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優しい悪夢はつづく 1

七緒と学校帰りに買い物に行った梅吉。自分が『今は女性』である事を自覚し女の子らしいカッコをする為に洋服を購入することにする。七緒のコーディネートで服を手に入れこれで七緒との好感度もあがり友情エンドにまた一歩近づくと思っていたのだが、突如現れた担任、千景の出現と七緒の態度に違和感を覚えるのだった。

 翌日、梅吉は保健室へと向かう。学校の一階にある保健室。引き戸を開けると白い壁に同じく白いカーテン。少し消毒の匂いがする清潔感のある部屋の中に彼はいた。灰色の事務机にノートパソコンを置き彼は何か必死に作業している。せわしなくカチカチとマウスをクリックする音が室内に響いていた。見た目のせいで忘れがちだが、このオカマも一応教師だったのだとその背中を見て思う。

 (――って、こいつ)

 思ったが、すぐに思い直した。

 「何やってんだよ!学校で!」

 彼のパソコン画面内には美少年の立ち絵が表示されていて、彼は今正に選択肢を選ぼうとしてる所だった。

 「あら、梅ちゃんいらっしゃい」

 「いらっしゃいじゃねぇ!お前、仕事中だろ!何ゲームしてんだよ」

 そう、彼はゲームをしていた。表示されてる画面から考えると多分、選択肢を選ぶ事によって進むノベルズ系のゲームだと思う。

 「だってー暇なんだものーここの生徒ってあんまり保健室利用しないのよね。特に男子」

 確かに、こんな保険医のいる保健室は普通ならば利用したくない。そのせいか教室には救急箱が置いてあり、軽い怪我程度ならみんな教室で手当てをしていた。一体誰が持ち込んだのかは分からないが梅吉だって、彼がゲーム攻略をする上でサポートするキャラクターでなかったら足は運ばないだろう。

 彼がオカマであるが故に生徒は近寄り難くそのせいで彼の仕事は少ないらしい。 

 (PTAに訴えられろ!そして負けろ!)

  そう心の中で呪うように唱えた。

 「やっぱり乙女ゲーは昔の方が好きだわー……攻略するまでが燃えるのよね。最近、告白して濡れ場まであるゲームとかあるけどナンセンスだと思わない?そんなこたぁエロゲーでやれって話……で?今日は何の用かしら?」

 このオカマ果てしなくマイペースだな――と半ば飽きれながら見守りつつ、画面の中のゲームにはっとする。

 「――って、このゲーム!」

 確かかなり昔に流行った乙女ゲーだ。結構ブームになったので梅吉も知っている。ゲーム雑誌にも何度か取り上げられていて、梅吉が購入した雑誌にも記事が掲載されて居たのを見たことがあった。雑誌を買ったら割と全ての記事を読む派の梅吉なので、このゲームのシステムやなんかもプレイしていないが覚えている。

 確か、それはとても面倒だ――と思った記憶が残っているのだが。

 「もしかして、これ作った奴ってこの乙女ゲーのファンだったりするわけ?」

 嫌な予感がする。そしてその予感が当たってしまうと色々面倒な事になる。

 「そうよ?だからシステムとかも何気に似てるとこがあったりするのよね」

 『やっぱり!』と言うもう一人の自分を『待て待て早まるな』と一生懸命宥める。まだそうと決まったわけではないではないか――と。

 「もしかして、女の子キャラがライバルになったりとかはないよな?」

 女性キャラと仲良くする→能力値が上がる(仲良くする女性キャラによって上がる能力値は変わる)→上がった能力値で女性キャラの好きなキャラクターの好感度が上がる→女性キャラとライバル関係になる。

これが今、梅吉の最も恐れているシステムだ。そうなると、友情エンドへのハードルが一気に高くなってしまう。女性キャラと遊ぶだけで男性キャラの好感度も上がってしまう上に遊びすぎるとライバル関係になりかねない。

 そうなったら友情なんて言っていられなくなる。どうかそんなややこしいシステムじゃありませんように――と祈るが。

 「あら?説明書読んでないの?」

 梅吉の祈りは届かなかった。

 ――と言うか、もしかしてとは思うが。

 「なぁ、エンディングって全部で幾つあるわけ?」

 女性キャラが出てきた次点で友情エンドがあると信じていた。

 女の子と三年間、仲良く過ごすことでこの地獄から逃れられるのだと――しかし、その考え自体幻想だったのかもしれない。

 もしかして、

 「え?攻略キャラクターの数だけだけど?」

 何を今更と言うように銀之助が言う。梅吉は、銀之助のセリフに後頭部を思い切り殴られたようなショックを受けた。『攻略キャラクターの数だけ』と言うことは、攻略キャラでない女性キャラにはエンディングはないと言うことだ。


