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おしゃべりなリタ 4

何故かやる事になった百物語。怖すぎる恐怖体験。四つだった窓は再び五つに増えていた。

 世の中では化学で説明できない事がある。梅吉自身はその辺はちゃんと分かって居るつもりだ。

 目に見えないもの以外信じないと言う、現実主義では無いと思う。

 しかしながら、ここは科学の粋を集めたような世界で、そこでの心霊現象は一体どういう意味なのだろうと考える。

 これもシナリオの一つなのか、それともやはり科学では説明できない『何か』がこの世界でも存在するのか。

 「言うならば、ここは意識の世界なのよ。だから、現実より『何か』に干渉されやすいって言う説を唱えてる人も居るけど」

 そう冷静に言葉を紡いだのは鈴之助だった。相変わらず険しい顔で五つ目の窓を睨み付けている。

 その言葉に恐ろしい事を言うなと視線だけで訴えると

 「でも、あれ、ちょっと違うわね。グラフィックが歪んでる」

 ――と、音も無く目の前で五つ目の窓は四つ目の窓と重なってそのままその存在を消した。

 「もしかしてバグとか?」

 グラフィックの歪みなのだとしたらそう考えるのは自然だ。

 「だと……いいんだけど」

 けれど鈴之助はそれだけ言って苦い顔をする。

 「とにかく、今は片づけましょう」

 気持ちを切り替えるためかぱちんと手を叩いて、彼はそう言うと梅吉を急かした。

 それから、耳元で「詳しい話は後でするわ」と囁く。

 梅吉はそれに頷くだけの返事を返しす。それからもう一度上を見上げ、窓の数を確認してみたがやはり窓の数は四つしかそこにはなかった。



 

 草木も眠る丑三つ時。

 熟睡する女子三人を起こさないように梅吉は物音に注意しながら部屋を出る。

 深夜も深夜、深く濃くなった闇を照らす廊下の明かりはオレンジ色の少し頼りなくて、心細い気持ちになる。不安を吐き出すようにため息を一つしてからパタン――と梅吉が、扉を閉めた時、

 「きたわね」

 「~~~~~っ!!!!????」

 扉を閉めて直ぐに不意に背後から掛けられた声に梅吉は大声を出しそうになり咄嗟に自分の口を自分の手で塞いで耐えた。

 「お前っ!急に声かけんなよ!あと、湧いて出てくんな!」

 なるべく声を殺しながら訴える。今夜3時頃にみんなが寝たのを確認してから部屋から出て来るように言ったのは確かに鈴之助だった。

 待ち合わせの時間に待ち合わせた相手が居るのは当然の事だ。しかし、それでも急に背後から声を掛けられたらビックリしてしまう。

 ゲームのキャラだからなのか、梅吉がそういう事に疎いからなのか分からないがまったく鈴之助の存在に気がついていなかったのだから。いないと思ってる所から声が聞こえたら誰だって驚くだろう。

 「湧いて出たとか!人を虫みたいに言うんじゃないわよ!失礼な子ね!」

 梅吉の言葉に鈴之助が頬を膨らまして怒る。その仕草は幼女や少女がやるならばきっと可愛いだろうが、男がやってもまったく可愛いものではない。

 一万歩譲って学校に居る時の女装姿ならまだ様になったのかもしれないが、今の彼はグレーのジャージの上下に普段は下しているウェーブのかかった金髪の髪の毛は粗雑に後ろで一纏めに縛られていて、どこからどう見ても男だった。

 (田舎の深夜のコンビニに居そう)

