2-25 自己紹介4
そして恵が続いて年長組として自己紹介を始める。
「私は小鳥遊 恵です。15歳です。家が仕立屋をしているので、お裁縫が得意です。あとお料理も出来ます。それと、そこの明とは姉妹です。これからよろしくお願いします」
そうして頭を下げると、子供達から拍手が上がった。どこに行っても胃袋を掴んだ者は強いのだ。
「じゃあ次はあたしだな!!あたしは大山 神奈15歳!!敏捷上昇の能力を持ってる!!空手で戦えるぜ!!」
そう言って正拳突きを見せるが、その直後にふらりと立ちくらみを起こした。
「およぉ~?」
そんな神奈を支えたのは当然の様に悠だった。
「無理をするな。大怪我は治ったとはいえ、体力は回復していないのだからな」
「あ、あ、あ・・・ははははははぃぃぃいいい!!」
男勝りなせいで男性に免疫が無かった神奈は、悠の腕の力強さに大いに挙動不審になってベットに戻っていった。
「ふぅ、神奈は全く・・・あ、私は東堂 樹里亜です。15歳で、小雪ちゃんとは違う系統の結界術が使えます。こんな感じに」
そう言って樹里亜が手を前に出すと、その前面に半透明の幕が現れた。
「悠さん、ちょっと叩いてみて貰えますか。そこそこ硬いですよ?」
「ふむ・・・フッ!!」
短く息吹を吹き出して、悠は半透明の幕を殴りつけた。それはたわみもせずに、悠の拳を受け止めている。
「これは中々の硬度の結界だな」
「小雪ちゃんのとは違って、私のはひたすら硬いのが特徴です。魔術も物理的な攻撃も通しません、でも・・・今のはちょっと驚きました。やはり悠さん、お強いですね」
良く見ると、結界の一部に小さなヒビが入っている。病み上がりの上、本気で結界を張った訳では無かったが、生身の人間が傷つけられるとも思わなかったのだ。
「じゃあ最後は僕ですね。宮本 智樹です。13歳です。筋力上昇と物理半減の能力を持っています」
「なるほど、先ほどの握力はそれか」
悠はさっき握手した時の智樹の握力が大人顔負けどころでは無い事に気付いていた。悠で無かったら、手を骨折していただろう。生身の悠の5、6割に匹敵する力を智樹は13にして持っていたのだ。
「本当は回復術が良かったんですけどね。僕、医者を目指しているんです」
「なに、だったら世界一強い医者になればいい。どこに行っても患者を救える様にな」
「あはは、それはいいですね!」
そう言って笑う智樹の顔には先ほどの様な憂鬱は見られない。年相応の笑顔を浮かべていた。
「しかし、最後はこの子だ。確か、蒼凪と言ったか・・・」
「葛城 蒼凪ちゃんです。年は分かりません。あと、どんな能力があるのかも。どれだけ嬲られても何も言いませんでしたから。私にだけ、一度だけ名前を言ってくれたんですが、それっきり口を聞いてくれませんでした・・・」
眠り続ける蒼凪の顔は今も苦しみを内包した表情を浮かべている。
「明日はこの子を治療する。それで今度こそ全員揃うぞ」
子供達はその言葉を信じて笑顔を浮かべた。きっと悠なら治してくれるという信頼関係が既に築かれつつあったのだ。
「ねぇねぇ、ゆうおにいちゃん」
その時、明が悠の袖を引っ張った。
「どうした、明?」
「あのおじちゃんはじこしょうかいしないの?」
そう言って明が指差す方向にはキョロキョロして自分の事?と自分を指差すベロウが居た。
「あいつは・・・名も無き兵士その1だ。多分そのうち消えるから別にいいんじゃないか?」
「ちょ!?それは無いだろうよカンザキさん!!俺だってもう諦めたっての!!国には帰れないし、相棒は半死人だし、金は無いし、ここには大人の女もいねーんだぜ!?」
「貴様には物欲しか無いのか。寄るな、子供達にうつる」
