2-27 ベロウ尋問2
「で、それだけか?」
「いや、ある意味一番やばいのが残ってる。ドラゴンだ」
その言葉に反応して悠はベロウを見た。
「ドラゴン・・・この世界には昔から居るのか?」
「エルフ並みに長寿で魔族の上を行く力と魔力、そして知能を持っているらしい。そいつらが中央大陸コンフォスのクレイドルマウンテンに住み着いてる。この東のタナトス大陸と西のヒュプノス大陸の間にある大陸だ。そいつらが居るせいで・・・いや、おかげかもしれねぇが、魔族の侵攻は遅れてるんだよ」
悠は簡単に地図を描いてベロウに見せた。
「こんな感じか?」
「ああ、大体合ってる。中央大陸はもっと広いけどな」
悠は地図に修正を加えながら更にドラゴンの情報を深く聞いた。
「で、そいつらも当然人間と敵対して居るんだな・・・」
「そう言うなよカンザキさん・・・ま、まぁ、敵対してるんだけどよ・・・」
結局敵対種族であるらしい。
「そのドラゴンも国みたいな物を持ってるらしい。クレイドルマウンテン一帯を支配しているから『ドラゴンズクレイドル』って呼ばれてる。詳しい事は誰も知らないと思うが、王も居て、とんでもなく強いって噂だ。確か・・・アー・・・アー・・なんだったっけか?悪い、ちょっと思い出せねぇ」
うんうん唸って記憶を探ってみたベロウだったが、肝心の王の名前は思い出せなかった。そもそも交流もなければ人前にも出て来ないのでしょうがないといえばしょうがない。
「それで種族は終わりか?」
「いや、後は海には人魚族や海魚族、人里離れた場所には妖精族、その他少数種族も沢山居るな」
大きな種族だけで無く、それ以外の者達も混在しているらしい。
「でもって意志疎通出来ない種族・・・って言っていいか分からねぇが、魔物が居るぜ」
「それはどういう物だ?」
「一言には言えねぇよ。ゴブリン、オーク、スライムにオーガやハーピー、シャドーストーカー、各種ジャイアントにサイクロップス。普通に挙げていくと夜が明けちまう。まぁ、一つだけ言える事は――」
「敵対種族だ、だろう?」
「お早いご理解ありがとうよ」
ベロウは少し不貞腐れて答えた。
「まぁ、種族に関してはこのくらいでいい。後は危険人物を知りたい。特に気を付けなければならない者だけ教えてくれ」
「ああ、そりゃ簡単だ。自分以外の全員だよ」
悠の質問にベロウは即答した。
「・・・まぁ、分からんでも無い」
悠もこれまでのメモとノースハイアの現状を見て少し納得してしまった。
「しかしそれでは質問にならん。では、この世界の強い者を上から5人挙げてくれ」
先ほどの質問では埒が明かないと見て、悠は質問を切り替えた。
「5人の強者、か・・・まずは『魔王カインフォルス』で、『エルフ王女アリーシア』、『ドワーフ王ドスカイオス』『獣王ガルベイン』・・・で、一番がさっき言った、アー・・・ダメだ、思い出せねぇ。まぁ『龍王』アーなんとかだ。それが一応知られている強者5人だけどよ、この世界じゃ実力を隠してる奴なんざゴマンと居るぜ?強さを知られると暗殺しにくる奴らが多いからな。名前を売るにはもってこいなんだよ。各国の王は隠しようが無いから知られているだけだな」
「あまり参考にはならんな。人間には強い奴は居ないのか?」
一応5人の名前を控えて、悠はベロウに尋ねた。
「人間でか・・・んー、『外道勇者サイコ』に『殲滅魔女オリビア』、『狂笑の修道僧バルバドス』、『影刃ミロ』、『奈落の申し子ヒストリア』とかが有名だな。主に悪名だがよ。こいつらとは戦場に限らず絶対会いたくねぇな」
悠は5人の名前を書き留めた。それにしても、ベロウから情報を引き出すにしても限度がある。実際に自分でも外で情報を集めて回るべきだろう。
