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カリモノノ世界ヨリ 2

テラフォー○ーズみたいになってますが、読んだことないんです。

 早速逃げ出す鈴之助に梅吉はなんとか応戦しつつ、一時その場を後にする。

 タイムリミットは近い。

 これが普通のゲームならば、迷わずリタイアするのだが、どうシステムに関わってるか分からない以上その行動は『人生からのリタイア』になりかねない。

 死んでしまったらもともこもない。

 とは言え、巨大カマキリの時のように梅吉が応戦と言うわけにもいかなかった。

 レベルは高くないとは言え、あの頃よりレベルの上がったモンスターに装備無しで挑むのは勇者を通り越してただの馬鹿か上級者のする遊びだ。

 このゲーム初心者の梅吉がそれを実行するのは、やっぱりさっきも記したように馬鹿としか言えない。

 ゲームオーバーもイコール人生の終わりになりかねないから下手なことはできないのだ。

 「参ったなぁ」

 ゴキブリのいるエリアから離れても自分を盾にするように身を屈める鈴之助はやっぱり使いものになりそうもない。

 かといって、弓でだけではあのモンスターを倒す前にタイムアウトになりそうだ。

 討伐クエストだから、捕獲するか倒すかしなければゲームクリアとみなされない。

 (もう馬鹿になるしかないのか)

 梅吉は鈴之助の剣を一瞥しため息を吐き出す。

 仕方ない、こうしていてもタイムオーバーになるだけなら、死ぬかもしれなくても戦った方が。

 「どうなさいました?」

 と、不意に背後から聞こえたのは鈴を転がすような可愛らしい声。

 振り返れば、ゲームらしい鮮やかなピンク色の髪をツインテールにした青い目の少女がそこに立っていた。

 (えっ……一般ユーザー!!?)

 少女は片手に剣を持ち、それだけで彼女が剣士なのは分かったが、果たして彼女はNPCなのか中身が人間の一般ユーザーなのか。

 もしユーザーなのだとしたらやはりここはオンラインゲームの世界となるわけだが。

 「あ、あの、連れが戦意喪失してしまって」

 とりあいず、それだけ相手に告げる。

 相手が何者なのか分からない以上あまりこちらの情報を教えなくはない。

 「ああ、あのモンスター気持ち悪いですもんね。私も初めて見たときは思わずリタイアしちゃいました」

 そのセリフだけで、彼女がこのクエスト経験者であることがわかる。

 (一般ユーザーなのかもしれない)

 それともそう設定されたNPCなのか。 

 「あの、それで……お、私はガンナーなんですが剣士の彼がこの状況でタイムオーバーになっちゃいそうでまずいなぁって思ってて」

 ここで、助言してくるならNPCだろう。

 しかしここで

 「あっ!じゃあ私手伝いますよ」

 この言葉を聞いて、梅吉は彼女が『一般ユーザー』であるという確信を深めた。

 「い、いいんですか?」

 恐る恐る聞くと彼女は一枚の紙をこちらに差し出してくる。

 名刺のようなそれを受け取った瞬間に頭の中に彼女のデータが流れ出した。

 

 『名前 ヒナタ イチゴ』

 

 『血液型 O』

 

 『タイプ 剣士』


 他にも今までクリアしたクエストやモンスターの数、仕様した武器まで事細かに書かれている。

 

 「イチゴさんって言うんですね」


 多分HNだろうけど、可愛らしいその名前とキャラクターのデザインはよく合っていると思う。

 (そんな機能あったのか)

 今までしゃべるとしたらNPC以外は鈴之助しかいなかった梅吉は自分のメニュー画面を見てそれらしいボタンを押してみる。

 すると、自分の手の中に名刺サイズの紙が現れた。

 本当に何の変哲もない白い紙だ。

 これでいいのだろうか?と少し疑問に思いながらもその紙をヒナタに渡す。

 渡された紙を彼女は受け取りしばらくして

 「ウメさんですか?よろしくお願いします。私のことはヒナとか、イチゴとかタメ呼びOKなんで」

 どうやらことらの情報が伝わったらしくヒナタが梅吉の名を呼ぶ。

 (てか、そうかこっちの名前も乙女ゲーで使ってた名前のまま登録されているのか)

 まぁ当たり前と言えば当たり前なのだが、それはつまり梅吉の『本名をしらない』人物の犯行なのではないか。と言う可能性が出てきたのだ。

 だって、知ってるなら本名で登録されそうな気がする。

 (って言っても、オンラインゲームやった事ないし、ゲームでこの名前使ってるって知ってるやつもいないし)

 やはり単なる偶然なのか、このことを考えだすとキリが無いので梅吉はすぐに思考を切り替えた。

 「あっ、後ろにいるのは鈴之助って言います。ちょっと今、使い物にならないので自己紹介は後で」

 一応、紹介しておかなくては……と思うが共食いを目の当たりにしてるせいか鈴之助は完全に廃人のようになり無の顔で自分の後ろにそっと隠れている。 

 「それで、あのゴキブリ倒せばいいんですか?」

 やっぱり、誰から見てもゴキブリなんだな。と思いつつ梅吉は頷いた。

 時間はもう残り少ないが彼女の装備や経験ステータスを見れば、それは簡単な事だろう。

 「じゃあ、ちゃっちゃといっちゃいましょうか?」

 その言葉に頷き背中にへばりつく鈴之助をひっぺがす。

 「お前はここでまってろよー」

 一応問いかけてみるものの「共食い、共食い……おいしくない」と彼が呟いているだけで心ここにあらずと言った様子だった。

 

 (マジつかえねぇ)


