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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-127 謎は謎を呼び……2

延々8時間、悠とファティマは過去の記録を漁り続けた。子供の体のファティマは体力的に限界に近かったが、その顔にあるのは不敵な笑みだ。


「身長そのものに言及する資料は少なかったけど、対比物や挿し絵、比喩でおおよそは裏付けを得られたと言っていいね。やはりゴルドラン王からドワーフ王族は巨躯化し、それが現代まで受け継がれているんだ」


「それに伴い能力も増しているようだな。話半分に見ても、ゴルドラン王以降の王族は英雄譚が明らかに増えているようだ。それが王族の権威と結び付き、いつしか王族が巨躯であると意識がすり替わっていったのだろう。王族にとっても統治が容易になり、特に必要もないゆえ下の世代には口伝されなかったという所か」


「だとすると4代前の王様、シルバリオ王はよほど自信があったんだろうね。以降のドワーフ王族にその力が受け継がれていく事に……」


「だが、流石に公開資料からその秘密を探るのは限界だな。エースロット王に関しても悪の権化として書かれているだけで写実的な資料がない」


今日の成果はドワーフ王族はドスカイオスの代に短躯から巨躯になり、やはりエースロットは悪としてドワーフの歴史に名を刻んでいるという事であった。特にエースロットに関しては悪意に満ちた脚色が随所に見られ客観的な資料とは言い難く、その後の所持品の行方など知りようもない。


「ま、後は推測で解を求めるしかないね。今日の所は引き上げよう。眠いし、何よりお腹が減ったよ。空腹が堪えるのも生きている特権かな」


軽く肩を竦め、ファティマは悠を手招きすると再び肩の上の住人となった。


「ラグドール、待たせて済まん」


「なんの、これも護衛の務めでありますれば」


長時間待たされたラグドールだったが文句一つ言うでもなく悠を迎えると、先に立って歩き始めた。


「そろそろ戻りませんと、ブロッサム様が首を長くしてお待ちで御座いましょう」


「だが、ファティマを連れて客室に泊まってもいいのか?」


「あまり好ましいとは言えませんが……子供の一人くらいは見逃して貰えると思います。ザガリアス王の許可もありますし、短い間なら大丈夫かと」


「お泊まりお泊まり~♪」


至って上機嫌なファティマを肩に乗せ、悠があてがわれている部屋に戻ると、そこには大量の食事をテーブルに用意したブロッサムが待ち構えていた。


「遅いです! せっかくのご飯が冷め、て……誰です?」


嬉しそうに怒るという不可思議な表情で振り返ったブロッサムは悠の頭上でニコニコと笑うファティマに目を止め、ファティマは無邪気を装って答えた。


「きょうおとまりすることになったペコです、はじめまして、ブロッサムさま!」


「え、ええ……は、はじめまして……?」


事態を上手く飲み込めないブロッサムに、父としてラグドールが割り込んだ。


「おほん、ブロッサム様、ペコは儂が養女として迎え入れた新しい娘なのですが、道中で助けられたユウ殿にえらく懐きましてな、どうしても一緒に居たいと言いまして……その……」


元々嘘が苦手なドワーフでも生粋のラグドールはどう言えばいいものかと言葉に詰まったが、そこは悠とファティマが助け舟を出した。


「ザガリアス王にも許可は頂いているゆえ容赦してくれ。子供一人くらいなら構わんだろう?」


「いい? おとまりしてもいい?」


理屈と、理屈抜きの無邪気なオーラに晒されてはブロッサムも嫌とは言えず、少し固い表情ながらも頷いた。


「し、仕方ありませんね……子供なら淫らな事にもならないでしょうし……」


後半の台詞は小声だったが、ブロッサムが何を警戒しているのかは筒抜けであった。子供を盾に何か要求してくるのでは無いかとは思われないのは信頼の証かもしれないが、誰にも手出しした覚えがないのに女性関係にだらしがないと思われるのは悠も心外である。そういう心配はエルフィンシードのバローにして欲しいものだ。悠はたとえ絶世の美女が裸で寝ていても、その隣で普通に朝まで何もせずに眠れる男であり、それはそれでおかしいという指摘は免れないだろうが……。


結局押し切られたブロッサムは悠の食事係もファティマに奪われ、さりとて子供相手に強くも出れず敗戦濃厚な気配を漂わせながら退散させられてしまうと、2人だけになった悠とファティマの雰囲気が真剣なものに切り替わった。


「さて、楽しい時間が終わったら切り替えないとね。ユウ、まずは私の考察を聞いてくれるかな?」


「伺おう」


多様性のある推論に関してはファティマの方が優れていると認めた悠はファティマに主導権を譲って拝聴する立場を取った。その後に現実的な修正を施すのが効率的だという判断である。


