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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-65 世捨て人4

それ以降も屋敷には様々な細かいギミックが施されていて薄気味悪さを演出していた。どこからともなく響く唸り声や突如傾く絵画、手を触れていないのに閉まるドアなど、拘りが変質的ですらある。


「カンナさんが居たら大変な事になっていそうですね」


「Ⅶ(セブンス)の魔物モンスターとでもやり合えるだろうに、こういうのダメだもんなアイツ」


「私に対しても未だに腰が引けているからな……まあ、男勝りなカンナはそのくらいの可愛げがあってもいいさ」


オカルト存在が苦手なカンナはギルザードに対してまだ怯えを見せる事が度々であった。シャロンくらい完全な人間型なら大丈夫だが、死んでいるはずの生物が動いているというのがダメらしい。多分、デメトリウスも見た瞬間悲鳴を上げるだろう。ギルザードは個人の好悪に寛容であった。


今一行の案内役を務めているのは内部に居たスケルトンであるが、その服装はなんとメイド服である。樹里亜ならメイドと冥土が掛かっているのだろうかと冷ややかな目で見た事だろう。シュールを通り越し、どこか滑稽にすら感じられた。


スケルトンメイド(?)は言葉を発する事も無く黙々と悠達を案内したが、ギミックが仕込まれている場所では立ち止まって振り返ったりと、無駄に気を使っているのがまた腹立たしい。


「普通の来客くらい小細工外せよ……」


「誰も来ないから見て欲しかったのかもしれませんよ」


「うぜーだけだっつーの。なんで話を聞きに来た俺らがホネ子に案内されてエセ幽霊屋敷を歩き回らなきゃならねーんだよ!」


「それもそろそろ終わりのようだぞ」


いい加減バローのストレスが頂点に達しようかという所でホネ子がドアの前で足を止め、背後の悠達を振り返ってドアを示した。どうやら目的地に到着したらしい。


「開けろという事なんでしょうが……」


これまでの流れからまた妙な細工がされているのではないかと勘ぐったハリハリは嫌そうにドアノブを見据えたが、悠は一切の躊躇も無くノブに手をかけ、一気に開いた。


予想に反し室内は静寂に満たされていた。それと、闇だ。どういう理屈か、室外の光が室内を照らす事はない。


変化は直後に訪れた。




「ようこそ、我が呪われし闇の坩堝へ」




ボッと発火音が連続し、壁の燭台に次々と火が灯る。手前から始まる点灯は少しずつ部屋の内部を浮き彫りにしていった。貴族の邸宅ではよくある広間に長大なテーブルが輪郭を露わにし、徐々に奥へと走っていく。


最も上座に当たる部分に座する人物が見えたが、まだ光量が足りず表情は掴めなかった。


「……どうせならアスタロット様とお呼びしましょうか?」


「親愛なる大賢者、ワガハイとお前の間でそのような虚飾に満ちたやり取りは必要なかろう。呼びたいように呼ぶがいい」


「相変わらず変な一人称ですが、その顔と声でいつまで茶番を続けるつもりですか、アスタ?」


些か冷めたハリハリの口調にアスタロットは大仰に肩を竦めて嘆く。


「どうやらユーモアのセンスをどこかに置き忘れて来たようで残念だ。それに……」


アスタロットが指を弾くとテーブルの上の燭台が先ほどの壁と同様に灯り、部屋に十分な光量をもたらす。表情を窺える明るさを得て、ハリハリ以外の者達は口元を驚きに変えた。


「双子として生まれたのはワガハイのせいでもエースのせいでも無く、運命が定めた事。この顔と声でどう生きようがエース以外に口を出される筋合いは無いがね」


ナターリアの部屋で見た肖像画と瓜二つの容姿に驚いたのも束の間、答えはアスタロット本人の口からもたらされた。この世界には存在しないはずの眼鏡はどこで手に入れた物か分からないが、多少目つきが険しい事を除けばエースロット本人と言っても誰も見破れまい。


双子。シンプルにして明快な答えである。そしてこれがアリーシアがアスタロットに会いたがらない最たる理由であった。アスタロットの顔を見ればエースロットの事を連想せずにはいられないからだ。


