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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-88 這い回る悪夢3

(気付かれたか?)


悠から視線を逸らしたミズラは内心の動揺を抑え竈の作成と火おこしに集中しているフリをした。


ミズラがこの旅程を希望したのは、ラブサンの言う通り悠に対する興味からである。アガレス平原に残ってもさして出番があるとも思えず、それならば父と互角に対峙して見せた悠をもっとよく観察しようと思ったのだ。


ラグドールは国内屈指の強者であり、ドワーフ全体で見ても五指に入る勇者だ。そんな父とまだ数十年しか生きていない人族が拮抗して見せたのはミズラの興味を大いに引いたのだった。


(どんな修練を積めばそんな事が出来る? 特別な鍛練法か、優れた師か? それとも個人の資質なのか?)


聞きたい事は沢山あったし、出来れば手合わせなどもしたかったが、『天鎧衆』に所属しているとはいえ、ミズラはドワーフの女性である。父や王子であるザガリアスが居る前で悠をあれこれ質問責めにするのは、はしたないと思っているのだ。今では古風とすら言われかねないが、これもラグドールの教育の賜物であろう。


当の悠はロックリザードの餌を桶に入れ、餌やりをこなしていた。一瞬ブフレストが仕事を押し付けたのかと勘ぐったが、軽く睨んでやると口パクで「ユウ殿がやりたいって言ったんだよ!」と慌てて言い返して来た。エルフィンシードで『火将』の地位を得ているというのに雑用をやりたがるとは、全くおかしな人族である。


餌を貰っているロックリザードも妙に従順であった。悠の隣でザルマンドが鳴いているが、それがこのヒトのいう事を聞かなきゃ怖いんだからね! と注意しているように見え、益々首を捻る。普段のザルマンドなら尻尾で桶をひっくり返すくらいはしていてもおかしくはないのだが……。


(人族で、悪名高きエルフィンシードの『六将』で、武芸の達人で、気難しいロックリザードを手懐け、たった一人でドワーフの下に乗り込んできた男……分からん、どういう人物が全然分からん!)


考えるだけでは答えは出そうになく、ミズラはやはりこの旅程の中で時間を見つけ悠を問い質そうと決意したのだった。




翌日は生憎の雨模様で、昼を過ぎる頃には雨足は一気に激しさを増していった。舗装もされていない街道は水の通り道となり、一行は足を緩めざるを得なくなったのである。


「これは敵わんな。今日中に駐屯地まで行くのは厳しいか」


「左様ですな。この有り様では予定の半分も進めますまい」


10メートル先すらよく見えない状況でロックリザードを走らせるのは危険過ぎると判断したザガリアスとラグドールはその日の駐屯地到着を早々に諦め、まだ明るい内にと雨を凌げる場所を探し、街道から離れた場所にある小さな洞窟に身を寄せた。


「やれやれ、こんなに酷い雨は久しぶりだぜ」


「ああ。だがこの時期の雨は長くは続かんし、明日には晴れるだろうよ。見張りはブフ、俺、ミズラでいいだろう」


「分かった。しかし、本当に酷い雨だな……」


その時、濡れた髪を掻き上げるミズラの鼻先に布が差し出され、ミズラの視線がその先を追うと悠の顔が目に入った。


「使うといい。濡らしたままでは体に良くない」


「あ、ああ……ありがとう……」


虚を突かれたミズラが受け取ると、悠は他の者にも布を渡し、装備を外し始めた。


「着替えた方が良かろう。『乾燥ドライ』を使える者は居ないのだろう?」


「そんな器用な魔法を使えるドワーフは一握りだ。ユウ、お前こそ『火将』なら使えないのか?」


「構成は知っているが……」


火属性魔法である『乾燥』を『火将』である悠が使えないはずがないとザガリアスが指摘すると、鎧を外したブフレストが自分を指差しながら前に出た。


「おっ、使えるんなら俺に試してみてくれよ! 早くサッパリしたいんでね」


「……実際に使った事は無いから上手く乾かないかもしれんぞ?」


「いいっていいって、どうせこの雨じゃ干しておいても乾かないしな!」


「そうだな、大して魔力マナも食わないだろうし、そうして貰えるなら有り難い」


「私も頼みたいな。そんなに着替えばかり多く持っている訳では無いし……」


「……」


どうしてもと懇願するブフレストにラブサンやブフレストも乗り気になり、悠は殺傷能力の無い『乾燥』ならばそう危険も無かろうと、アライアットでハリハリが使っていた魔法陣をそのままなぞり、ブフレストに触れると発動させた。


