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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-99 石鉄の大伽藍3

「うむ、小気味良し!!」


バシンと両膝を叩いたドスカイオスが再び破顔し、それを人の悪い笑みに変え、ほんの少し声を潜めて悠に語りかけた。


「実の所な、もしお前が言葉が分からないフリをして惚けたり、口先で誤魔化そうとする輩ならワシはこの場でお前を処刑するつもりじゃった! ラグドールやザガリアスと行動を共にしていたのに何か理由があるにせよ、それをまくし立てて保身を図るような者ならどうせ取るに足らん男に決まっておるでな!」


今の問答はドスカイオス流の見極め方であったらしい。野蛮な方法だが、自分なりに惑わされぬ術を見い出したという事か。


だが、悠は元々この王と戦い、権利を勝ち取る為にはるばるグラン・ガランまでやってきたのだ。それを思えば手間が省けたと言っていいくらいだった。たとえ両手を失っても、悠の決意は僅かな亀裂すら入らなかったのである。


ただ、向こうから切り出された事で『一念祈闘ウィッシュ』という形式を取る事が出来なくなってしまったのは想定外であった。『一念祈闘』は挑戦者が申し込まねばならず、他の決闘を控えた者には許されないのだ。


しかし、言葉を弄すればドスカイオスは即座に悠を斬り捨てに掛かったであろう。ならば今はこの流れに乗り、最善を尽くすしかなかった。仲立ちを依頼したザガリアスにも倒れて意識不明なのだから当初案に拘っていても仕方がない。


「見事その牙を示したならば、お前のこの国での滞在を許そう!! もし話を聞くにしても、全てはそれからじゃ!!」


「御意です、陛下」


「うむ!! ではワシは行くぞ!! 18番目の妻を寝所で待たせておるのでな!!」


冬眠から覚めた熊のような圧迫感を振りまきながら、ドスカイオスは立ち上がって踵を返した。


「ああ、それと……ブロッサーーームッ!!!」


「は、はいっ!!」


顔を顰めたくなるような馬鹿でかい声でドスカイオスが呼び掛けると、見た目は人間の少女と変わらないドワーフの少女が顔を出した。身長からして、この少女も王族の一員だろう。


「ユウ、ワシの娘の一人、ブロッサムじゃ! 中々よく気が付く娘でな、決闘の日までお前の世話役を務める!!」


「……ブロッサムです、ユウ、殿」


「それは有り難いが……宜しいのか?」


目礼し、悠が思わず尋ねたのも不思議ではないだろう。たかが囚人一人の世話に王族を付けるなど、馬鹿げているにもほどがある。人質に取られたり傷物にされたりする危険性も少なからずあるのだから、それは当然の疑問だった。むしろ正気かと尋ねなかっただけ自制した方だ。


それに対しドスカイオスは闊達に笑って答えた。


「なに、もしもお前がブロッサムに何かするようなら、所詮その程度の男だったという事じゃ!! が、人質などはやめておくがいいぞ……」


不意に、ドスカイオスの周囲が揺らめき、景色が歪む。体から発する熱と研ぎ澄まされた殺気が物理的精神的の二面で視界を歪めたのだ。


「ワシの刃はそのようなもので鈍りはせんし、ブロッサムも王家の女、辱めを受けるくらいなら死を選ぶ!! 死の苦痛を長引かせたくないのなら下らん事は考えん事じゃな!!」


これもまた悠の人品を見定める一環という事だろうか。もしブロッサムに何かをするようなら話す価値無しと断じてあっさりと処刑するという事だ。この場での言葉が嘘ではないのだと証明し続けろとドスカイオスは言外に言っていた。


勿論、悠に恥じる所など何もないのでその殺気を真正面から受け流した。


「了解です、陛下。ブロッサム殿下、宜しくお願い申し上げます」


「うむ!!」


「はい……」


悠の答えに殺気を霧散させたドスカイオスは、最後にブロッサムに言付けた。


「ブロッサムや、ユウについてはその一切をお前に任せる!! 食わせる物も酒も枷も、或いは女や武器でもお前が許すなら好きにしてよい!! が、牢からは出してはならん、よいな!?」


「畏まりました」


頭を下げるブロッサムに頷き、ドスカイオスは悠に言い捨てた。


「ユウ、決闘は明後日の朝じゃ!! 牢を出なければ、後は好きに振る舞うがよい!! もっとも、ブロッサムに嫌われては不自由な2日間になろうがな!! ご機嫌取りでもするか!?」