「それではあなたに意見出来る者はこの世に誰も居ない事になりますよ」


「自分の主人は自分だけだ。ワガハイはたとえ殺されようともこの生き方を変えるつもりはない。あの喧しい義妹もそれを分かっているからワガハイを放置しているのだろう?」


「呆れて物も言えないという類じゃないですかね……」


「お前のように人に従った挙句、死んだフリをしてようやく仮初めの自由を手に入れるよりは自分に正直であると思うが?」


皮肉屋のアスタロットと話しても平行線を辿るばかりと、ハリハリは話題を切り替えた。


「……ところで、わざわざ夕食も取れない時間に呼びつけておいて食事の用意も無いのですか?」


「まさか、これでも礼儀は知っているつもりだ。いつまでもボーっと突っ立ってないで好きな場所に掛けたらどうだ? それとも、椅子を引いて貰わねば座る事も出来ないか?」


礼儀を知っていると言いつつも知っているだけだと言わんばかりのアスタロットにバローやシュルツはかなり気分を害していたが、悠が率先して席に着くと、とりあえずは怒りを飲み込んで腰を下ろした。


「まさか給仕もスケルトンじゃねぇだろうな……」


「それも一興と思わなくも無いが、生憎と彼らは細かい作業が苦手でね。おいで」


パンとアスタロットが手を叩くと、厨房へと通じるドアが開き……そこに居た先ほどのホネ子にバローの目が眇められた瞬間、それは上からやって来た。


「うおおおっ!?」


「キャアッ!!」


突如視界が遮られ、バローとミルヒは手と手を取り合って驚いた。そこには人間の子供くらいのサイズはあるのではないかと思われる巨大な蜘蛛の群れが光の届かぬ天井から垂れ下がり、足で固定していた皿をそれぞれの前に置いて戻っていく。ドアが開いたのは単なるミスディレクション(視線誘導)であった。


「ククク……ゆめゆめ油断せぬ事だ。人生何があるか分からないのだから」


「なんでただ話を聞きに来ただけなのに油断出来ねぇんだよ!! さてはハリハリと同類のバカだろ!?」


「看過出来ん物言いだな。文句ならワガハイについて注意しなかったハリーに言うべきだろう?」


「ワタクシを引き合いに出すのはやめて下さいよ……それにワタクシはちゃんと注意しました」


ハリハリよりも毒は強いが突拍子もない行動に走るという点でバローは2人に共通するものを感じていた。あまり仲が良くないというのはおそらく同族嫌悪に近いのではないだろうか。この2人と良好な関係を築いていたというエースロットはやはり出来た人物に違いない。


蜘蛛に対しリアクションを見せたのはバロー達だけではなかったが、悠は一人黙々と皿の上の料理を切り分け、プリムと分け合っていた。


「んー……見た目が可愛くないかな~」


「味はいいぞ。この血のように見えるソース・・・・・・・・・は果実を潰して作った物だし、内臓のように見える・・・・・・料理も幾つかの食材を裏漉しして形を整えた物だ。甘味と酸味があってプリムの口にも合うと思うが?」


「へぇ……あっ、美味しい~!」


皿の上に乗っていたグロテスクな料理にも心乱されず悠は料理を味わった。見た目のグロさなら志津香の料理と盛り付けのセンスの方がずっと上という耐性もあるのだ。……それをセンスと呼ぶのかは不明で志津香にとっては不名誉であろうが。


「そう、物事は表層ではなく深層、つまりは本質を捉えなければ此度のような手痛い敗戦をもたらしてしまう。『六将』もアリーシアもドワーフを未開の野蛮人と見下しているから国が傾く羽目になるのだよ。君らが聞きたいのは真実のドワーフの話だろう?」


アスタロットが本題を切り出すと、開いたドアからデメトリウスがホネ子の頭を優しく一撫でしつつやってきた。


「ちょうど本題かね? アスタロットは前置きが長くていけないよ」


「老公、長きを生きたあなたがまだ時を惜しみますか?」


「彼らが居る現在、時の流れは神鋼鉄オリハルコンよりも貴重さ。……いや、この時代まで私が生きたのは、もしかすると建国などでは無く、この時の為だったのかもしれないとすら思っているよ」


そう言って熱くアルトを見つめるデメトリウスからアルトは全力で目を逸らした。出来れば可及的速やかに、安らかに成仏して欲しいものだ。


「ですが、今宵の料理はワガハイが客人をもてなす為に丹精込めて作ったものです。せめて一通り賞味し終えるまではお待ち願いたい」


ゲテモノ料理はどうやらアスタロットがわざわざ自分で作った物らしい。先ほどデメトリウスが代わりに対応したのはアスタロットが調理中だったからである。


結局、幾つかのエキセントリックな見た目を持つ料理を腹に収めるまでアスタロットがそれ以上話す事は無かった。

外見エースロット、中身雪人&ハリハリ、調理センス志津香。

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