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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-120 いつか、平和な空の下で2

悠がいくら滞在を許された客人だからといって自由行動が許されている訳ではなく、しっかり監視は付けられたが、実際の所は形骸的なものであるのは人選からも明白であった。


「ユウ殿、見舞いも出来ずに申し訳ありませんでした」


「これはラグドール隊長、お体はもう宜しいのか?」


外出を願った悠の前に現れたのは到着以降顔を合わせる機会の無かったラグドールであり、腰に剣だけを下げた軽装で苦笑した。


「寄る年波には勝てませんな。動けるようになったのがつい3日前で、出歩く許可を得たのが今日の事です。ですので、あまり暴れたりするのはご勘弁下さい、陛下に勝つような戦士と戦う余裕はありませんので」


「ご謙遜を。今の自分に遅れを取るラグドール隊長ではありますまい」


「いやいや、ユウ殿ならば死の際にあっても何をしてくるか分かりませんからな、ハハハッ」


一緒に戦った『無限蛇ウロボロス』戦やドスカイオスとの一戦を伝え聞いただけでも、ラグドールは自分が悠に敵わないと悟っていた。ラグドールも精鋭部隊の隊長として、ドワーフの例に漏れず戦闘に賭ける情熱は人一倍であると自負していたが、悠ほどひたむきに、諦める事なく勝利を目指して戦い抜いたという自信は無かったのである。或いは、そう思えるという事が老いたという証なのかもしれなかった。


「あまり畏まらないで頂きたい。自分はただの客人です」


「尊敬すべき力と精神を持つ方には当然の事、ユウ殿こそ儂如きは呼び捨てで結構ですよ」


「公的な場ではそういう訳にもいきますまい。王族以外に公的には地位を持たないドワーフでもラグドール隊長は尊敬を受ける立場でありましょう」


「よくご存知ですな」


ドワーフには貴族というカテゴリーは存在しないのである。建て前としては王族以外は皆平民で平等という事になっており身分差は存在しないが、功績によって得た地位がその代わりとなっていた。ラグドールの就く『天鎧衆』総隊長は軍事における将軍職に匹敵し、十分に敬意を払われる対象となる要職である。これらの知識はアスタロットの研究の成果であった。


「確かに、一山いくらの若僧にぞんざいな口調で話し掛けられたなら親が見ても本人と分からぬくらいには叩きのめしもしますが、ユウ殿は他ならぬ陛下……いえ、先王陛下を相手に勇者ここにありと証明なさった。とても儂が対等に話せる方ではありません。……もっとも、最近の若い者達はあまり礼儀がなっておりませんが。嘆かわしい事です」


ラグドールの意志が固いと見た悠は頷くと口調を切り替えた。


「では個人的な場では俺は敬語は省こう」


「そうして頂けると嬉しく思います」


と、そこに新たな人物が歩調を揃えて現れた。


「父上、いくらユウに会いたいからと一人で先に行かないで下さい!」


「おお、ミズラか。それに、ピコとペコも」


怪我人の中では最も程度が軽かった為、無事回復したミズラと共に現れた子供2人を肩に抱き上げ、ラグドールは好々爺とした表情で悠に向き直った。


「この子らは両親を『無限蛇』の一件で失いましたので、儂が養子として引き取りました。ミズラ以外に子はおりませんでしたので、年甲斐もなく父親をさせて貰っております」


「それは良き行い、ラグドールの下でなら健やかに育つだろう。君らにも色々助けられたな」


「おれじゃなくてペコだけどね!」


「……ありがと……」


元気良く答えるピコと恥ずかしそうなペコは無事両親の喪失の痛みから立ち直ったようだった。それもラグドールやその家族が温かく迎え入れたからであろう。


「母上もはしゃいでしまってね。念願の男の子と、私と違ってお淑やかな女の子がいっぺんに家族になって喜んでいるよ。そのお陰で嫁に行けと煩く言われなくなったのは思わぬ副産物だったけど……」


