表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
1067/1111

閑話 夢で逢いましょう

前半で少し回想し、後半で大きく脱線するので閑話にしました。

~・~・~・~


「ファティマ様、ファティマ様!」


「……う、ん……?」


「もう、せっかく遊びに来て下さったのは嬉しいですけど、寝てばかりでは私、寂しいです」


「あー……そんなに寝てたかい、私は?」


「呆れるほどにな。……正式な訪問を装っていても、あまり長居すると不味いのだろう?」


ファティマはこの問答が遠い記憶が呼び起こした夢なのだと、他人事のように理解していた。窓のない、対外的には存在しない部屋の中だけで生活するシャロンと、その世話をする友人のギルザードを訪ねた時の最後の日だ。


事実、ファティマが話そうと思わなくても口が勝手に答えを返した。


「済まないね、この所忙しくて……冒険者ギルドが軌道に乗るかどうかの瀬戸際なんだよ。ここに来たのも、この国にもギルドの窓口を作らせてくれないかという交渉という建て前でね」


「捨てた国に頼みに来るなど、お前は全くいい根性をしているよ」


「ファティマ様が国を出られると聞いて、私達驚いたんですよ?」


「はは……ゴメンゴメン。でも、いつか絶対に必要になる日が来るんだ。いつか、きっと……」


そう、いつかきっと必要になる日が来るのだ。最高位の冒険者の資格を得る男が、『真祖トゥルーバンパイア』となったシャロンと、デュラハンとなったギルザードを救う為に……。




「とんだ偽善者だな。そんな事で我々がお前を許すとでも思っているのか?」




突如として酷薄に響いたギルザードの声に、夢に身を委ねていたファティマの顔から血の気が引いた。こんな展開は、現実には無かったはずだが、いつの間にかシャロンとギルザードの顔はファティマに対する怒りと軽蔑を色濃く宿したものにすり替わっていた。


「ぎ、ギル……?」


「貴様に馴れ馴れしく名を呼ばれる筋合いはない!! ……よくもまあ親身な振りをして謀ってくれたなぁ? お前を疑いもしない私達は滑稽だったか? それとも哀れだったか? 罪の意識を感じていれば、自分は真っ当な人間で居られるとでも思っていたのか!?」


「私達なんて人間じゃ無くなってしまったのに……」


恨みを吐き出すギルザードの首に朱線が走り血が流れ、シャロンの目が赤く染まり牙が伸びると、ファティマは尻餅をついて首を振った。


「ち、違う、違うんだ!! 私は、最悪な道だけは回避しようと――」


「なんと傲慢な考えだ、自分の才能ギフトが絶対で、他人などまるで信じていないとは貴様、神にでもなったつもりか? 他人の人生を弄んで、気持ちを裏切って……!」


「せめて、生き返らないように殺す方法を探して下されば良かったのに……味方の少ない私にとって、楽しい話をしにわざわざ足を運ばれるファティマ様はもう一人のお姉様のような存在でした。でも、ファティマ様は違ったのですね……」


「そうじゃない!! 私を信じてくれ!!」


「「誰も信じていない者を誰が信じる?」」


「っ!」


これは夢だと言い聞かせても、ファティマは震えを抑える事が出来なかった。2人の口を借りていても、それは確かにファティマ自身が心の奥底で思っている事に他ならないからだ。


「シャロン様を捕えられ、その目前に引きずり出されて首を刎ねられた私の無念が分かるか? その時のシャロン様の悲しみが貴様に分かるのか!? その御大層な才能とやらはそれも余さず貴様に教えてくれたのか!!」


「や、やめてくれ、もうやめてくれ!!」


「いいえ、やめません。だって、私達はこれから千年もの間流離い、彷徨い、苦しみ続けなければならないんですもの。ねえファティマ様、目を覚ました時、ギル以外に誰も居なくなった国を見た私が何をしたか知っていますよね? 何度も何度も死のうとして、止めようとするギルを殴り飛ばして、狂って人を襲ってまた死のうとして……いくつの町や村を滅ぼしたでしょうか。あの頃の私は血を吸って作った下僕まで皆殺しにするから『下僕殺しスレイブキラー』なんて呼ばれていたんですよ? ギルだけを供とする、下僕殺しの吸血姫。助けようとした人に騙されて殺されかけた時なんか、もう情けなくって悔しくって……」