「『乾燥』」


……さて、突然だが、悠は『火竜クリムゾン』シリーズ以外の魔法を殆ど使う事は無い。竜気プラーナを用いる悠が普通の魔法を使うと出力過剰になり、思わぬ暴発を引き起こしたりするからである。『火の矢ファイヤーアロー』が熱線連射になって危うく火事を起こしそうになった事もあるので、新しい攻撃魔法を使う時はハリハリに確認を取ってから試しているのだ。


だが、単に水分を蒸発させる『乾燥』を服に掛ける程度であれば構わないと思って発動した悠の『乾燥』は確かにブフレストの服を一瞬で乾かした。


「おおっ、スゲェや!! なあ、お前らも早く――」


と、ブフレストが『乾燥』の威力に感動し振り向いた瞬間、ブフレストの身に着けていた服がバサーッと音を立てて崩壊し、無数の埃となって舞い散り、地面に蟠った。


「「「…………」」」


水分0%、完璧な乾燥に晒された衣服は糸と糸の連結を壊され、丈夫なはずの軍の支給服を消し飛ばすという、誠に残念極まる効果を発揮して見せた。


「……ハリハリの呪い、か……」


《いや、今のはお前のせいだろう……》


「だああああっ!?」


文字通り一糸纏わぬ姿に成り果てたブフレストは頬を真っ赤に染めるミズラを認識した瞬間、股間を隠して洞窟の奥へ奇声を発して逃げ去った。これだからハリハリの魔法は恐ろしいのだ。


ふとミズラと目が合うと、ミズラは自分の体を手で隠し、ジリジリと後ろに下がっていく。その目が不信に満ちていて、悠は思わず首を振った。


「……大丈夫だ、次は上手くやる」


「ま、まだやる気なのか!? 私を剥いて何をする気だ!?」


「ユウ殿!! ち、父親の前で狼藉とは見過ごせませんぞ!!」


マフィン家から信用を失った悠は早めに失点を取り戻そうと、次に控えていたラブサンに手を伸ばし、威力を弱めた『乾燥』を発動させた。


「あっ!?」


「ほら、調節さえ上手くやれば問題は――」


言い切る前にラブサンの胸と股間の布だけがくり抜かれたかのように崩れ、ある意味先ほどのブフレストよりも卑猥で無残な姿を晒し、やはり股間を隠してブフレストの後を追った。


「「「……」」」


ミズラとラグドール、更にザガリアスまで悠を冷たい視線で睨むと、さしもの悠も一つ溜息を吐き、深々と頭を下げた。


「……済まん。だが次は大丈夫――」


「「「まだ諦めてないのか!?」」」


謝るのかと思いきや、まだ『乾燥』に拘る悠にドワーフ達は戦慄を隠せなかった。


神崎 悠。諦めるという事を知らぬ男である。


げに恐ろしきはハリハリの呪いなのだ。そうに違いない。




「へぷしょーい!!」


「ハリー先生、風邪ですか?」


「うぅん? 基本的にもうワタクシは風邪なんて引かないはずなんですけど……」


「え? ……ああ、バカだからですか?」


「セレス殿が酷い!!」


「それより『跳躍ショートリープ』とやらを教えてくれるのでしょう? 早くして下さい、私も忙しいので」


「もう、分かりましたよ。ではお手を拝借」


「はいはい」


……セレスティ絶叫まで、あと……。


魔法をぶっつけ本番で使うのは止めましょう。


ちなみに、ハリハリが風邪を引かないのはドラゴンの肉で免疫力が高まっているからで、バカだからじゃないです。多分。

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