表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
1024/1111

10-87 這い回る悪夢2

「……『天鎧衆』は割と排他的な集団だと思ったのだがな……」


「それは誤解です、若様。我々は真の強者には胸襟を開くのを厭う事は御座いません」


「酒に釣られたのと違うのか?」


「おのれもユウ殿を認めたからこそ我らを護衛につけたのだろうが。邪推が過ぎるぞジジイ」


「お前だってジジイではないか!」


「もうよせ、お前らは同い年だろうが」


ドルガンとラグドールの不毛な言い争いを手で制し、ザガリアスはラグドールに問い掛けた。この2人はいわゆる幼馴染なのだが、そのせいかこうして歳を重ねて要職を得てもノリが昔のままなのだ。喧嘩友達というものであろう。


「お前の目で見てもやはりユウは強いか?」


「強い、などという範疇で収まる人物ではありませんな。はっきり申しまして、儂よりもずっと上でしょう。ただの木の棍を前に大汗を掻くほど緊張したのは初めてです。あれほどの将器を持った人物は歴代の陛下以外思い当たりませんな」


率直に褒める、というよりも絶賛するラグドールにザガリアスも苦笑して頷いた。


「エルフ如きには勿体無い男だ。しかし、俺の権限ではユウをグラン・ガランに入れてやるまでで精一杯でな……」


「……なるほど、若様は本当にユウ殿を気に入っておいでなのですな」


「私情は挟んでおらんぞ? ただ俺はユウの話に聞くべき所があると思って……」


自分で話していても言い訳じみていると感じたのか、憮然として口を閉ざしたザガリアスにラグドールは目を細めた。


「分かりました、ならばグラン・ガランへは儂も同道致しましょう。戦のないアガレス平原の確保くらいはそこの老骨だけでも十分こなせるはずです」


「また一言余計だぞ」


「うむ、他に『天鎧衆』から2、3人見繕ってくれ。俺だけだと馴れ合いに見られるかもしれん」


また口論が始まる前にザガリアスが指示を出すと、ラグドールは恭しく頭を下げた。


「では早速選定して参ります」


「1時間後には出るぞ。支度も併せて済ませておけ」


「10分と掛かりません」


豪語するラグドールが出て行くと、ザガリアスは軽く顎の髭を引っ張った。


「気難しいラグドールを言葉に拠らず説き伏せるなら、俺の目が狂っていた訳ではなさそうだ」


「ただの頑固ジジイで御座いますよ」


「爺もほとほと強情よな……」


鼻を鳴らすドルガンだったが、ふと表情を改め、実務的な事を口に出した。


「……若、万一エルフ共が攻めて来たならば、儂の裁量で戦っても?」


悠が交渉に赴いたからといって気を緩めるほどドルガンは耄碌しておらず、問われたザガリアスも別人のように殺気を滲ませ頷いた。


「無論だ。……いや、命令として発しよう。ドルガン、もしエルフが我らに敵対行動を取ったならば俺が不在でも構わん、奴らの悉くを滅せよ。エルフ共をこの世から消滅せしめるのだ。あれほどの男を捨て駒にしか使えんのなら、俺はエルフに存在価値など認めぬ。悶え、苦しみ、そして滅べばいい」


ザガリアスの中でエルフと悠は既にイコールで結ばれてはいなかった。それだけドワーフのエルフに対する不信感は根強いのだ。


むしろ、裏を掻くつもりなら早く行動を起こして欲しいものだとザガリアスは思っていた。エルフを信じているらしい悠も、そんなエルフ達の醜態を見ればやはりエルフは邪悪な種族だと見限り、正式に客人として迎え入れられるかもしれない。そうなれば死亡確定の『一念祈闘ウィッシュ』などしなくて済むのだから。


「ユウと肩を並べて戦う日が訪れるといいが……」


――ザガリアスはこの時、単なる願望を口に出しただけだったが、運命を司る神とやらがもし居るのだとしたら、きっと地獄耳に違いない。


何故なら、ザガリアスの願望は遠からず叶えられる事になるからだ。


ただし、それが彼らですら命を懸けねばならない、絶望的な戦場であろうとは神ならぬザガリアスには知る由もない事であった。




「それでは行ってくる。ドルガン、後は頼んだぞ!」


「お任せ下さい。何があろうとこの場は死守致します」


「ユウ、リザードの騎乗に支障はないか?」


「問題ありません。馬よりよほど従順ですな」


悠が跨がる体長5メートルほどの蜥蜴はロックリザードと呼ばれるドワーフ領の固有種であり、非常に穏和で従順な性質を持つ魔物モンスターである。ドワーフは古来よりこのロックリザードを飼い慣らし、乗騎や運搬に重宝してきたのだ。体力があり悪食にも耐える彼らはドワーフの生活になくてはならない友であった。


欠点は馬より足が短く、ザガリアスや悠のように長身の者が乗るとかなり膝を折り畳まねばならない事だが、長年の人為交配によってザガリアスの乗るネビュラや悠のザルマンドは普通のロックリザードより巨大化しており殆ど馬に乗るのと変わらないのは有り難い事であった。


「ザルマンドは割と気分屋なのだが、ユウにはよく従っているようだな」


プライドが高いのか、ザルマンドはあまり背中に他者を乗せるのを好まず、専ら運搬に用いられていたロックリザードである。下手な者が乗ると嫌がって振り落とす事すらあるのだが、悠を乗せたザルマンドはピシリと姿勢を正し、まるで優等生のようだ。


