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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
1050/1111

10-112 喪失×喪失3

「「「……」」」


アリーシアが魔法に加え、限定的とはいえ記憶まで失っているという情報は一同に小さくない衝撃をもたらした。数人に共通するのは、ハリハリへ気遣わしげな視線を向けている事だが、ナターリアによって衝撃から立ち直ったハリハリは苦笑して首を振った。


「そんなに心配しなくてもワタクシは大丈夫ですよ。姫、いえ、陛下に喝を入れて貰いましたから。それより、当面の事を考えましょう」


「まあ……お前がそれでいいんなら別にいいんだけどよ……。何だったら何日か休んだっていいんだぜ?」


微妙に視線を合わせずのたまうバローは、外見に反して割と気を使う方だ。その気遣いを嬉しく思ったハリハリだったが、再度首を振って口を開いた。


「そんな余裕はありませんよ。ほぼ完勝とはいえ戦後処理もありますし、今回の戦闘の反省点も洗い直さねばなりません。軍の再編成や『機導兵マキナ』の研究と、やる事は目白押しです。休んで貰うのはアリーシア様だけ十分ですよ、ワタクシは動いていた方が気が紛れますから」


他の者が反論を口にする前に、ハリハリは差し当たってと言葉を続けた。


「アリーシア様はユウ殿が戻られるまで今まで通り静養という事にしましょう。政治にも関わる気力を失っているようですし、無理をさせても逆効果です。その間は引き続きナターリア様に国王代理を務めて貰います」


「承りました、皆さん、ご助力を宜しくお願いします」


アリーシアから直接頼まれていたナターリアが宣言すると、一同は納得して頷いた。


「で……色々あって後回しになってしまいましたが、もう一つ面倒な問題があります」


切り替えた話題に心当たりがあったアルトがそれに答えた。


「あのエンジュという名の王女様の事ですか?」


「はい。ちょっと扱いに困っていまして」


「見せしめに処刑する為に連れ帰ったのではないんですの?」


何でもない事のようにクリスティーナが言うが、そこにギルザードが待ったをかけた。


「一応、命乞いを聞き入れて連れてきた手前、殺すのは止めて貰いたいな。私は嘘吐きではないのでね」


「あら、口約束なんて守る必要があって?」


「貴族様にとって二枚舌は日常茶飯事だろうが、騎士にとって約束は守るべきものなのさ。殺すのなら戦場で殺していたよ」


「相手も王族なら覚悟していますわ。ドワーフは虜囚の辱めを受け入れるくらいなら死を選びそうなものですけれど?」


「ロクに戦場に出た事も無い子供だよ、あれは。ならばユウとは別口で情報を引き出すのが有益だと思うが?」


「そんな手合いが大した情報を持っているとは思えませんわ」


徐々に平行線を辿り始めた2人の間にハリハリが割り込んだ。


「まあまあ、せっかく捕まえたのですから、一度くらいは尋問してもいいでしょう。ユウ殿の手前、ワタクシも処刑には反対です。もし知られてユウ殿の立場が悪くなったら困りますからね」


「それでいいと思うぜ。尋問はギルザードがやりゃあ何でも吐くさ。あの姫さん、ギルザードに滅茶苦茶ビビってたしな」


「ドワーフは勇猛だと聞いていたから気張っていたんだよ。あんなに怖がるとは思わなかったのさ」


バローの言葉に不本意そうにギルザードは肩を竦めた。中身がああだと知っていればもう少し抑えたかもしれないが、時間は不可逆で手遅れだ。


「では尋問はギルザードに頼むとしよう」


「ちょっと待って下さい、私はその手の経験がありませんので、誰か交渉事に長けた人物を一人付けて頂けませんか?」


ナターリアの決定にギルザードが願い出ると、ナターリアは居並ぶ面々の中の一人に目を留めた。


「そうだな……バロー、お前に頼む。エルフでは反感を買って円滑に情報を引き出せないかもしれないし、交渉も得意で一度顔を合わせているお前が適任だろう」


「私、ですか?」


可能性は高いと感じながらも改めて名指しされると、バローは微かに面倒そうな色を浮かべた。たとえ事情に精通していないとしても聞くべき事は多く、実りのない作業になりそうな気配が濃かったからだが、それを見たハリハリが人の悪い笑顔で突っ込んだ。