 そんな彼がいくら可愛い仕草をしても、無意味と言うものだ。それに『子供のような男性のそんな仕草が好き』なんて言う乙女心はあいにく梅吉は持ち合わせていない。

 なにせ中身が男なので。

 「ハイハイ……すいませんでした。それで?これからどーするんだ?」

 だから悪いとは思ってないが、軽く謝って話を先に進める事にする。

 「謝り方に心が籠ってないわね……まぁいいわ、今からこの屋敷の調査をするわよ」

 鈴之助は不満そうに低く呻きながらも、諦めたのか目的を梅吉に告げた。

 「――って言っても、この隣の部屋調べるだけなんだけど」

 言いながらコンコンっ、と鈴之助は廊下の突き当りに壁を軽く叩く。

 ジッ――ジジッジジジジッ。

 すると、ノイズと共に壁が歪み次の瞬間に扉が其処に現れた。

 「ひっ!」

 梅吉は再び叫びそうになりながら、なんとか絶叫を飲み込む。

 まるでそれは、よくある怖い話の再現のようで、

 「やっ、やっぱり幽霊とか?ここ開けたたら『ここからだして』とか壁いっぱいに書いてあったりするのか!?」

 思わず竦み上がって上擦る声で聞かずにはいられない。

 「さぁ、それはどうか分からないけど」

 鈴之助は躊躇う事なく、その茶色い木の扉の金色のまぁるいドアノブに手を掛ける。

 「ちょっと!心の準備をさせろ!」

 梅吉が訴えた時にはすでにノブは回されていた。

 「…………あら?鍵が掛かってるわね」

 ガツンと、微かに扉は揺れただけで開く事はなかった。

 その事実に少しほっとし、しかし少し残念な気持ちにもなる。

 「なぁ、開かないならいいじゃん!もう放っておこうぜ?どーせ明日には帰るんだしさ」

 この扉の向こうに一体何があるかは分からない。でも、事実を暴いても暴かなくても明日は確実に訪れ、そしてこの屋敷を離れる事になるのだ。

 色々と奇妙な事が起こったが、ここを出ればそれも無くなるだろう。だったら態々自ら危険に首を突っ込むような真似はしない方が懸命だろう。

 これは『乙女ゲーム』であり『アドベンチャーゲーム』でも『アクションゲーム』でもましてや『格闘ゲーム』でもない『恋愛シュミレーションゲーム』にホラー要素など無用の長物すぎる。が、