これは別にザルマンドが悠を乗せて誇らしく思っている訳では無く、僅かに漏れる竜気プラーナによるものであった。


ドラゴンの竜気は中レベルまでの魔物に対する忌避効果があるが、ザルマンドは自分の上に乗っている者がそれを発している事に気付き、粗相をすれば狩られると猫を被っているのである。……蜥蜴なのに。


「まあ良い、ネビュラに2人乗りをするよりはその方が早かろう」


「では参りましょう」


ラグドールが配下の『天鎧衆』と頷き合うと、リザードはすぐに反応して南へと走り出した。悠が軽く促すとザルマンドは前を追えばいいんでしょ? とでも言いたげにスルスルとその後を追い始める。どうやら知能は高いらしい。


「どうだ、上下して走らない分、馬より快適ではないか?」


「ああ、これは中々具合がいい。悪路にも強そうだ」


ロックリザードは走る際に柔軟な手足を前後させて走る為、揺れが殆どなく、操縦者が疲れにくい。また、爪がしっかりと地面を捉えるのでかなりの斜面でも登る事が可能である。馬に譲るのは平地での最高速度くらいのものだ。


「1日にどの位走れるんだ?」


「そうだな……平均的なロックリザードで1日200キロほど、時間にして10時間くらいは走れよう」


平均時速で20キロ出せるならこの世界の乗り物としては上等な部類であろう。瞬間的な最高速度であればその倍ほどは出せそうであった。


ザガリアスはグラン・ガランへの最短距離を突っ切るのでは無く、走りやすい街道を行く道を選んだ。ドルガンにアガレス平原を任せている以上、それほど急ぐ必要がないと考えたからだ。それに、悠がグラン・ガランに到着する前にエルフが行動を起こさないかという期待もあった。


……彼らは敵に対しては細心と言える注意を払っていたが、そんな彼らでも一つ見落としている事があると、ザガリアスは気付いてはいなかった。


ザガリアスがそれに気付くのは、もうしばらく経ってからの事であり――


彼らにはその前に超えねばならない試練が用意されていたからである。




グラン・ガランまではロックリザードに乗って4日という所である。直線距離ならばもっと短いが、道なりに走るとそのくらいは掛かるのだ。


アガレス平原周辺に村はなく、駐屯地は行程の半分ほどの所に備えられているので今日は野宿だ。


「そろそろ陽も傾いてきたな。今日はここまでにしよう!」


ザガリアスが声を掛けると先を行くラグドールは振り返って頷いた。そのまま少し走ると野営に適した場所を見つけ足を止める。


「この辺りは夜でも暖かいな」


「この先は人族には少々酷な暑さになるぞ。……まあ、お前がその程度で音を上げるとは思えんがな」


現在地は既に人族の南端である、ギルド本部があるクォーレルよりも南であり、亜熱帯に位置する場所である。この先も南に下るなら、グラン・ガランは完全な熱帯であろう。


しかし、初めてロックリザードに乗って長乗りしたはずの悠は涼しい顔でザルマンドから降りた。


「ミズラ、ブフレスト、ラブサン、お前達は野営地を設営しろ」


「「「はっ!」」」


流石実戦で仕込まれている『天鎧衆』は機敏な動作でそれぞれの作業に移っていった。天幕の設置や煮炊きする火の準備も見る見る間に進んでいく。


ザガリアスとラグドールがこの後の行程について話し合っている間に、悠は天幕の設置を手伝う事にした。


「俺も手を貸そう」


「客人は休んでなよ。客を働かせちゃ隊長にブッ飛ばされるんでね」


「お疲れ……では無いようですが、酒の礼だと思って下さい」


やんわりと断られた悠だったが、その言葉には首を振った。


「俺が来なければ君らはアガレス平原に居られたはずだ、面倒を掛けている俺が何もしない方が落ち着かんのだよ」


悠の言葉にブフレストとラブサンは顔を見合わせ、同時に軽く吹き出した。


「ハハッ、どうやら客人は見た目よりも細やかな精神をしていらっしゃるな、ラブ!」


「ブフ、失礼だぞ? ……しかし、客に気苦労を負わせるのも忍びない、ならばロックリザード達に餌をやってくれませんかな? そろそろ腹を減らしていると思いますので」


「ああ、分かった……?」


そう答えた時、背後から視線を感じた悠が振り返ると、火をおこしていたドワーフが――おそらく消去法でミズラという名のドワーフだろう――慌てたように視線を逸らした。実はこの旅程の間に悠は何度かこのミズラの視線を感じていたが、敵意や殺意とも言えず首を捻った。


「ミズラが何か?」


「いや……何度か俺の方を見ていた気がしてな。やはり人族が物珍しいからか?」


「……ああ、それは多分ミズラが隊長の娘だからでしょう」


「娘?」


ラブサンの「娘」という単語で、悠は初めてミズラが女性なのだと気が付いた。


「……髭が無いのは少年兵だからではなかったのか……」


「あのね……『天鎧衆』が少年兵なんぞ受け入れるわきゃないでしょうが。その感想、ミズラには言わんで下さいよ」


「『天鎧衆』初の女性隊員として、ミズラは良識ある女性陣の憧れなのです。そこは考慮してやって下さい」


《お前は本当にデリカシーに欠けるな。レイラが口を酸っぱくしていつも注意しているだろうが。メスだという事くらい匂いで分かれ》


ブフレスト、ラブサン、ついでにスフィーロにまで諭され、反論など一言も無い悠であった。

6人1パーティーでの旅程です。


お調子者のムードメーカーブフレスト、しっかり者の抑え役ラブサン、ラグドールの娘ミズラを加え、ロックリザードに乗ってのんびり異国旅情……とはいかないのが悠の宿命なのですが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