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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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幕間2

「クソッ、クソッ、クソッ!!」


自分専用の天幕の中でエンジュは恥辱に身を焦がしていた。


王族であり若手のカリスマでもあるエンジュにとって、昨夜の体験は許容し難い汚点であり、その恥辱をもたらした悠に対する憎悪の念は胸中に業火となって荒れ狂っていたのである。


だが、僅かに残った冷静な思考が悠に対する激発を留めていた。意識して目を逸らしてはいたが、それはきっと間近で焼き付けられた恐怖に起因するのは間違いない。


復讐してやりたい。この身を苛む屈辱を悠にも倍にして思い知らせてやりたい。だが、ほんの指先ほどの刃物で自分達を片手間に翻弄してみせた悠に同じように挑みかかっても同じ結果が繰り返されるだけだ。いや、次は殺されるかもしれない。


それに、今の悠には護衛が付いている。それもただの兵士ではなく、ドワーフの最精鋭たる『天鎧衆』が、だ。一人一人が通常のドワーフ数人分の武力を持つと言われる、ザガリアス直属の武闘派集団が相手ではエンジュの命令は聞き入れられないだろう。彼らはザガリアスの命令以外で動く事はない。


せっかく手柄首が至近にあるというのにそれを取らないザガリアスが何を考えているのかエンジュには分からなかったが、その疑問が尚更苛立ちに拍車をかけた。


もし前回の大勝でザガリアスが成果十分と考えているのなら、エンジュは絶対に受け入れられない。エルフを奴隷として生かさず殺さず飼うのもいいが、その前に示さねばならないものがある。


エンジュ個人の武名だ。


第一王子として奮戦を続けてきたザガリアスは王族の中でも比類無き戦功の持ち主だが、その戦歴には敗戦も多数含まれている。『魔導戦器アームズ』の登場によって盛り返したドワーフだが、エルフの魔法は強力で毎年少なからず死傷者が積み重ねられた。


若年層の中にはそれを不満に思っている者も少なくない。ザガリアスは勇将であり猛将であるが、名将では無いと彼らは感じているのだ。


無論、実際にはザガリアスは十分に将としての役目をこなしていた。ドワーフの誰が指揮をとっても、ザガリアス以上に上手くやれた者は居なかったに違いない。だが、戦場から遠い者ほど瑕疵ばかりに目がいくものである。


だからこそエンジュにもチャンスがあるのだ。


圧倒的な特殊能力でエルフを完封してみせた『機導兵マキナ』。あれさえあれば、兵など最小限の数が居れば事足りるのだから。


前回の戦いでも、『機導兵』六千以外は殆ど武器を構える必要すら無かった。エンジュも魔法を封じられているエルフを一人斬ったが、あまりの弱さに呆気に取られたほどだ。


そして確信した。『機導兵』があれば自分でも比類無い戦功を上げられるのだと。


エルフが女王を戴いているのだ。ドワーフが女王を戴いて何が悪い?


エンジュの秘めたる欲望は、急速に形となってその心を蝕んでいったのである。




それに確かな方向性と実行力が与えられたのはザガリアスが悠と共に出発してから数日後の事であった。


体調不良を理由としてグラン・ガランへの帰還を先延ばしにして天幕に引きこもっていたエンジュの天幕には見舞いと称して幾人もの若者達が出入りしていたが、中で行われていたのは見舞いやご機嫌伺いなどではなかった。


「……で、状況は?」


「さり気なくエルフ共の存在を匂わせています。軍内部でもエルフの斥候を疑う声が大きくなりつつあります」


「偽装に抜かりは無いか?」


「このアガレスを見張るのに都合の良い場所を少々荒らすだけですからね。併せて闇夜に人影を見た気がすると言えば、木や獣の影であってもそれらしく見えましょう」


もたらされる情報に、エンジュは満足げに頷いた。エンジュと同じくエルフィンシードに再侵攻をかけない事に不満を持っている兵士はそれなりの数に上り、彼ら、彼女らはエンジュの下に密かに情報を持ち寄り、決起を促したのである。


エンジュはその願いに即応した。誰かに必要とされ、その集団を率いて手柄をあげ認められるという道筋は、まさに自分が理想としていたものだったからだ。


既に個人の武功などで王を決める時代は終わった、エルフが滅んだ後、そのような物に意味はないと声高に主張し、そうだそうだと唱和する声にエンジュの思考も自然と傾いていった。


そうだ、ただ一人が強いからといって何の意味があろう。ザガリアスであっても100人の兵に囲まれればなす術もなく討たれるだろうし、王たるドスカイオスすら気張ってはいても既に長期戦に耐えられる体ではないのだ。


『機導兵』の出現が個人の武名の終わりなのだと思うと寂寥感はあるが、それで自分の道が開けるのなら文句は言うまい。これからは頭を使える者が勝つ時代なのだから。


「父上も兄上も過去の遺物、詰まらない体裁に拘って戦争を長引かせる必要なんて無いんだって事を分からせてやらないとね! エルフを殺し尽くして堂々と国に帰る、あたしがやるのはそれだけだ!」


エンジュの宣言に天幕内の熱が一段上がった。『機導兵』があれば絶対に勝つのだから、担ぐ者は彼らを勝利に酔わせてくれる、物分かりのいい指揮官であればいいのだ。古い精神論や見栄などより、若者達は勝利こそを求めていた。


『機導兵』によってもたらされた勝利が、ドワーフを2派に乖離させたのは皮肉か、それともこの状況すらミザリィの手の内なのか……。


少なくとも、この場にはそこまで深い考察に至る事の出来る者は一人として居なかったのである。

悠達が居なければそれなりに効果が見込めそうなエンジュの盲進っぷりですが、そんな事はありません。悠達が居ない場合、ミザリィはエルフにも呪いのプレゼントを渡していたでしょうし、その場合、現在の比ではない死傷者が出た可能性が大です。


猜疑心の強いアリーシアをどう口説くのかは若干興味がありますけどね。

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