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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-98 石鉄の大伽藍2

ピタン……ピタン……ピタン……


どのくらいの時間が経っただろうか。


「……………………」


顔に滴る水滴の感触に、悠はフッと目を覚ました。一瞬で完全覚醒を果たした意識は素早く像を結び、悠に周囲の情報を伝達する。


「……牢、か……」


《気が付いたか、ユウ?》


「スフィーロ」


目に映る鉄格子からここが牢屋と判断した悠にスフィーロが応えると、悠は横になっていた体を起こす。


途端にジャラジャラという金属音が悠の耳を打ち、悠は自分から発生した音の出所に目を落とした。


《ご丁寧に枷まで付けていきおったわ、あの腐れドワーフ共が……!!》


悠の両足には金属製の輪が嵌められ、そこから伸びる太い鎖の先には見るからに重そうな鉄球がそれぞれの鎮座していた。よほどの筋力自慢でもこれを引きずって逃げるのは叶うまい。


《我は決めたぞ。お前が何と言おうとここの奴らには生き地獄を味わわせてやる! ドラゴンズクレイドルに召集をかけ、手の届かぬ場所から嫌というほど理不尽な暴力というものを思い知らせてやるからな!》


「そう怒るな。あの場で殺されなかったのだから、最悪の状況は免れただろうよ」


《お前はもっと怒れ!》


「まあ待て。俺の為に怒ってくれるのは嬉しいが、そう喧嘩腰では話も出来んぞ?」


《だ、誰がお前の為になど!! 我は……そうだ、レイラの代弁をだな……!》


「分かっている、済まん」


《……フン……》


胸の内を吐き出して少し冷静さを取り戻したスフィーロは黙り、しばし沈黙が訪れた。が、怒りの残滓が治まりきらない不平となって漏れ出す。


《兵がアレでは王とやらにも期待は出来んな。どうせすぐに頭に血が上る単細胞に決まっている》


「人物評に関しては否定はせんよ。口より手が先に出る性格なのは間違い無いようだからな」


そう言って悠は自分の体調を診察してみた。殴られた場所や損傷した肺は依然として痛むが、体内に注入された毒は粗方分解されていた。竜気プラーナも多少回復したが、『光源ライト』が発動しなかったので魔法阻害は働いているようだった。


そして悠の装備に関しては衣服以外は残らず没収されてしまったらしい。爆発の最中に上半身の衣服と左手の小手ガントレットを無くしたのは仕方ないとして、残った右手と龍鉄の靴も持って行かれてしまったようだ。


「寸鉄帯びぬ、といった所か」


いくら悠が超人的な身体能力を持っていても生身でやれる事には限度があった。もっと粗末な牢や拘束であれば破壊して逃げる事も可能だが、殆ど使い物にならない両手に加え、魔法も封じられていては強引な手段を取るのは難しい。


《落ち着いている場合では無いと思うがな。今のお前の姿と仕打ちを知れば、屋敷の連中はドワーフ共と全面戦争に踏み切りかねん》


「……連絡が出来ないのは怪我の功名かもしれんな」


悠が無惨に捕らわれたと知れば、それは最も高い可能性を持った予測であろう。悠に大恩ある殆ど全ての者が救出を試みるに違いない。場合によっては人間、エルフ、ドラゴンの他種族連合を結成し、一夜にしてグラン・ガランを消し飛ばしかねない。


「だが、いくら近視眼的になっていたとしても、牢に入れたという事はまだ俺を殺す決断を下した訳では無かろうよ。あの場でも打ち据えはしたが捕らえる事を優先していたくらいだ。話をする機会はあろう」


悠が抵抗しなかったのはそれが理由であった。ある程度痛めつけて溜飲が下がるのならと受け入れたのだ。流石に問答無用で殺害に走るようなら可能な限り抵抗していただろう。


《そんな呑気な事を言っている場合か?》


「俺も考え無しに行動している訳では無いぞ、スフィーロ。俺に弁明の機会が無くとも、ザガリアスやラグドールが目を覚ませば事情くらいは通してくれるはずだ。子供らの証言では難しかろうが、そのくらいの信頼はあると思う」


《なるべく早く目を覚ましてくれる事を期待するのだな。こんな場所に何日も閉じ込められるのは実に不毛だ》


ザガリアスやラグドールが悠に対し何の弁明もしないという事は有り得ないだろう。最良の結果として牢から解放され、客人として対応してくれるかもしれないのだ。最悪でも有無を言わさず殺したりはしないはずだ。


「今は機を待つ。いざという時の為に回復に努めねばならん」


《歯痒い事だ……おい蛇、貴様は何か出来んのか?》


悠の腕にある『無限蛇』にスフィーロが呼びかけたが、『無限蛇』は沈黙を守ってピクリともしなかった。余談だが、『無限蛇』が奪われなかったのはどうやっても悠の腕から外せなかったからであり、スフィーロが奪われなかったのは先にレイラに触れたドワーフが意識を失うほどの強烈なショックに見舞われたからだ。たとえ眠っていても無遠慮に触れる者をレイラは決して許しはしないのである。


