますので問題はありません。補助動力も装備されていますので、動きにも問題は無いかと」


「能書きは十分だ、着てみれば分かる事よ!」


血気に逸るベヒモスはそれ以上は不要とばかりに『機神兵』に触れると、甲冑の前面が自動的に開き、搭乗スペースが目の当たりとなった。もし搭乗して動かすタイプの機動兵器を知る者が居れば、それをコクピットと称するだろう。


ベヒモスが誰に問うでもなく内部に入り込み、コクピットに身を沈めるのを確認してからクラフィールは懐から澄んだ結晶を取り出した。


「動力源の高純度の魔石です。これを取り付ければ……」


一旦開いた甲冑を閉じ、クラフィールは胸の中心をぐるりと囲む窪みの一つに手にした魔石を嵌め込んだ。


ベヒモスには言っていないが、『機神兵』は完全稼働させる場合は全ての窪みに魔石を嵌め込み、更に中心にメインとなる動力源を装着する事で本来の機能を発揮させるものだ。だがクラフィールも馬鹿ではなく、この獣のような男を信じてもいないので、最低限、短時間の稼働で済むように安全面には注意を払っていた。万一邪な目的に使おうとしても、機能を遮断する安全装置ブレーカーをしっかりと準備しているのである。


(ギリアムは臆病過ぎるのよ。稼働するかどうかだけを見るならこの男で十分なんだわ。もしおかしな真似をしたらこの場で死んでも……)


「う、む……!」


クラフィールが考えている間にも『機神兵』は着々と稼働状態に移行していき、内部からベヒモスのくぐもった声が聞こえると、目に相当する部分が光を放った。


ヴン……。


《……『機神兵』始動……搭乗者資格確認、探索針挿入……》


「な!? あ、頭が、ががガガ!!」


「く、クラフィール、やめるさ……!」


「もう遅いわ! あなたはそこで見ていなさい!」


苦痛を感じたベヒモスの声にギリアムが制止を呼びかけても、クラフィールはじっとそれを見ているだけだった。最悪失敗しても、何が悪かったのかを確認しなければならないのだ。


――その研究者としての気質と復讐心が止めるべき最後の機を失わせるのだとしても。


「え、ぐ……ゲ、ガガガガガギギギギギグゲゲゲゲゲゲゲ!!!」


まともな生き物が出すとは思えない悲鳴とも絶叫とも分類出来ない声にギリアムの背筋が総毛立ち、最大限の危機を伝えた。一体中で何が起こっているのかなど考えたくもないが、ベヒモスに重大な変化が起こっているのは間違いない。


《……才能ギフト適合率32%、第一稼働段階クリア。残存自我、ノイズとして処理……》


「ガべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべ!?」


「クラフィール!!」


「黙って!!」


理解し難いアナウンスと共に『機神兵』の手足が、首がガクガクと動き出す惨状にクラフィールの頬が熱を帯びた。自らの希望の結晶が遂に動き始めたのだ。


「もっと、もっとよ! 動きなさい、ナザルギア!!」


死にかけの虫のようにデタラメに動いていた『機神兵』がそれに応えるようにより激しく痙攣を繰り返し、不意に脱力して首がガクンと俯くとクラフィールの目に失望の色が過ぎったが、垂れた首はゆっくりと元の位置に戻り、再び声が流れた。


《……『機神兵』機動。魔力供給率5%。魔力補給を要請》


「やったわ!!」


「く、クラフィール、ベヒモス様は!?」


「慌てないでよ。……聞こえますかベヒモス様?」


「……きこえ、る……魔力、不足……」


やや不明瞭ながらもベヒモスの声が答えると、クラフィールはギリアムに勝者の笑みを向け、上機嫌に問いかけた。


「着心地は如何ですか? 何か不都合は?」


「問題、無い……力が溢れる……ヴ……魔力不足」


「ああ、魔力が足りないのですね? ですが今はこれで……」


「オレが、最強……ヴヴ……ま、魔力不足、魔力不足!」


「ですから……っ!?」


クラフィールは十分に警戒していたつもりであったが、それでも瞬時に自分を捕らえたベヒモスの手を回避する事は叶わなかった。慌てて指を外そうと全力を振り絞ってもベヒモスの手は万力の如く締め付け、クラフィールの口から苦痛が漏れる。


「ぐ、ううっ!」


「《魔力不足、魔力不足、即時供給、即時供給!》」


電子音声とベヒモスの声が混ざり合い、耳障りな声が牢獄に響き渡るが、止められる者は誰も居ない。クラフィールは捕らえられ、ギリアムは未だ麻痺から回復していなかった。


「クラフィール!!」


「な、めるな……!」


クラフィールの命は風前の灯火と思われたその時、鎧の内部が激しくスパークし、ベヒモスにギリアムの時の数倍に達する大電流が流された。予め規定時間までに解除しなければ流れるように仕掛けておいた、クラフィールの安全装置だ。


耐久力の高い王族であれ、まともに浴びれば死の危険性すらある大電流にクラフィールは解放を予測し……。


「《……内、部に魔石反、応……接続……》」


「……え…… ギャッ!?」


問題無く動き出した『機神兵』に予測を覆され、地面に叩き付けられて赤い花を咲かせたのだった。

ちょっとほのぼの感のあるエルフ側と違い、牢獄内はシリアスです。

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