「生憎と媚びる為に振る尻尾は生えておりません」


「む……ガッハッハッハッハッ!!! なるほどなるほど、獣人ならぬ我らには不可能じゃな!!! ダッハッハッハッハッ!!!」


悠の冗談が殊の外気に入ったのか、ドスカイオスは呵々大笑しつつドスドスと牢屋を後にした。思いがけない展開だったが、目標であったドスカイオスとの面会が叶ったのだから悪くはない結果であろう。あとは決闘で結果さえ残せば一歩ずつ前進していけるはずだ。


そんな事を悠が考えていると、その場に残されていたブロッサムが唐突に悠に声をかけた。


「……さあ人族、ここに至るまでに何があったのか私に話しなさい! なぜ大兄様おおあにさまやラグドール小父様、ミズラがあんなお怪我をなさったのですか!? 返答如何によっては許しませんよ!!」


一難去ってまた一難。先ほどまでは口数少なく従っていたブロッサムが別人のような剣幕で問い質すのを、悠は感情を宿さない瞳を向けて答えた。


「……それはお三方の内のどなたかが目をお覚ましになってから尋ねるべきです。自分は陛下より口先だけで事情を語る事を戒められておりますゆえ」


「なっ!? く、口応えするつもりですか!? この私が話しなさいと言っているのですよ!?」


「申し訳御座いませんがお断りさせて頂きます。陛下が居ないからと言って前言を翻すのは自分の流儀ではありません」




「この……い、言わないとご飯を食べさせてあげませんよ!?」




……。


まさか、今のが恫喝のつもりなのだろうか? 悠は割と真剣に考えたが、ブロッサムにどんな思惑があろうと、彼女を配したドスカイオスが何を狙っていようと自分は自分の立場を貫くだけだと思考を中断した。


「……たとえ何と仰られようと、自分に話せる事はありません。気分を害されたのなら戻られて結構です」


一度これと決めたなら滅多な事でそれを曲げたりしない悠である。特に今のように曲げる必要性を全く感じない状況で悠が返す言葉としてはこう答えるしかなかった。


「な、何よ何よ私の事を馬鹿にして!! この石頭!! ボロ雑巾!!」


そしてブロッサムにはその手の耐性が全く存在しないようだった。悪口の語彙も貧弱で、悠を罵る言葉もあっという間に底をついてしまった。これが雪人であれば何時間でも手を変え品を変え角度を変え、実に楽しそうに罵り続けた事だろう。それを考えれば、多分悪い人物では無いのだなと悠には思えたくらいだ。


一向に堪えぬ悠にいつしかブロッサムの方が涙目になり、結局最後に出て来たのは、


「ば、ばかっ!! ばかーーーっ!!!」


という、低年齢層の負け惜しみとしか思えない酷いもので、目元を擦りながら走り去るその姿は敗走以外の何物でも無かった。




一足先に悠の下を去ったドスカイオスは先祖代々の霊廟ともなっている大伽藍の、王族専用の一角で胸を押さえ膝を付いた。


「ぐっ……! おのれ、日に日に間隔が短くなりよる……!」


齢500歳を超え最強の肩書きを持つドスカイオスだったが、500歳とはドワーフの中でも相当な高齢である。同年代の者達の殆どは既にこの世を去り、天より与えられた寿命は尽きようとしていた。


「まだじゃ、まだ死ねん! ワシは戦争を始めたドワーフの王として、大願を成就せねばならぬ!!」


或いはあの人族が何かの契機になり得るか? 発作の度に痛む胸を握り締め、ドスカイオスは鉄で作られた先王の墓標に縋り付いた。


「偉大なる父王ゴルドランよ、我にもうしばしの猶予を与えたまえ!! 全てのドワーフに安寧をもたらすその日まで……!」


口の端から血を流し墓標に体を預けるドスカイオスの姿は、悠すら感嘆させた力感とは程遠い、枯れかけの老木のように見えた。雄々しく根を張り、枝を伸ばし、葉を茂らせ数多の果実を実らせた巨木は、それゆえに誰よりもその重さに耐え続けねばならなかった。


その悲哀を、知る者もなく。

また忙しくなる前に更新できるだけ更新します。


ブロッサムは実に残念な匂いがしますね!


余談ですが、ドワーフの王族は人間やエルフの王侯貴族のようにチャラチャラした服は着ていません。庶民の物よりも作りはしっかりしていますが、単に防御力が高いくらいの差でしかありません。ドスカイオスがそういう贅沢を好まないので服装に関しては質実剛健なんですね。


と、この辺で少し軽い話も入れていきたいなと思っています。

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