「ヤハハ、ダメですよバロー殿、尋問官の立場を利用して不埒な真似をしようなんて考えていては」


「考えてねーよこの脱衣魔法使い!!」


「な、なんという不名誉な名を……! バロー殿なんて昼は凄腕夜はナマクラのクセに!!」


「いい加減にしなさい!! ここは酒場ではないのですよ!!」


反論の余地のないナルハの叱責に、バローとハリハリは小声でお前が悪い、いやそっちこそとやり合っていたが、もう一度ナルハが睨むと明後日の方向に目を向けてやり過ごした。


「……ならば質疑の内容は小父様に考えて貰い、バローはそれに添って尋問を行いなさい。ギルザードはエンジュ姫に睨みを利かせてくれれば結構。ナルハは今回の戦勝を国民に詳しく知らせる布告を、各軍を預かる者達は被害状況と戦果を纏めて後ほど報告して下さい。その他の者は捕獲した『機導兵』の管理と使用した物資を調べ、正確な数を纏めなさい」


ナターリアの王代行も板についたもので、出す指示は的確であった。大枠を捉えていれば、ハリハリは部分的な修正だけで十分だ。


「陛下、一般兵に休暇を与え、一時金の配布も併せて行いましょう。一番被害が大きかったであろう探索者ハンターギルドには死傷者に弔慰金を払い、国としての感謝の意を示しておくと良いかと思います」


「なるほど、ではそのように。ギルド長のゲオルグから明日にでも報告があるでしょう、それに照らし合わせて対応します」


敗戦気分が蔓延していた国内も今回の戦勝で持ち直すだろう。前回はエルフ軍が半壊させられたが、ドワーフの切り札である『機導兵』を同じように半壊させた効果は計り知れないほど大きく、次回があるとしても高い戦意を保って戦闘に望めるはずだった。もう『機導兵』は無敵の超兵器では無くなったと立証されたのだから。


「解決せねばならない問題はありますが、これでしばらくは膠着状態が保てます。各員、自分の任務に力を尽くして下さい。その後はユウ殿の交渉の結果を待って行動を決定します」


「皆もよく頑張ってくれた、時は我らの味方だ。より一層の尽力を期待する」


「「「ハッ」」」


ナターリアが締めくくると、会議は解散となったのだった。




同じ頃、悠は牢の中でブロッサムから受け取った食事を平らげていた。指が右手の親指と人差し指の2本しか残っていないので最初は嫌々ながらもブロッサムが食事を手伝おうとしていたのだが、悠は実に器用にフォークとスプーンを使って食事を取ってみせたので、悠のしたいようにさせたのだった。


だが、何の警戒もせずに黙々と食事を嚥下する悠にブロッサムは呆れた顔で言った。


「……毒が盛ってあるかもしれないというのに、よくもまあ毎食バクバクと遠慮無く食べられますね……」


「隻眼隻腕の囚人に毒を盛るほどドワーフは落ちぶれたという宣言か?」


「た、例えです例え!! そんな卑劣な真似をドワーフがするはずありません!!」


「有り得ないなら無意味な仮定だろう。それに毒くらい口に入れればすぐに分かるし、致命的な毒でも耐毒訓練を経ている俺には効かんよ」


完璧に反論を封じられ、ブロッサムが悔しそうに拳を握って唸り声でも上げそうな顔で悠を睨んだが、悠の鉄面皮にはかすり傷すら付けられないのだった。


「ぐぬぬ……」


「嫁入り前の娘がはしたない声を出すな。せっかくの飯が不味くなる」


実際に唸り声が出たブロッサムが益々顔を赤くするが、悠としてもこの食事を楽しみたいのである。


なんと、饗された食事の主食が米なのだ。人間の町でもエルフの町でも見られなかった米を見た時、悠でも郷愁を感じなかったと言えば嘘になる。しかも短粒種の粘り気のあるモチモチとした食感は悠の舌を大いに満足させたのだった。


ちなみに、ドワーフは米を水麦と呼んでいる。水田で育てるからだそうだ。それを悠は握って貰い、おにぎりとして食していたのだった。


箸を使わないのがちぐはぐと言うか異国情緒と言うか微妙なラインだが、箸を使うには指の数が足りていないので今だけは有り難かった。


「ご馳走様。とても美味だった」


全て平らげた悠が片手を上げて食事の終わりを告げると、怒っていたはずのブロッサムの目が泳ぐ。食事はわざわざブロッサムが手ずから作ったもので、悠の事をいけ好かない奴だと思っているブロッサムとしては、毎回美味だったと締める悠に対して微妙な気分になるのだった。

ブロッサムはなんだかんだ言って結構甲斐甲斐しく面倒を見てますね。ギリアムに頼まれたのが大きいのでしょうが、ボロボロの悠に多少思うところがあるのでしょう。

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