 「この扉の向こうには何かある。そう囁くのよ――私のソウルが」

 ――どこかで聞いた事のあるような無いような、中途半端にパクリのようなセリフをドヤ顔で鈴之助は言って聞きそうもない。

 「この屋敷のどこかにこの扉の鍵があるはずよ。手分けして探しましょ」

 これは本当に乙女ゲームなのか、ホラーゲームの間違いじゃないのか、少し泣きたい気持ちになりながら鈴之助に一階を探すように言われた梅吉は一人リビングを探し出した。

 引出の中ま勿論、ソファーと絨毯の隙間、家具の上、思いつく限りの全てを探してみても扉の鍵らしいものは見当たらない。

 しかしここは昔の家だからか、灯りを点けても全体的に薄暗く感じる。まるで、本当にそういうゲームみたいだ。

 「これで、古いカメラとか見つけたら確実にホラーゲーじゃんか」

 ぶつぶつと文句を言いながら、昔少しだけプレイしたホラーゲームの事を思い出す。

 心霊をカメラに収める事によって供養する――みたいな内容だったと思う。買ったもののあまりに怖そうで結局チュートリアルすらクリア出来なかったが。

 「さて、リビングはこの引出で最後」

 引き出しの中、己の視線の先に映るものに梅吉は凍りついた。

 「なんで――」

 それは一台の古いカメラだった。

 「なんでフラグ回収しちゃんだよ!?俺!?」

 両手、両足を突いて先ほどの自分のセリフを激しく後悔する。せめて思い出さなければ『ただの古いカメラ』だと思えたのに。

 「た、戦えって事かよ?」 

 震える指先でそのカメラの手を伸ばし、ファインダーを覗き込んでみる。

 ファインダー越しの景色はさっき自分が肉眼で見ていたものと何も変わらない。

 「なっ、なーんちゃって!ですよねーこれ乙女ゲームですものーそんな筈あるわけないじゃないですかーやだー」

 はははっと笑い飛ばし恐怖を無理やり拭った時だった。

 「!?」

 ファインダー越しにすっ――――――と何か目の前を横切っていったのだ。

 「まじっすか……」

 もう茫然とするしかない。

 それは確実に人ではない。何か赤い塊のようなモノのように梅吉には見えた。

 「まさか、火の玉?」

 もういい加減、勘弁して欲しい。このゲームは恋愛がメインじゃないのか。今の所恋愛要素ゼロじゃないか!と怒りさえ湧いてきた。

 「こっから出たら、製作者に苦情出してやる」

 怒りで恐怖も薄れている。

 「撮ればいいんだろ!このカメラでとって、バシっと成仏させりゃいいんだろ!やってやろうじゃねぇかー!」

 その勢いのまま、半ば投げやり気味で梅吉は赤い物体が横切って行った先へと向かう。もうは確か、キッチンだったはず。

 「あった!あったわよー!」

 鼻息荒く一歩踏み出すと、行き先のキッチンの方から鈴之助の声が聞こえた。

 「あれ?あいつ地下室探してるんじゃなかったのかよ?」

 まったく自分で勝手に分担割りしといて……呆れながらどこかホッとした気分になって身体の力を抜くと声のしたキッチンの方へ梅吉は歩いていく。

 「お前なー地下室はもういいのかよー……」

 文句を言いながら来たキッチンは予想外に真っ暗だった。

 先に鈴之助が来て居るなら明かりが点けられていると思ったのに。

 「こんな暗い中でよく見つけられたな……てか、電気つけろよ」

 手探りで電気のスイッチを見つける。カチっと言う音と同時にキッチンは明かりの下に晒された。

 「――え?」

 けれど、そこに鈴之助の姿は無かった。

 確かにこちらから声が聞こえた筈なのに。

 「す、鈴之助?」

 恐々とその名前を呼んでみる。

 「何してるのはやくいらっしゃい」

 すると、どこからともなく声だけが返って来た。

 姿は見えない。

 空耳なんかではないハッキリと聞こえてしまっている。

 「ひぇっ!!!!」

 「早く、こっちよーこっちー」

 鈴之助の声だけが梅吉を招く。姿は見えないのに、確実に本人と同じ声が自分を何処かに連れて行こうとしている。

 「こっちよーはやくーあったわよー」

 壊れたレコードのように同じフレーズばかりを鈴之助の声は繰り返す。その不気味さに鳥肌がたった。。恐怖で歯の根が合わずガチガチと鳴る。

 辺りを見回しても何もない。

 (そうだ!カメラ!)

 さっきリビングで見つけたカメラのファインダーを覗いたなら『声』の正体が分かるかもしれない。

 決死の思いで梅吉はファインダーを覗き、部屋中を見回した。

 その時だった。

 「なにしてるんだ?」

 「ぎゃーーーーー!!!」

 本日二回目に背後から掛けられた声に驚きのあまり心臓が止まりそうになる。

 「あ、悪い」

 振り返れば、そこには真澄が居た。

 彼は梅吉の様子を見ると申し訳なさそうにぺこりと小さく頭を下げた。

 「おど、かすなよ」

 「脅かすつもりは無かったんだけど」

 脱力してその場に座り込みバツが悪そうに頬を掻く真澄を見上げる。

 「騒いでるのもしかしてリタかな?って思って」

 (リタ?)

 聞き慣れない名前、真澄が「リタ」と呼ぶとバサバサと羽音がして、キッチンのテーブルの下からそれは現れた。

 「と、り?」

 それは一羽の鳥だった。

 「これはクルマサカオウムのリタだ。親戚に預かってくれって言われて連れて来たんだが」

 赤というよりは薄い桃色に赤と黄色いトサカのついた鳥は時折小首を傾げならこちらを見つめていた。

 「はやく!見つけたわよ」

 そして、オウムは鈴之助の声でそう喋る。

 「リタは人の声真似が得意なんだよ」

 じゃあ、

 「昼間の鈴之助の成りすましも!?」

 この鳥が犯人というわけか。

 「花園先生の喋り方が気に入ったみたいだな……ここに着くまでは飼い主の真似ばっかりだったんだけど」

 オウムの顎の喉の辺りを指で撫でながら真澄が言う。

 「なんだ……よかった」

 これで、謎の現象の答えは解決された安心して眠る事ができる。そう梅吉が胸を撫で下ろした時だ。

 「ん?これは?」

 さっきまでリタが居た床に真澄は何かを見つけてかがむ。

 「鍵?」

 その手の平の中には少し古い感じの鍵が握られている。

 「もしかして、それは!」

 あの扉の鍵かもしれない。

 

 

 そうして再び二階廊下に集合する。

 成り行きで今度は真澄も一緒だ。ちなみにリタはリビングの鳥かごの中に置いてきてあった。

 「へぇー隠し扉が」

 あっさり真澄は納得してくれたから真澄はなんて素直でいい子なのだろう――と感動せずには居られない。

 (見た目はヤンキーだけど)

 そう言えば、なんでそんなカッコしてるか前聞きかけて途中だった。

 見た目は怖い真澄だが、中身はぼんやりとした動物好きの穏やかな男の子なのだ。

 とても、ヤンキーなんて柄ではない。

 (ヤンキー臭さなら、今の鈴之助のが上な気がする)