「今と違い、昔はドワーフだけでなく世界的に交流があった事はもう知っているね? それが決定的に崩れたのはドラゴンがこの世界に現れ、交流の窓口を遮断したからだろう。これはユウの話にあった海王ネプチューン二世の語る事実からも推測出来る。つまり、五百年前に世界は寸断され、独自の文化を築いていった訳だ。寿命の長いエルフやドワーフの資料からそれは読み取れるし、エルフにはまだ海王を知っている者すら居るようだしね。人間にとって五百年は長過ぎて記録はあったとしても曖昧なものだろう。そして孤立した各勢力は排他性を増し、無理解が敵意を増大させて今日の世界情勢に至るんだ。エルフとドワーフに関しては両国の王が相討つという事象が関係の破綻を招いたけれど……ここまではいいね?」


ファティマの歴史論に悠は深く頷いた。ざっくりとしたものだが、これまで各地で集めた情報を統合すれば大きく外してはいないだろう。


「それを踏まえて七百年前と言えば、まだ世界は各地との交流を保っていた時期だ。シルバリオ王の謁見記録でも見られれば良かったんだけど、流石にそれは我々如きが見れるものじゃないね。でも、王が色々な人物と謁見をしていた事自体は想像に難くないし、そこにドワーフ以外の種族が混じっていたとしても何ら不自然じゃない。問題は何が持ち込まれ、ドワーフ王族に影響を及ぼしたかだけど……私は遺伝性の才能ギフトではないかと考えているんだ」


「遺伝性の才能?」


悠が問い返すとファティマは頷いて言葉を続けた。


「才能や能力スキルは基本的に一代限りのものが多いけど、中には代々その血脈に受け継がれていくものがあるのも確かなんだ。そうでなくても親が何かしらの才能や能力を持っているとその子供は同じ力を発現しやすい傾向にあるのも事実だし……と言っても5%前後の話だがね」


一説に才能や能力を得られる確率は一万分の一~数千分の一と言われているが、その場合の発生率は0.01%~0.5%であり、最大の数値を取っても遺伝確率が10倍であればファティマの説は根拠のある数値と言えるだろう。


「加えて言えばエルフやドワーフに才能や能力を持った者が殆ど居ないのは、生まれつき持っている魔法適性や身体能力があるからだという推測もあったけど、そこまでは当時でも調べられなかったね。生まれつき魔法適性の無いエルフや体の弱いドワーフなんかが居たとすれば、もしかしたらそういう事例はあるかもしれないけど……」


ファティマの話を聞いて悠が思い出したのは、バローから聞いたレインの能力であった。他の魔法適性を持たないレインが持つ『妖声セイレーンウィスパー』はファティマの推論を裏付けるものになるかもしれない。


「とにかく、何かの拍子で王族を強化する遺伝性の力を得る方法を知ったシルバリオ王はどうするだろう? きっと使うんじゃないかなぁ……古今東西、王族なんてものは皆、末永く自分の血筋が栄えていく事を願っているからね。これがドワーフ王族に関する私の推論さ」


「……」


ファティマの推論は確定情報と推測に基づくものであったが、現状では最もそれらしい理屈であり、悠も異論を唱える隙間を見い出せなかった。問題はそんな才能や能力を得る方法があるのかという点だが、分からないものは推測に頼るしかない。


「ドワーフは優れた技術を持っているが、何かしらの魔道具の効力という線は無いか?」


「その場合はザガリアス王にも口伝されていないと次代に繋がらないし、王族全てに効力が及んでいる説明にもならないね」


「やはりそうなるか……」


否定されると分かっていて述べた悠の反論をファティマは理路整然と退けた。理屈としてザガリアスが知らないのでは悠の推測は成り立たず、ザガリアスは悠の質問とは違い、明らかにファティマの質問の意図を図りかねていた。


「では、それを既定路線として、どう現在の状況に絡んで来ると思う?」


「それなんだけど……」


ファティマはそこで初めて困惑した表情で悠に答えたが、その答えは些か回りくどい序文から始まった。


「……ユウ、ドワーフの寿命は五百年前後だ。それは王族も例外じゃない。ドスカイオス王も気丈に振る舞ってはいるけど、もう長くはないだろう」


「……何が言いたい?」


「うん……例えば、こんな事が有り得るのか分からないけど……ゴルドラン王はエースロット王と戦い、その結果亡くなったと言われているけど、実は違うんじゃないだろうか?」


「何?」


これまでの定説を翻すファティマの答えは悠の想像の枠を超えており、再度の質問を上らせる事になった。


「どういう事だ?」


問われたファティマの表情は暗く、子供とは思えない深刻さに満ちていた。




「……ゴルドラン王の享年は480歳、これは平均的なドワーフの寿命だと言っていいお年だ。資料からは窺い知る事は出来ないけど、もしかしたら既に余命幾許もない状態だったとしても不思議じゃない。才能や能力に疎いドワーフが知らなくても仕方がないけど、私達人間は身をもってその恐ろしさを知っているよね? 死や、それに準じる状態で発動する力がある事を……」




自身の答えに恐れを感じ、ファティマの小さい体は精神的な冷気でカタカタと震えていた。

徐々に過去の真相に踏み込んでいきます……。

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