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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-130 謎は謎を呼び……5

「突然平伏されても自分にはそうされる理由が思い当たりません。まずは頭を上げ、詳しい事情をお話願えませんか?」


ラグドールに視線を送っても彼らの行動に疑問を抱いているのは同様らしく首を振るので、悠は直接ハクレイに語りかけた。


「……ぜたい、だれにも、もらさない、やくそくして、くれますか?」


「先に聞いておきますが、それはドワーフやエルフに関係する事でしょうか? もしそうなら自分は誓えても報告の義務のあるラグドールにまでそれを強制は出来ないのですが……」


「どワーフも、えるふも、かんけいなイ、です。これは%℃☆……らどくりふ、だけの、こと。もし、ほうこくする、おうだけに、してほしイ」


ラグドールは監視役であり、悠の行動に報告義務を負っているので迂闊に約束出来ない悠が念を押すと、ハクレイはザガリアスに限って許諾した。


「という事なのだが、ラグドール、こちらの大陸に関わらない事なら秘密を守って貰えるか?」


「ユウ殿がそう仰るのであれば儂は口を噤みましょう。ただし、本当にドワーフに仇なす話ではない事を条件にさせて頂きますが……」


「それでいい。では、今からされる話はここだけの話という事で。ハクレイ殿、お話下さい」


「は、はイ……」


悠に促され、ハクレイは恐る恐る顔を上げかけたが、なかなか本題を口にしようとしなかった。また伏せた顔からチラリと悠の顔を見ては口を開こうとして果たせず、言い出せずに逡巡を繰り返す間、悠は急かさずに待ったが、背後の男が先に我慢の限界に達したようで悠に話しかけた。


「……どこで拾ったか知らないが、それはラドクリフに生きる者にとってのみ必要な物、金はくれてやる、それを寄越せ!!」


「トウロウ!!」


ハクレイが驚いて鎌の男、トウロウを叱りつけたが、トウロウは懐から金属音のする袋を取り出すと、悠の前に投げつけた。


「……ハクレイ殿、人虫族インセクトは取引の際に相手に金銭を投げつけるのが礼儀ですか?」


悠は表面上礼儀を崩さなかったが、ラグドールとファティマはこの後の展開が容易に想像出来、共に顔から血の気を引かせた。相手が対等の立場で接せず礼儀も守らないなら、それに唯々諾々と従う男ではないと知るが故だ。


「ち、ちがます!! なにするかトウロウ!?」


「ハクレイ様こそ人族などに頭を下げて恥ずかしく無いのですか!? ドワーフならまだしも、こんな連中には金をくれてやれば良いのです!! ……おい人族、そこに入っている金でお前は一生遊んで暮らせるだろう、分かったら『百獣王の欠片ガイア・ピース』を渡せ!!」


「断る」


悠は袋の中身を一瞥すらせず切り捨て、言葉を続けた。


「遊んで暮らす暮らしに興味はない。そしてそれ以上に礼儀知らずから金を受け取ろうとは思わん。……ハクレイ殿、残念ですが自分は失礼させて頂きます」


「ま、まてくださイ!!」


「そうだ、行くなら『百獣王の欠片』を置いて――」




シャッ!




トウロウは悠とドスカイオスの戦闘を見て十分に警戒していたつもりだっただろう。だが、悠の腕から走った白閃はその警戒を遥かに上回る速度で空を裂き、トウロウの首に巻き付いて締め上げた。


「グゲっ!?」


悠の制限された反射神経でも知覚ギリギリの速度でトウロウを襲ったのはいつの間にか擬態をやめた『無限蛇ウロボロス』であり、悠に対しては穏やかですらあった時とはまるで異なる殺気を放ち、鎌首をもたげてトウロウを威嚇した。


「ご、がぁ……っ!」


「や、やめて、*$☆▽≒!!」


ハクレイが必死に制止を促しても『無限蛇』はシャッと威嚇音を放って追い払うだけでトウロウの首を絞め続け、どれほどの力が込められているのかトウロウの首にめり込み、あと数秒もしない内に絞殺死体が一つ出来上がるだろうという所で悠が制止の声を放った。


「もういい、ここで人死にが出るとドワーフに迷惑がかかる」


その声に『無限蛇』はフッと力を抜き、気絶したトウロウから離れると、悠の足に巻きつきスルスルと上に登って悠と見つめ合った。回復したのか、以前より長く大きくなっているようだ。


「お前、助けてくれたのか?」


言葉を理解しているのは以前から知っていたので悠がそう尋ねると、両頭の白蛇は悠の頬を両方から舌でチロチロと舐め、それをもって返答に代えた。既に殺気など微塵も残っておらず、愛玩動物ペットとしか思えない仕草に、悠も一応感謝の意を表す為に片方ずつ顎の下を指で撫でると身をくねらせて喜びを表現した。それを見たハクレイはこれ以上ないくらい目を見開き、愕然と悠に尋ねた。


「ま、さか……おきて、いる、ですか?」


「この蛇の事でしたら紆余曲折あって自分が預かっています。自分の意思があるようですので、いくら金銭を積まれてもお譲りする事は出来ません。それ以前に、まともな目的に使われるとは思えませんので、交渉はこれまでとさせて頂きます」


今は理性を取り戻しているが、『無限蛇』が暴れ始めればその犠牲は計り知れず、『無限蛇』をただの力としか見做していない相手に渡すのは危険過ぎる話であった。『百獣王の欠片』とやらの情報は欲しいが、多数の命と天秤にかけるものではないのは言うまでもない。