 (終わった……)


 誰か一人、男キャラとのエンディングを向かえないといけない。


 (絶望だ)


 女性キャラとの友情エンド。それだけが心の支えだったのにそんなものは初めから存在しなかったのだ。

彼女達と仲良くすればするほど男キャラの好感度が上がる。仲良くすればするほどライバルキャラへと近づいていく。分かっていて過ごす3年間のなんて長いことだろう。これから自分は廃人のように毎日過ごさないといけないのだ。いつか来る終わる(男キャラから告白される)日の為に。

 このまま行けば、周辺りだろうか確かに周は良い奴だけれど――と、パラメーターの詳細画面をぼんやり眺めて梅吉は目を見開いた。


 (なんで千景の好感度が上がってるんだよ!)


 もしかして、いや、それ以外考えられない。昨日の様子を見るに七緒は千景に好意を持って居るのは明らかだ。

 七緒と遊ぶ事によりなんらかの能力値が上がり、それによって千景の好感度が上がってしまったのだ。

 千景エンドだけは! 千景エンドだけは危険だと梅吉の本能が叫んでいる。とにかくなんとしてもそれだけは回避しなくてはいけない。

 もはやこれは生温い恋愛ゲームなどではなかった。

 (俺の貞操がデスゲームだ)

 絶望してる暇はなかった。上がってしまった好感度を下げなければいけない。あの真崎千景の『好みじゃない女の子』になるのだ。

 (あいつの好み――……)

 正直、なるべく避けて通りたいキャラなので好みを把握する程彼の傍に居た事がない。しかし、考えなくては――きっと今までの会話の中で何かヒントはあった筈だ。


 『今日から、この2組の担任をする真崎千景だ。教科は生物を担当する』『――そこ、たしか月見里梅だったな……席を一番前に移動させなさい』『いかにもサボりそうな顔してるからな。ついでにそうだな――学級委員長もやってもらおうか』『こーら』『やる気がないのか?それとも私の気を惹きたいのか?』『授業が終わったら生物研究室にきなさい』『プリントを集めて持ってくるように……学級委員長』『委員長。こちら花園鈴之介先生――保険医でいらっしゃる』『おい、鈴之介……どけ』『勘違いしているようだが一応言っておこう。鈴之介は柔道部の顧問で私不本意ながら今、彼の考えた寝技の実験体にされかかっていた。私の恋愛対象は基本的に女性だし華美に着飾ったオカマは私の守備範囲外だ』未成年が飲酒しないか監視するためだ』『委員長じゃないか。遊んでばかりいないで勉強しなさい』『お?先生を呼び捨てとはいい度胸だな』『今日から、この2組の担任をする真崎千景だ。教科は生物を担当する』『――そこ、たしか月見里梅だったな……席を一番前に移動させなさい』『いかにもサボりそうな顔してるからな。ついでにそうだな――学級委員長もやってもらおうか』『こーら』『やる気がないのか?それとも私の気を惹きたいのか?』『授業が終わったら生物研究室にきなさい』『プリントを集めて持ってくるように……学級委員長』『委員長。こちら花園鈴之介先生――保険医でいらっしゃる』『おい、鈴之介……どけ』『勘違いしているようだが一応言っておこう。鈴之介は柔道部の顧問で私不本意ながら今、彼の考えた寝技の実験体にされかかっていた。私の恋愛対象は基本的に女性だし華美に着飾ったオカマは私の守備範囲外だ』未成年が飲酒しないか監視するためだ』『委員長じゃないか。遊んでばかりいないで勉強しなさい』『お?先生を呼び捨てとはいい度胸だな』『勘違いしているようだが一応言っておこう。鈴之介は柔道部の顧問で私不本意ながら今、彼の考えた寝技の実験体にされかかっていた。私の恋愛対象は基本的に女性だし華美に着飾ったオカマは私の守備範囲外だ』


 「鈴之助!」


 そうだ、それしかないと梅吉は思った。


 「俺に、化粧を教えてくれ!」


このデスゲームから無事生還する為に――。



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