 本当にこのタイミングにヒナタに出会えてよかった。

 そう思いながら梅吉も彼女の後に続いた。




 





 こうしてヒナタに助けてもらったクエストは、本当にあっさりクリアできてしまった。 

 「凄いなぁー強いんですね」

 ギルドからの帰り道、梅吉はヒナタの強さを絶賛した。

 ヒナタは本当に強かった。

 確かにあのモンスター事態、強いわけではいしヒナタが来るまでに鈴之助がだいぶ追いつめていたからあっさり終わったのはそこら辺もあるだろうけど、それにしても彼女は本当に見事な戦いぶりを見せてくれたのだ。

 「私、一回このゲームクリアしてるから」

 褒められて恥ずかしそうにしながらヒナタが発した言葉に梅吉は驚愕する。

 「え?クリアって!?まじですか!?」

 「うん、まぁ基本明確なエンディングないんだけど最終の最強モンスター倒しちゃったし装備も大方そろえたし、もうすることないから人のお手伝いするのが最近の私の遊び方」

 これは思わぬところで最強の助っ人と出会ったのかもしれない。

 「あー上級者の人はそういう事しないと飽きちゃいますもんね」

 いつパーティーに参加してくれと言おうかと考えながら梅吉は適当にヒナタの話に相槌を打った。

 「そう……なんだけど、これ発売されてから結構時間がたったゲームだからもう新規ユーザーも古参ユーザーもいなくて」

 ヒナタの言葉を聞いて、なるほどと梅吉は思った。

 時間がたち人気がなくなったゲームだから、今はユーザーよりNPCが多いというような状況なのだ。

 ゲームの廃墟と言ったところか。

 「だから今日、あなたたちを見た瞬間すごくうれしかったの」

 弾んだ声、嬉しそうにやはり弾んで歩く彼女の二つに結ばれたツインテールが上下にぴょこぴょこ揺れていた。

 (いいよなぁ、ツインテールはロマンだよなぁ)

 なんて、久しぶりに男目線で眺めていると。

 「ねぇ!だから私をあなた達のパーティーに入れてくれない?」

 くるりと振り返って無邪気な笑みを浮かべながらヒナタが言う。

 それはずっと、梅吉が彼女に言おうとしていたセリフだ。

 梅吉は嬉々として彼女に

 「い、いいんですか!?こ」

 『こちらこそ』そう梅吉は言ったはずなのに、言葉の後半はくぐもったもごもごとした音にしかならなかのだ。

 「少し、考えさせて頂戴」

 鈴之助が後ろから、梅吉の口を塞いでいた。

 時折見せる真剣な表情をして少し冷たいんじゃないかと思えるぐらい冷淡にヒナタに言い放つ。

 「行くわよ」

 それから梅吉の腕を引き鈴之助はさっさと歩きだしてしまう。

 「あっ、ちょっ……痛いってば!あの、それじゃあまた!」

 痛みを感じるぐらい強く腕を引かれ梅吉はそうヒナタに告げるのが精一杯だった。

 一体急にどうしたと言うのだろうか。

 さっきまで完全な廃人だった癖に。

 ヒナタがいなければ二人ともどうなっていたか分からないのだ。

 彼女が助けてくれたからこそ、自分たちは今、ここに居る事ができる。

 どちらにしろパーティーに人は必要だし、それがヒナタなら心強いと梅吉は思う。

 向こうから言い出してくれたのなら願ったり叶ったりなのに。

 鈴之助はむっつり口をつぐんでずんずんと歩いていく。

 「ちょっ!宿屋過ぎた!」

 彼は宿屋の前を素通りしなおもどこかに向かって歩いていくのだ。

 掴まれた腕が痛い。

 足の長さも違うから鈴之助のコンパスで歩かれると梅吉は小さく駆け足をしているみたいな状態になってそれも辛かった。

 「おい!鈴之助!いい加減に!」

 ついに梅吉も思い切り自分の腕を引き抵抗する。

 ようやく止まったのは、日の光の届かない薄暗いじめついた裏路地だった。

 「いい加減にするのはあんたでしょ?ちょっとは危機感持ちなさいよ!」

 怒鳴りながらドンと壁に背を付けらる。

 梅吉は壁と鈴之助の間に挟まれるような状態になっていた。

 「危機感ってなんだよ!あの子が居なかったら、俺たちどうなってたか!」

 自分を助けてくれた人間を信じて何が悪いんだ?と言う気持ちになる。

 そもそもそうなった原因は鈴之助にあるのに、この態度はなんなのか。

 「もういい」

 多分、色々限界だった。

 鈴之助の事は嫌いじゃない。

 むしろ、いいやつだと思ってる。

 でももうこの男に振り回される事につかれてしまった。

 ひとりきりじゃない。

 心強いのも事実だけど、今日、ヒナタに出会ってしまって梅吉の気持ちがぐらついてしまう。

 ヒナタの中には自分と同じ生身の人が入っている。

 でも、


 鈴之助の中には――?


 絶対にそれは考えてはいけない事だった。


 そして、これを言ってはおしまいだ。

 頭の中で必死に止める自分がいる。

 言ってはいけない。

 でも反対に『別にいいだろう』そう囁くもう一人の梅吉もいた。

 そう思っても梅吉の喉が勝手に言葉を紡ぐ。

 「所詮お前は、AIだしゲーム内のキャラクターだもんな。人間の気持ちがわかるはずないか」

 絶対言っては駄目な言葉。

 鈴之助の顔が信じられないと言いたげで。


 なんてそれは人間みたいなんだ――と梅吉は思った。


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