「せめて人間扱いしてくれよ・・・メシも一人だけで食ってると切ないんだよ・・・」
軟禁生活にかなり参っているベロウだった。
「おじさん、だめだよ!!」
「あ?なんだこのガキ・・・いや、お嬢ちゃん。それと、俺はまだおにいさんなんだが・・・」
そんなベロウの愚痴には付き合わず、明ははっきりと言った。
「わるいことしたら、まずはごめんなさいでしょ!!みんなにあやまりなさい!!」
紛う事無い、100%の正論である。ベロウも正面から言われてぐうの音も出なかった。
子供たちもその様子を見ていて、明に尊敬の眼差しを向けている。今まで逆らう事など出来なかった相手に明が一歩も引かない様子に感銘を受けていたのだった。
「ほら、はやく!!」
「うぐぐ・・・くそっ、す、す、す、すいませんでしたっ!!!」
それを見た子供達は困惑した。あやまったしゆるしてあげようか?いや、まだゆるしちゃダメだよ、とか盛んに議論を交わしている。
そんな風に妙な雰囲気になった時、樹里亜が悠に耳打ちした。
(悠さん、この人は多分、悪い人ではありますけど、極悪人じゃありません。一緒に居たクライスっていう人は子供達を殺しかけても笑っている様な人でなしでしたけど、この人が子供を甚振っているのは見た事がありませんから。物を取り上げられた子は何人か居ましたけど・・・)
(ああ、分かっている。ただ、簡単に甘い顔をすると、この手の輩は反省せんからな。半分は脅しだ)
(あ、じゃあ私にいい案があるんですけど、やってもいいですか?)
(どんな案だ?)
(それはですね・・・)
こそこそと相談する悠と樹里亜は一つの解決策を練り上げた。それは単純な物だが、子供達に見せるには効果的だと思われた。
「ベロウさん」
その呼びかけに、頭を下げたまま判決を待つ被告の様に待っていたベロウが顔を上げた。
「ん、なんだ、ジュリアか。一体何だ――」
その言葉を言い終わらない内に、ベロウは股間の強烈な痛みに崩れ落ちた。樹里亜の見事な前蹴りが、ベロウの急所にクリーンヒットしていたのだ。
「ごあっ!!!!が、がぎぐぐぐぐぐぐ・・・」
それを見た男性陣は思わず腰を引いてベロウを見た。あの痛みは男に生まれついた物だけが持つ、汚れ無き痛み(イノセント・ペイン)なのだ。悠すら腰こそ引けてはいないが、目を逸らしている。
「そうそう、少し頭が高いと思いますよ?ちゃんと謝る時は、膝は地面に付かないと、ですよ?」
ニコニコと言う樹里亜に男性陣は恐怖の目を向けていた。
「お、お、おま、お前・・・」
「やっ!!」
立ち上がりかけたベロウの急所を、今度は後ろから神奈が蹴り上げた。ちなみに神奈は前述の通り、空手をやっている。病み上がりとはいえ、その蹴りは正確に急所を捉えていた。
「・・・・・・・・・」
今度は声すら出せずにベロウは再び崩れ落ちた。意識が途切れたり、また激痛で覚醒したりを短いスパンで繰り返してはビクビクと痙攣している。
「ま、あたしはこんなもんで許してやるよ。なぁ、樹里亜?」
「ええ。・・・みんな、まだ許せないなら・・・もう一発いっておく?」
痙攣するベロウを見て全員が首を横に振った。ベロウのライフはもう0だ。ついでに、残弾も2発食らったので0かもしれない。
「じゃ、ベロウさん、最後に皆にもう一度謝りましょうね?」
「ず・・・ずびばぜんでじだ・・・」
それを見た皆は、けっして樹里亜を怒らせてはイケナイと心に刻んだのだった。
本当ならこんなもんじゃ許されないんですが、子供達の優しさに感謝して欲しいものですね。
樹里亜は半年生きていたので、ベロウとはそこそこに旧知の間柄です。仲良くはありませんが。