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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-121 いつか、平和な空の下で3

遠巻きに悠を見るドワーフの職人達を尻目に、悠達はどんどん大工房の奥へ奥へと進んでいった。流石ドワーフ全軍の装備を一手に引き受けているだけあって数百人規模の職人が働く大工房は大変広く、大型の炉や溶解した金属、打ち出される煌びやかな武器防具の数々にピコの目は釘付けになった。


「うわぁ……出来ればゆっくり見たいなぁ……」


「部外者のユウ殿には見せられない場所も多いだろう、今度また儂と来た時にゆっくり見せて貰えばよかろう」


「わぁい! 父さん大好き!」


「うむうむ」


まるっきり孫に甘い祖父といった風情だが、本人達が納得して幸せなら外野が口を挟む事ではなかろうと、悠は視線を周囲に向ける事なくギリアムの後について行ったが、途中でギリアムは何か思い付いたように方向転換すると、おそらくは自室と思える場所に入っていき、すぐに戻ってきた。


「ユウ、これ、あんたの小手ガントレットさ?」


と、ギリアムが掲げて見せたのは煤と乾いた泥、それに血で汚れてはいたが紛う事なく悠の小手の片割れであり、悠は頷いた。


「確かにこれは自分の小手ですが……もしや探して下さったのですか?」


「今はオイラ達しか居ないんだから堅苦しい事は言いっこなしさあ。ま、右手があるなら左手もあると思って陛下に『無限蛇ウロボロス』と戦った場所を聞いて口の固い兵士達に探して貰っただけで、オイラが見つけた訳じゃないさね」


「ちょっと、聞いていませんよギリアム!! 何故私に見せないのですか!!」


「クラフィールに見せたらまた徹夜続きになるさあ。それに、もうユウには使えなくても、この小手は稀代の鍛冶師がユウの為に作ったさ。持ち主の下に戻るのが一番幸せさあ」


悠にはもう小手が納まるべき左手は無いが、ギリアムはカロンが心血を注いで作り上げた悠の為の小手を秘匿する気にはなれなかった。勿論詳しく話を聞きたくはあるが、一人の鍛冶師として他人の努力の上澄みを掠め取るような真似はしたくなかったのである。


持ち主が悠でなかったならその誘惑に抗えたかどうかは微妙であったが。


「助かる。俺の無事を祈って作ってくれた大事なものなんだ」


悠は感謝して受け取ると、鞄に小手を仕舞い込んだ。その一部始終をクラフィールは勿体無さそうに睨んでいたが、本題はこれからである。


不機嫌さを増したクラフィールの部屋は数々の資料で埋め尽くされており、悠はアスタロットの部屋を思い出したが、そう言われてもクラフィールは嬉しくないだろうと口を噤んだ。種族は違えど研究者の部屋など似たようなものだろう。


悠達を留め置き、奥の部屋から神鋼鉄の箱と真新しい鍵を手に戻ったクラフィールは資料があるのにも関わらずその上に箱を下ろした。


「これは私が解明した鍵の構造を本に、ギリアムに直接作らせた鍵です。もしこれで開かないなら、ギリアムの削り方が間違っているという事になります」


「クラフィールの理論が間違ってる可能性は無いさ?」


「有りません、私の理論は100%です!」


「……まあ、開けば何でもいいさ」


自信過剰なクラフィールに逆に心配になるギリアムだったが、ならばと鍵を悠に渡し、そっと耳打ちした。


「クラフィールはああ言ってたけど、オイラは嫌な予感がしたんでその鍵の素材にはドスカイオス様の三叉槍トライデントの折れた穂先を使わせて貰ったさ。多少力を入れても曲がったり折れたりはしないはずさあ」


修理を請け負った伝来の武具を鍵に流用したとあってはかなり不味いのでは無いかと思われたが、一度開けてしまえばもう鍵は必要無いので目を瞑るべきだろうと悠は無言で頷いた。


悠の差し込んだ鍵は殆ど抵抗なく奥まで刺さったが、いざ捻ろうとしても鍵が回る事は無かった。


途端に冷えた空気にクラフィールがギリアムを睨み、ギリアムは肩を竦めたが、そこにスフィーロがこっそりと語りかけた。


《(わざわざ神鋼鉄を使うくらいだ、竜気プラーナを流し込んで回してみろ)》


「ああ、そのまま回しても駄目という事か」


今気付いたという風に装い(スフィーロの事がクラフィールに知られるとうるさそうなので)、悠は手にした鍵に竜気を流しながらもう一度鍵を捻ってみた。


すると箱全体が光り出し、ガチンガチンと留め具が外れる音が何度か鳴ったかと思うと、神鋼鉄の箱は千年の時の流れを感じさせない滑らかさで開いていった。


「な、中には何が!?」


身を乗り出したクラフィールが中を覗き込むと、そこには青い宝石の入ったペンダントと薄い金属の板があり、悠は先に金属の板を指で摘み出すと眉を顰めた。


「冒険者証……オルネッタが言っていた物か。だがこれは……」


「ん? ……これは、人族の文字のようですが……」


「何て書いてあるさ?」


ギリアムの言葉に、悠は多少戸惑いつつも答えた。


「材質が神鋼鉄である事以外、文面は現在の冒険者を示すものとほぼ変わらん。これは最高ランクであるⅩ(テンス)を示すものだが……何故かは知らんが、既に名前が刻印されている。……俺の名が」