「分かった、人物についてはそれでいい。では、最後に聞くが、この世界で金を稼ぐには何が効率的だ?」
「そりゃあ、カンザキさんくらい強いんなら、どっかに仕官するのが一番楽なんじゃないんですかねぇ」
「国の紐付きをしている時間など1秒も無い。大体この世界の国はほぼノースハイアと変わらんのだろうが」
「うっ・・・じ、じゃあどっかの国を襲って宝物庫から金をがっぽがっぽと――」
「樹里亜、ベロウが一撃欲しいそうだが・・・」
「じょ、冗談ですよ冗談!!!だ、だから起きようとするんじゃねぇ!!!」
悠に言われてベットから起き上がろうとした樹里亜は渋々横になり直した。口でぼそっと「フォン!グシャ!」とか言っているのが本気で怖い。
「俺が言っているのは真っ当な方法での金の稼ぎ方だ。異世界人でも出来る事でな」
「とすると・・・カンザキさんの強さなら、傭兵か・・・冒険者にでもなればいいと思うぜ?」
「傭兵に冒険者?」
その二つが異世界人でも出来る職であるなら、一度聞いてみるのもいいかもしれないと悠は思ってベロウに説明を求めた。
「傭兵は戦争の時とかに国に雇われて戦う事を生業にしてる人間の事・・・だが、カンザキさんは国には使えたくないんだろ?なら冒険者がいいんじゃねぇかな。冒険者はギルドに所属して、依頼をこなして報酬を貰うって仕事だ。上手くやりゃあ一攫千金もあるし、ランクを上げれば普通に仕事をこなすだけでも実入りは大きいぜ。ちょいと真っ当じゃない仕事もあるらしいが、やらなけりゃいいだけだし、何よりギルドは国とは別機関だからな。どこかの紐付きにならねぇし、出自も問わないはずだ」
「冒険者・・・か」
それは中々悪くない案に思えた。定期的に短期の仕事をこなせば、子供達を養っていくくらいはなんとかなるだろうと思えたのだ。何より、法に触れる様な仕事で得た金銭で子供達を養う訳にはいかない。
「その冒険者になるにはどうするんだ?」
「どっかの街のギルドで登録すれば誰でもなれるぜ。年も何歳からでもいい。ただし、冒険者は自己責任だ。ちいせえガキが冒険者になって、外に出た途端に売り飛ばされるなんて話はよくあるからな。実力も無いのになる様な奴は早死にするぜ?だから10にもならない子供はこの世界じゃ冒険者にゃあならねぇ。常識だからな。それに、さっき言った強者も半分は冒険者だ。つまり、出会う可能性もあるってこった。危険どころの騒ぎじゃないぜ?」
冒険者と聞いて目を輝かせる子供達に、ベロウは現実的な釘を刺した。ギルドはあくまで冒険者と対等であり、庇護する存在では無いのだ。
「でも、やっぱりちょっと憧れますよね、冒険者って」
年頃の少年として、智樹も冒険者と聞いて心が躍るものを感じていた。困っている人を助け、困難な依頼を仲間と共に乗り越えるというシチュエーションは男なら一度は憧れるものだ。場合によっては女でも。
「俺と修行して強くなったら連れて行ってやってもいい。それまでは頑張るんだな」
悠の言葉に何人かが目を煌めかせた。一番食いついているのは明だったが。
「めい、がんばってしゅぎょうしてつよくなる!!そしてゆうおにいちゃんとぼうけんするの!!」
「お?ちびっこいの、威勢がいいな!!あたしも悠先生と修行して付いて行くぞーー!!」
「わ、私はお留守番してたいけど・・・明だけじゃ心配だし・・・うう・・・」
俄然やる気になった明と神奈とは裏腹に、荒事は専門外の恵はあまり乗り気では無かった。性格的に小雪もあまり乗り気では無い。
異世界に来たら、冒険者はやってみたいですよね。悠には思い入れは無さそうですが。
そしてちらほらこの世界の事が分かって来ました。