2-26 ベロウ尋問1
「べ、ベロウ・ノワールです。26歳です。一応、伯爵やってます。いや、やってました・・・ノースハイア流上級剣士ですが今は雑用係です・・・・・・よ、よろしくお願いします」
それからしばらくベロウの回復待って樹里亜達に食事を取らせ、30分ほどして 何とか話せるようになったベロウに自己紹介をさせた。
なんと悠と同い年である。並べて見るととてもそうは見えないのは、趣味の悪い無精髭をカッコイイと勘違いして残しているからと、性格の下劣さと卑しさが顔に現れているからだろう。全く、悠さんの凛々しい顔とはエライ落差で・・・
「お、おいジュリア!そんなにクソミソに言わなくたっていいじゃねーか!?」
さり気なく、では無く聞こえるようにナレーション風に樹里亜はベロウを罵倒していたが、耐えかねたベロウが口を挟んだ。
「え?割と内容抑えて言ったんですけど?」
「こえぇよお前!!」
割と本気で樹里亜を恐れ始めているベロウに、子供達がはしゃいでいる。年下の少女に叱られる大人の男という構図がウケたらしい。
悠はベロウが復調したと見て、これまでに考えておいた質問をしてみる事にした。
「ベロウ、貴様にはいくつか聞きたい事がある」
「お、おお・・・カンザキさんが遂に俺の名前を・・・」
謎の感動におののくベロウに、悠はやはり冷たく告げた。
「嘘や黙秘は樹里亜に刑の執行を任せるので、そのつもりでいろ」
「って、アンタホントに鬼だな!?」
思わずベロウの腰が引けた。ついでに周りの男性陣も居心地が悪そうにしている。
「分かったよ!!俺が知っている事は何でも話す!!」
「結構。ではごうも・・・ゴホン、尋問を始めよう」
「く、クソ・・・つ、ツッコまねぇぞ俺は・・・」
そうして悠はベロウに質問を始めたのだった。
「まず、この世界の名は何という?」
悠は荷物からメモ帳とペンを取り出して、本格的な尋問スタイルになった。
「ここは・・・『アーヴェルカイン』だ」
この世界はアーヴェルカインという世界らしい。ナナに伝える為に、悠はその名を書き留める。
「へぇ・・・おれたちのせかいとはちがう名前なんだな?」
「そりゃそうだよ、きょうすけ君。みんなだってちがうし」
「そうだね~、おんなじせかいから来た人もいるけどね~」
それを耳にした悠が子供達にも世界の名を尋ねた。
「皆の世界の名も教えてくれるか?」
その言葉に子供達が次々と応える。
「おれとはじめ、こゆきねーちゃんとじゅりあねーちゃんは『地球』から来たんだ!」
「わたしとあかねちゃんは『黄道』から来ました~」
「神奈さんと僕は『エル・ヴァルハラ』という世界から召喚されました」
「そして蒼凪が不明、か。なるほど」
悠は子供達の出身を確かめてメモに残した。京介と始、小雪、樹里亜が『地球』から、神楽と朱音が『黄道』から、そして神奈と智樹が『エル・ヴァルハラ』という世界が自分の世界らしい。子供達を元の世界に帰す時に必要になるはずだ。
「悠さん達は?」
智樹が悠に出身を尋ねて来たので、恵が代わりに答えた。
「私と妹の明、そして悠さんは『蓬來』から来ました」
悠達の世界は『蓬來』という名で呼ばれていた。だが、人類社会が分断されてからはその様に呼ばれる事は少なくなったが。
「皆、ありがとう。ではベロウ、次の質問だ。貴様は他に召喚を行っている人物や国を知っているか?」
「・・・いや、聞いた事無いな。ウチの国はそれがあったからこそ、この辺ででかい顔してたんだ。他にやってる国があったら間違いなく噂になるはずだ」
「そうか・・・」
やはり香織の生存は厳しいと思わざるおえない。悠は表情に出さずに次の質問へ移った。
「アーヴェルカインの事を教えろ。注意すべき国、人物、種族などだ」
その悠の言葉にベロウはしばし考え込んだ。
「注意すべき国ってんなら・・・まずは間違いなく魔族の国、『ケイオス皇国』だな。この国から見て西に広がる大陸を支配してる。ウチの国が拡大政策を取っていたのも、大体はその国に対抗する為だ」
悠はメモに『ケイオス皇国』と書き、『魔族の国、要注意』を書き込んだ。
「魔族というからには、人間と敵対関係か?」
「当然だろ?あいつら、人間なんて奴隷としか思ってないぜ?あるいは、食料か・・・。魔族は力も魔力も強い。俺もタイマンじゃ、下級魔族で同等くらいだ」
「召喚者を奴隷としか思っていなかったお前も似た様な物だ」
「うぐっ」
痛い所を突かれてベロウが言葉に詰まる。
「まぁ、それは今はいい。それで、他には?」
「・・・狡猾なエルフ共の国、『エルフィンシード』。ここも人間とは敵対関係だ。人間なんて喋る猿だと思ってやがる。エルフはとにかく長寿で魔力が高い。やつらの魔法戦隊は召喚者と拮抗する。いや、魔力の強さだけだな。練度で勝る魔法戦隊相手じゃ、召喚者じゃ現状歯が立たねぇな」
「ふむ・・・」
悠は各国の下に種族と特徴を書き込んで行く。
「それと同等に強いのがドワーフ共。『グラン・ガラン王国』って名だ。ここも敵対しているが、俺達人間よりエルフが嫌いらしくてな。年中どっかで殺し合いをしてるぜ。やつらは魔力は低いが、魔法の様な力を持った武器を使う。重装戦士隊の硬さは世界一だと思うぜ」
サラサラとメモを書きつけていく悠。
「で、力に劣るが数が多いのが獣人の国『ラドクリフ連合』。ここは一言には特徴は言えねぇが、人類と友好的な関係に無いのは間違いない。『獣人を見たら盗人と思え』って言葉がこの世界にはあるくらいだ。特徴が言えないのは、やつら種類が多いんだ。狼みたいのから鳥みたいのまで色々いやがる。特殊な能力持ちもいるらしいが、俺は見た事はねぇな」
ベロウの言葉を聞いていた悠がポツリと言った。
「貴様らは誰かと手を取り合うという発想が無いのか?蛮族か人間は?」
「・・・言わねぇでくれよ、俺も改めて説明してたらそう思えて来た・・・」
ベロウは世界の説明をしている内に、人間が他の種族と敵対しかしていない事を改めて認識し、流石に少々自己嫌悪していたのだった。
他の種族にしてもいい話がまるでない。これも下層世界であるからなのだろうか。
悠は珍しく軽く溜息をついたのだった。
悠達は地球出身ではありませんでした。この辺はまたおいおい。