《使えん奴めが……》



「絡むなスフィーロ。今しばらくは……」


と、悠はそこで不自然に言葉を切った。一定の間隔で滴っていた水滴のタイミングが微妙にズレたのだ。


「誰か来る」


それは僅かな震動により生じたズレであった。つまり、かなりの質量を持った何者かがこの場に近付いているのだ。


そう考える間にも揺れは次第に大きくなり、薄暗い牢に巨大な影として姿を現した。




「ほう……あれだけ痛めつけられてただの人族がまだ生きておったか!! せっかく叩き起こそうと持ってきた水が無駄になったな!!」




鉄格子がビリビリと震えるほどの大声に、スフィーロは内心で顔を顰めた。


現れたドワーフは規格外と言うのも馬鹿馬鹿しいくらいの巨躯を誇る、筋骨逞しい偉丈夫であった。丸太のような胴回りに巨木の枝といった手足が生えるそのドワーフは、どう見ても身長2メートルを遥かに超えていた。


水の入った桶をその場に置き、ズンズンと歩み寄るそのドワーフが誰なのか、悠は一瞬で悟った。そもそも該当する人物などただ一人しか居なかったからだ。


「おい人族、言葉は分かるか!? 少しだけだが話したと兵が申しておったが……ワシの前で惚けるとためにならんぞ!!」


「……そう大声を出さずとも聞こえております、陛下」


敬語を用い、尊称を付ければそれがグラン・ガランでただ一人しか該当しないと誰であっても理解し得ただろう。つまり、目の前の人物こそが……


「済まんな、これが地声じゃ、許せ! ……お主の考える通り、ワシがドワーフの国王、ドスカイオス・ヴォルカニック・グラン・ガランじゃ!」


顔全体を笑みにして、ドスカイオスは豪快に笑った。




悠と鉄格子越しに対峙したドスカイオスがその場にドスンと腰を下ろすと、悠も不自由ながら体勢を整えて胡座をかき、軽く頭を下げた。


「このような有り様ゆえ、礼を欠く事をお許し下さい」


「良い! 囚人に礼儀など期待してはおらんからな!」


どうやらドスカイオスは些末な事柄には拘らないタイプの人物のようだ。見た目通りに豪快な性格らしい。……単純と断ずるのは早いが、少なくとも裏表は無さそうだった。


グイッと顔を悠に近付けたドスカイオスは相変わらず肉食獣のような笑みを湛えたまま言い放った。


「貴様、名は!?」


「悠と申します」


「ふむ、ユウ、ユウか! 覚えやすくていい名だ、名付けた父母に感謝せよ!」


「生憎と自分は両親を亡くしておりますが、これまで感謝の念を忘れた事は御座いません」


「それは良き心がけじゃな! それに……」


わざわざ頭を上下に動かし、ドスカイオスは笑みを深くした。


「……強いな、ユウよ! 牢に運び込まれる時にチラリと見たが、やはり見間違いでは無いらしい! まあ、だからこそ生きていると思って水を持ってきたのじゃがな! いやぁ、ワシの目もまだまだ衰えておらん!」


ガッハッハと笑うドスカイオスを見て、悠もまたその実力を肌で感じ取っていた。


ハッキリ言って、化け物の範疇だ。ザガリアスも優秀な戦士だが、ドスカイオスはそれを更に数段上回っているのは間違い無い。悠の周囲に強者は多いが、白兵戦ならばファルキュラスに匹敵するかもしれず、バローやシュルツでさえも剣だけに限定して戦えば不覚を取る可能性が非常に高いと感じた。


世界五強の名に恥じぬ、凄まじい戦闘力だ。


「じゃが、惜しむらくはその傷か! それではもう戦えまいに!」


ドスカイオスの目が悠の両手を捉え嘆いてみせたが、悠は真っ直ぐに言葉を返した。


「無くなったものは仕方ありません。ですが、自分の牙はまだ失われておらぬつもりです。陛下は敵を前にして両手が無くなったから戦えないと許しを乞うのですか?」


「馬鹿な!! 手が無かろうと、この歯で喉笛を噛み千切ってくれるわい!!! ……うむ、些か無礼な物言いじゃったな、済まん!」


過失を認め、すぐに頭を下げたドスカイオスに悠は不要と首を振った。これまでに出会った如何なる王とも違う精神性を眼前の王は持っているようだ。この場に一人でやってきたのがその証左と言えるだろう。


「さて、ユウよ、お前の話を聞いてみたくあるが、ワシは言葉というものを信じておらん! 特に最近の若い者は平気で適当な事を並べ立てるのでな! あの忌々しきエルフ共に毒されたに違いない!」


しかし、そこは流石にドワーフの王、エルフに対する不信感は誰よりも深いようだ。ここで事情を話しても決して揺れない芯のような物を悠はドスカイオスから嗅ぎ取った。


「ならばどうすれば自分の言葉に耳を傾けて貰えますか?」


「ククク……分かっておって尚それを尋ねるとは中々の演者よ! いや、生粋の戦士か……」


ドスカイオスの笑みが消え、大音声が牢に響き渡った。


「まだ牙は失われておらんとのたまうなら、その身をもって証を立ていっ!!! 口先だけの戯れ言にこのドスカイオスが耳を貸すと思うなよ!!!」


予測通り・・・・の言葉の余韻が残る中、悠は深く頭を下げ、即答した。


「委細承知」

脳筋の親玉は当然その上を行く超脳筋!! ですが、浅いのか深いのかよく分からない人物ですね、ドスカイオスは。


というか、この状態で即答する悠も大概なんですが……。

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