「そのつもりがあるならいつでも歓迎するぞ、儂は」


「まだ家庭に収まる訳にはいきません。先輩方から受け取った訓示を守らねばなりませんから……」


「……ああ、そうだな……」


珠玉に等しい時間を稼ぎ出したブフレストとラブサンを想い、ミズラ達にしんみりとした空気が流れるが、黙祷は長いものにはならなかった。彼らは自分の役目を果たして天に召されたのだ。


「……さて、ではそろそろ参りましょうか。ミズラ、子供らを家に――」


「父さん、つれて行っておくれよ。たぶん、おれはいらないだろうけど、ペコは兄ちゃんといっしょに行った方がいいと思うんだ。箱を開けてもらうようにって言ったのはペコだし……」


「そんなこと、わたし言った?」


「ああ、ペコはおぼえてないと思うけど」


「ふむ……どうなさいますかユウ殿」


ペコの異能を知るラグドールが尋ねると、悠は頷いた。


「無駄足になる可能性はあるが、子供が一緒でも問題はあるまい。何も無いならそこで別れればいい」


そうは言ったものの、何も無いという可能性は低いだろうと悠は漠然と感じていた。わざわざ死闘の報酬に掲げさせたくらいだ、最低でも何らかの助言は得られるのではないかと思っているのであった。


「ならば連れて行きましょう。ピコ、ペコ、大工房は危険な物もあるから無闇に歩き回ってはならんぞ?」


「うん!! へへ、スゴいぶきがいっぱいあるんだろうなぁ……」


妹を連れて行った方がいいというピコの言葉に偽りは無いが、ドワーフの男子に共通する武具への興味もあったのだろう。無事許可が下りてピコはご機嫌であった。


そうして一行はドワーフの大工房へと向かったのである。




「……ようこそ、客人を迎えられ嬉しく思います」


平坦な声で告げるクラフィールは目の下にドス黒い隈を作り、全く嬉しそうには思えない口調で悠と対峙した。


「クラフィール親方、随分と苦労をかけたようで申し訳ない」


「苦労? ……何の事か分かりませんね。あの程度でこの私が苦労するはずがありません」


クラフィールはまだ悠に心を開いた訳では無いらしく、返す言葉には強い険が混じっていた。ドワーフ女子では珍しく家庭に入らず一途に研究に人生を捧げている事といい、他者を遠ざけるだけの理由があるのだろう。


微妙な空気を打ち破ったのはのんびりとした陽気な声であった。


「お、やっと来たさあ。待ってたよユウ」


「これはギリアム親方、牢では差し入れを頂きありがとうございます」


「やあやあ、余計な気を回したなと赤面しきりさあ。まあ、前祝いだったと思っておいて欲しいさ」


「後ほど、陛下から秘蔵の一樽を頂く事になっておりますので、礼はそちらでさせて頂きます」


「王家の秘蔵品!? ひゃあ、今から涎が止まらないさ!」


「いい加減にしなさい!! 今はもっと大事な事があるでしょう!?」


朗らかな会話を続けるギリアムと悠に怒声を浴びせるクラフィールだったが、付き合いの長いギリアムは慣れたもので、笑ってクラフィールの肩を叩いた。


「そうそう、ユウの為にクラフィールも頑張ったさ! さあ、早くその成果を見せるっさ!」


「べ、別にエルフの手先などの為に頑張った訳ではありません! 私はただ、知的好奇心の充足と未知への挑戦に意義を見出し、試行錯誤の末に得られる別分野からの思考の飛躍を目的として自己練磨を――」


「クラフィールは話が長くて何言ってるのか全然分からないさ! いいからホラ!!」


「ちょ、ちゃんと話を聞きなさいよギリアム!!」


百聞は一見にしかずとバッサリ切り捨てるギリアムに背中を押されクラフィールは抗弁空しく大工房の奥へと追いやられていき、悠達は顔を見合わせた後にそれに続いたのだった。

クラフィールが悠に冷たいのは、彼女が特にエルフに強い嫌悪感、というか憎悪を抱いているからです。ですが、悠の所持品は彼女の好奇心を刺激してやまず、悶々とさせられまた不機嫌になる悪循環。


ギリアムはいい毒抜きです。

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