 そう思いながら鈴之助の顔を見上げて居ると。

 「なによ!悪かったわね!すっぴんガラが悪くて」

 梅吉の表情から何かを察したのかむすっと睨み返させる。

 「さぁ!開けるわよ」

 深呼吸をして、鈴之助が鍵穴に鍵を差し込む。

 カシャン。

 鍵が開く。それからゆっくりと金色のドアノブを捻った。

 蝶番の軋む音がして扉はゆっくりと開かれる。中にはただ暗闇が広がっていた。

 「誰かいるの?」

 鈴之助がそう声をかける。闇の中、黒い何かがもぞりと動いてすーっと神経が凝結したような気味悪さを感じる。

 「クククッ」

 答えたのは不気味な笑い声に梅吉は戦慄する。

 「やっぱり、幽霊!?」

 混乱気味にそう呟けば

 「幽霊のが無害じゃないかしら?」

 鈴之助は早口にそう言って部屋の電気を点け、扉の直ぐ横の棚から何かを引っ掴んで投げつけた。

 「――――――っ!」

 そして、その『何か』は咄嗟に腕で顔を覆い庇うようにして後退しながら飛び上がる。

 ガシャン――!!!!高いガラスの割れる高い音と共にそれは外へと

 「ちょっ!ここ二階!!!!」

 死にはしないが、怪我ぐらいするだろう。かけよって割れたガラス越しに下を見るがそこに誰も居なかった。

 「やっぱり……幽霊か!」

 「いいえ」

 狼狽える梅吉に鈴之助は険しい顔をして小さなメモを見せた。


 『月見里殺す』


 そのメモには赤いボールペンで小さく書かれた。





 



 あれは、梅吉がこうなってしまった原因の犯人だったのかもしれない。

 いや、おそらくそうだろう。

 犯人はずっと、隣の部屋で身を潜めていたのだ。そう思うと生き心地がしない。

 明確な殺意がそのメモ残されている。

 『気分が悪いから捨てなさい』

 そう言われたメモ書きを梅吉は捨てずに持っている。

 (絶対に死なない)

 殺されない――そう、このメモを見ると思う事が出来るから、無事このゲームから出てやると言う気分になるのだ。

 

 「全員乗ったな?」


 千景がそう確認して、車が動き出す。

 「ストーカーとか大変だな」

 昨日の夜の人物の事は梅吉のストーカーなんだと言う苦しい言い訳でなんとか誤魔化した。

 梅吉の横に座る真澄は素直にその苦しい言い訳を信じて気の毒がってくれている。

 「ど、どこがいいのかねーこんなのの何も良いとこないのに」

 そう自虐して笑う。そこまで誰かがのめり込む程の魅力が自分には無いから、この言い訳は本当に苦しい。

 「そんな事ないさ」

 すると、真澄は真っ直ぐと梅吉の方を見てそう告げて笑った。

 イケメンは笑うと凶悪だな――と思う。きっと自分が本当に女の子ならキュンときてたに違いない。しかし、キュンとくる乙女心を梅吉は持ち合わせていない。ただ、そう言われたのは単純嬉しかった。

 「ありがとう」

 礼を言った時、

 ピリリリリリ――っと、小鳥が囀るような音が聞こえる。

 「なんだ、運転中に」

 どうやら千景の携帯の着信音らしい。千景は車を端に寄せ携帯を取り出す。

 「おい、悪ふざけも対外に………!?」

 運転席の千景が振り返り、それから目を見開いてビックリしていた。

 普段は割とクールな千景のその表情はとても珍しいものだったが、

 「おまえら」

 その口から出た言葉に、自分達も同じ表情をする事になる。

 「鈴之助はどうした?」

 居る筈の人物がそこには居なかったのだ。

 「え!?だって梅ちゃんの横に座ってたよね?」

 ほづみの言葉に梅吉も同意するそう確かに、自分の横に誰かがいた。髪の長い人物。それを髪を下した鈴之助だと信じて疑って居なかったのだが乗ってたと思ってたそれが今はいない。

 梅吉の横は不自然に一人分の空スペースが残されているだけだ。

 「そういえば、鈴之助にしては静か――だったよな」

 手に汗が滲む。

 思い出したのは昨日の晩に話された真澄の怖い話。

 

 


 「今、鈴之助から着信が来てるんだが」



 青い顔でそう告げる千景の携帯画面には確かに『花園鈴之助オカマ』と表示されていのだった。

 

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