「ちが、トウロウは……! ◆◎☆※♯!!」


取り乱し、言葉が戻っているのにも気付かずハクレイは決死の表情で悠の足に取り縋った。言葉は通じなくてもハクレイが悠を引き留めたがっているのは分かり、悠は感情を宿さない瞳でハクレイを見つめ問いかけた。


「……次に同じ事があれば、自分は忙しい身ゆえ打ち切らせて頂きます。それと、後ろの者達は信用出来ません、しばらく離しておいて頂けますか? また話の腰を折られるのはハクレイ殿も望まぬ事でしょう」


「あ、ありとう、ござます!! ▽÷&▼■!」


ハクレイは背後を振り返り厳しく男達に言いつけると、今度は男達も慌てて首を振って頷き、気絶したままのトウロウを担いで部屋を出て行った。悠に向けた別人のように怯えた視線が『無限蛇』に対するものか悠に対するものかは分からなかったが、話をする気のない相手の恐怖など悠が気にするはずもない。


「ですが、ぜんぶ、せつめい、むつかしい。ワタシ、ことば、うまくない……」


ハクレイは自分の伝えたい事の説明が込み入ったものになり、それを上手く伝えられないのではないかと懸念しているようだったが、その意を汲み取った『無限蛇』が悠の目の前で首を縦に振ると、長さは保ったまま細くなり、クルクルと悠の頭に巻き付いて片方の頭は耳に、もう片方の頭は悠の口元に伸びた。科学技術が発達した世界から来た者なら、それをインカムと評するスタイルに転じた『無限蛇』に悠が口を開く。


「これは……」


「っ!? ユウ様、私の言葉が分かりますか!?」


「はい……なるほど、ハクレイ殿の言葉と俺の言葉を同時通訳しているのか」


竜の能力の外部出力版とも言うべき力はレイラが休眠状態の悠には非常に有り難い機能であった。回復して出来るようになったのかどうかは分からないが、爬虫類的なデザインの良し悪しを除けば欲しがる者は大勢居るであろう。単に意味だけではなく、悠とハクレイの声音の再現も見事なものである。


「『無限蛇』が自分の言葉とハクレイ殿の言葉を通訳してくれているようです。これで意志の疎通に問題は無いかと」


「『無限蛇』? ……ああ、こちらでの『無尾双蛇ミトラル』様のお名前ですか?」


《《そう、私、ミト(ラ)(ル)》》


「喋った!?」


ドワーフ語と獣人語で同時に名乗った『無限蛇』、いや、ミトラルにラグドールの顔に緊張が走った。暴走していたのだとしても『無限蛇』は長い間ドワーフを苦しめて来た恐怖の代名詞であり、ラグドールにとっては部下の仇でもある相手だ。意志の疎通が叶うのなら、言いたい事は山とあった。


「……っ!」


《《私憎む、当然。でも私、覚えてない。だから私、ユウ、手伝う。それが贖罪、駄目?》》


憎しみを湛えた目で睨むラグドールに淡々とした口調でミトラルは述べ、悠が割り込んだ。


「ラグドール、気持ちは分かるがこちらの話を優先させてくれ。今のミトラルと以前の『無限蛇』は同一とは見なせん」


「……分かっております。いえ、分かっておるつもりなのです……」


気の短い者であれば積年の恨みとばかりにミトラルに斬りかかってもおかしくない場面でラグドールはよく耐えたというべきであった。それでも握る拳に力が入るのは止めようもない憤りがあるからだ。


それに反し、ファティマの目には相哀れむ色が見え隠れしていたのは、共に許されがたい罪を犯し、それを償おうとする者同士の共感だろう。であるからこそ、ファティマには発言権が無かった。


「……ユウ様、『無尾双蛇』様を呼び捨てにするのは……」


ハクレイは悠がミトラルをぞんざいに扱っているように感じたのか、畏まりつつもやんわりと注意を促したが、悠が答える前にミトラルがそれに答えた。


《《人虫族の娘、それ、私、決める事。差し出口、控える》》


「も、申し訳御座いません!!」


ミトラルに鋭く言われ、ハクレイは再び床に這い蹲った。どうやらミトラルは人虫族、というより獣人達にとって非常に敬意を払うべき存在であるらしい。そんなハクレイにミトラルは更に言葉を続けた。


《《ユウ、私、力、示した。だから私、ユウ、選んだ。『守護獣ガーディアン』》》


「『守護獣』に!? そんな……人族の『守護獣』など、蛇人族ナーガが何と言うか……!」


《《関係無い。人族、遠い、我々の子。蛇人族、私、見つけられなかった。それに娘、お前、私、欲するの、同じ事。力、得たいだけ》》


「そ、それはっ! ……それは……」


「……どうも色々事情があるようですが」


ミトラルの指摘に勢いを失ったハクレイに、悠が口を挟んだ。


「きちんと説明をして頂きたく思います。自分も初耳ですので」


「あ、は、はい……」


悠に促され、ハクレイはぽつぽつと事情を語り始めた。

ミトラルは正確にはミトラとミトルがそれぞれの頭の名前です。この章ではそれほど深く踏み込みませんが、ハクレイは今後も話に絡んで来るキャラなので。


早めに本題に戻りたいと思ってます。

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