千年開かれなかった箱の中身に悠の名が彫られているという事実は、クラフィールに驚愕よりも猜疑心を喚起したようだった。


「……本当はとっくに鍵を持っていたのではありませんか?」


「それをする理由を伺いたいが?」


クラフィールは悠が先に箱を開け一芝居打っているのではないかと疑っているらしかったが、そんな事が出来るなら悠はとっくに箱を開けて中身を取り出していただろう。無闇に破壊も出来ないからこそこうして所持していたのだから。


反論が浮かばないクラフィールを置いて悠は一つの推測を立てた。


「ならばこれを入れた人物は未来において俺がこの箱を開けると知っていたとしか考えられん。未来視の才能ギフトの持ち主など見た事は無いが……」




「そう、長い長い、とても長い時間を経てこれはキミの手に渡る運命だったのさ、ユウ。もっとも、確定未来では無く、あくまで分岐の一つに過ぎなかったがね」




悠の言葉に答えたのはクラフィールでもギリアムでもなく、いつの間にか神鋼鉄の箱の中の宝石を手にしたペコであった。その瞳は今までのように我を失った様子は見えず、むしろ別人のような確かな知性を宿していた。


「ぺ、ペコ! かってにさわっちゃダメだろ!」


「ごめんねお兄ちゃん、少しの間だけ妹ちゃんの体をお借りするよ。私は、その為に千年待ったのだから。……大丈夫、この一連の事件が終わったらちゃんと妹ちゃんの体は返すし、もう二度と妙な事を口走ったりしなくなるさ」


「……お前、ペコでは無いな?」


悠の言葉に緊張が走るが、ペコは年齢に見合わぬ不敵な表情でそれを肯定した。


「ああ、違うよ。だけど敵という訳でも無いからあまり警戒しないで欲しいな。道中でも何度か助けてあげただろう?」


髪を掻き上げようとして、そうするだけの長さが無いと気付いたペコの中に居る何者かは軽く肩を竦めてみせた。


「やれやれ、まだ昔の癖が抜けないみたいだ」


「助言には感謝するが、幼子を乗っ取るような者の印象が良いはずが無いぞ」


「少しの間だと言ったはずだよ。それに、真実を求めてもキミには手がかりすら無いんだ、近くで助言する存在は不可欠さ。どうしてもと言うなら私は消えるけど……その場合、エルフ、ドワーフを合わせて数十万単位で死人が出ると覚悟しておくといい。勿論、それを防ごうとするキミの仲間も多分何人か死ぬだろう。子供達も沢山死ぬ。とても悲しい事だね?」


恫喝というより、単なる事実を告げている風なペコに悠はしばし思案すると、妹の変化に戸惑うピコと厳しい表情のラグドールに向き直った。


「……ピコ、ラグドール隊長、申し訳ないがしばらくペコをお借りしても宜しいか? 無理に戻すとドワーフにとって取り返しがつかない事態に発展するやもしれないのだ。それを回避する為にペコの力が必要になるかもしれない。たとえ我が身に代えても無事に返すとお約束する」


「……」


ラグドールは娘となったペコを得体の知れない存在に乗っ取られた一事で多大な不信感を抱いており、悠の言葉であっても容易に頷く事は出来なかったが、ピコはしばらく悩んだ後、悠に向かって頷いた。


「……ぜったいにペコをぶじに返してくれるなら、いいよ」


「ピコ!?」


驚くラグドールにピコは必死な表情で言葉を続けた。


「父さん、ペコもおれもあの人に助けてもらったんだ。多分、父さんも。だから、おんは返さないと。おれには何も出来ないけど、ペコなら兄ちゃんの役に立てるんだ!」


「し、しかしだな……!」


「ちなみに妹ちゃんには了承を貰っているよ。役に立ちたいってさ、健気だね」


「お前は胡散臭いから喋らん方がいい」


「おや手厳しい」


「父上、私にはよく分かりませんが、ユウが居ればそう悪い事にはならないでしょう。それに監視として父上も同行する機会は多いはず、悪しき者であればその時こそ処断すればいいのでは?」


子供達に代わる代わる説得され、難しい顔をしていたラグドールもとうとう折れた。


「……幼子とはいえ、意志は尊重せねばならんか……仕方ない。ユウ殿、くれぐれもペコをお願い致します」


「お預かりします」


「という風になると分かっていたんだけどね……」


修復しつつあった空気を台無しにするペコの言葉だったが、悠は無駄を省いて尋ねた。


「それで、お前の事はなんと呼べばいい? 名前くらいはあるのだろう?」


「それを先に聞いて欲しかったよ。では自己紹介をば」


ペコの体で大仰な礼をすると、正体不明だった人物は悠に言った。




「初代冒険者ギルド統括ファティマ・ラティマだ。魂の一部を封じキミに会いに来たよ、ユウ・カンザキ」




その時だけは邪気の無い幼女の顔でファティマは悠に笑いかけたのだった。

ペコやファティマの詳しい説明は追々やっていきます。

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