ようやく積年の恨みを吐き出せる相手を見つけ、シャロンの顔は鬼気迫る笑みを浮かべていた。もはや言葉を発する事すら出来ずに蹲るファティマだったが、その一方でこれが自分が望んでいる事なのだと悟った。


ギルザードとシャロンにあらん限りの罵詈雑言を浴びせられ、恨み節を聞かされ、言い訳を木端微塵に粉砕され断罪される事こそがファティマの望みなのだ。だから夢から醒めないし、どこかで昏い喜びすら感じているのだと。


だが、そうではない、それだけではない。人の心はただ一つの感情だけで動いているのではない。




「その先にあるものは何だ?」




ハッと顔を上げると、そこには見慣れて来たはずの悠の、五体満足な姿があった。


「……ユウ……?」


「お前は罰を欲しているが、罪が罰で贖われるのなら、お前が真に欲しているのは罰ではない。……許されざる罪はあるかもしれんが、許されたくない者は居らん。罪を犯し罰を受け、お前が欲するものは何だ?」


「私が、欲するもの……」


夢の中で、ファティマは自制が利かない自分の口から漏れるのを聞いた。




「……許されたくない、許されたくないけど…………ゆ、許して欲しいんだ!!! 罵られてもいい、殴られてもいい! 殺されたって構わない!! だけど、だけど、その後に、許して欲しいんだよ……!」




言ってから慌てて口を押えたファティマだったが、悠は深く頷くと手を振るい、幻影のギルザードとシャロンを掻き消した。


「ならばそうなるように努力するべきだ。こんな夢の中で自罰的な幻影で晴らしても救いには遠い」


「……キミは本当にイヤな奴だよ。出会ったばかりの私の心を丸裸にするなんて……」


「……夢の中で迂闊な事は考えん方がいいと思うがな……」


「え?」


と、肌寒さを感じたファティマは自分が一糸纏わぬ姿で悠と向かい合っているのだと気付くと、慌てて体を隠した。


「な、な、な……!」


「夢は精神が上位の世界だ、服も体もそれに引きずられる。……まぁ、俺は気にせんが」


「ば、馬鹿!! 私が気にするに決まってるじゃないか!!!」


もっともな意見であり、気が動転して服を上手くイメージ出来ないらしいファティマに自分のマントを外して被せると、ひょいと横抱きにして持ち上げた。


「わあっ!?」


「ペコの眠りが深かったからいいものの、子供に見せるには良くない悪夢だ。寝ている時くらいはもう少し楽しい事を考えるんだな」


「そ、そんな器用な真似、普通の人間に出来るかっ!」


「慣れれば誰でも出来る。俺も寝ている時にも鍛錬出来ないものかと練習している内に出来るようになったからな」


「……馬鹿だ……本物の馬鹿だ……」


悠の修行馬鹿発言に呆れたファティマのイメージが作用したのか、周囲の風景が崩れ、何もない空間を悠とファティマは漂った。落下するでもなくふわふわと羽毛のように舞う感覚に、ファティマの体から力が抜ける。


「……はぁ、凄い男だとは思っていたけど、ここまで規格外で常識外れな人物だとは思わなかったよ。シャロンが救われるには、キミくらいじゃないと駄目だったんだろうね……」


「俺は少しだけ手を貸しただけで、前に進んだのはシャロンだ。自分以外の誰かの人生に責任が持てるほど御大層な人間だとは思わないで貰いたいな……目覚めが近いか」


不意に悠の顔がファティマの顔に接近し、ファティマは心の準備が整わずに慌てた。この流れは間違いない……接吻キスだ!


だが、ここで慌てるのは無様にもほどがある。女の矜持にかけ、ファティマは作法にのっとってそっと目を閉じた。今は精神の存在であり、何をしてもペコを損なう事にはならないはずだ。姿形も生前の自分であり、何よりここまで(文字通り)赤裸々に恥を晒し、かつ世話になったからには欲情の一つや二つ、受け止めてやるべきだろう。きっと先ほど見た自分の体に悠も催したに違いない。そう思えば可愛いものである。


「そうだ、目を閉じていろ、じきに済む」


悠の吐息を鼻に感じ、更に接近した悠の額がファティマの額と重なって――




「……あれ?」




何事もなく、ファティマは寝台の上で目を覚ましたのだった。

精神的なケアは夢の中までバッチリな悠。といってもレイラが居る時ほど色々は出来ないのですが、十分な気がする……。


急にシャロンとギルザードが壊れたんじゃないかと思われるかと思って前書きもつけました。責めがえぐい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