表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/51

おしゃべりなリタ 2

四部屋だと思っていたのに外側から見たら五部屋だった何を言ってるか分からないと思うがry

 コポリ。

 吐き出した空気が銀色の泡になって上へと向かっていく。頭上からの光が乱反射して眩しい。ゆらゆらと、たゆたう波模様、その明るさとは正反対の水底は黒く大きな穴でも開いているかのようにぽっかりと闇だけが広がっていた。

 (――あれ?おれ、なんで?)

 ゆっくりと沈んでいく身体、息苦しさに目の前が霞む。

 反射的に伸ばした手の指先は海の青に染まて見慣れた自分のものより白くて、その白に事前に起った事を思い出す。

 そう、梅吉はあの正体不明の部屋の窓を見ていた。

 本来ならある筈のない部屋、その窓、カーテンの引かれていないそこは真っ暗な闇だけがガラス越しに見えている。

 どくり、どくり、どくり、と緊張からか脈打つ心臓。

 (!?)

 瞬間、目に映ったものに梅吉の頭は真っ白になった。

 (ひ、ひとかげ!?)

 白い人影が窓際に映ったのだ。

 思わず、浮き輪の上で体制を崩して、

 (ああ、それで浮き輪から滑って海に落ちたのか)

 酸欠で痺れた脳みそで、どこか冷静にそんな事を考えている。いや、冷静と言うより意識がもう遠のいているのかもしれない。

 驚いて大分海水を飲み込んでしまった。

 気道に入って咳き込んで、余計に吸い込んでしまった。

 呼吸が出来ない。それだけでこんなにも身体から力が抜けるなんて思わなかった。

 酷く身体が重たくて、足首に重りでもちてるかのようにゆっくり沈んでいく。

 このままではまずい。頭ではそう思って、必死に腕だけは伸ばすけれどそれ以上なにも出来ない。

 瞼が重たい。閉じたらもう二度と目を開けられない。そう思ってもどうにも抗えなくて――――……。


 コポリ。

 大きな空気の泡が上に向かって上がっていくのだけが最期に見えた。





 騒がしい声。

 「俺が!」

 (これは周か)

 「いや、私が!」

 (これは千景)

 「ぼくがー」

 (危機感のないこの口調は静先輩?)

 「いや、だから僕がするよ」

 (何をされるか分からないが、お前だけは嫌だ千鶴)

 「じゃあ俺やろうか?」

 (お前でもこういう事に参加するのか真澄)

 「あのねー!命かかってんのよ!?もういい!私がやる!女同士だし問題ないでしょ?」

 (七緒ちゃん!俺嬉しい!って命?)

 「きゃー!私、百合も好きなの!」

 (ゆ、ゆり!?)

 「百合?お花ですの?」

 (いや、多分お花じゃない――)

 「――っ!だりゃぁぁぁぁ!!!!!!お前ら何してる!?」

 叫んでそう気合いで起き上がったどうやら梅吉は今、ビーチに敷かれたビニールシートの上に居に自分は居るようだ。

 「いや、誰が人工呼吸するかって言い争いになって」

 にっこり笑みを作りながらこちらを見た周の右手は何故かピースサインをしていて、

 「梅!よかった気がついたのね!」

 そう喜ぶ七緒の右手は拳が握られ、

 「よかったーだいじょうぶ?」

 小首を傾げる静は開いた手をヒラヒラと降っている。

 その他、千鶴はチョキで真澄はグーで千景はパー

 「ぬぁにジャンケンで決めようとしてんだよ!」

 明らかに、全員でジャンケンしようとしていた。

 「アイコになってる間に死んだらどうする!?」

 そう怒鳴ると「生きてるじゃん」と全員に逆に突っ込まれて梅吉はなんだか泣きたい気分になった。

 「気失ってるだけだから人工呼吸は良いっていったんだけどね」

 こういう事を一番楽しみそうなのに、やはり腐っても保険医なのか鈴之助はあきれ顔で溜息を吐き。

 「すまんな、千鶴の馬鹿が言いだしてみんなが乗っかって抑えきれなかった」

 三郎が梅吉に詫びてきた。

 「くっ……ふふふふふっ」

 馬鹿らしくて思わず笑ってしまう。そんな梅吉を見て、みんな明らかに安堵の表情を浮かべた。

 (心配されたんだ)

 なんだか胸が熱くなる。単純に嬉しいし有難いと思った。

 「って、そうだそんなんじゃなくて!あれ!あの部屋に誰か居たんだ!」

 ふと先ほどの白い影を思い出して梅吉は屋敷を指さして示した。

 「五番目の窓――! に、ひと、かげ?」

 が無いのだ。

 五つあった筈の窓が

 「いち、にい、さん、し……」

 指さして一個一個数えてみても、さっきは確かに五つあった筈なのに。

 「ちょっと梅ちゃん!私怖いのだけは得意じゃないんだから!」

 身体を縮めてほづみが言う。

 煉瓦のような分厚いミステリー小説を読んでおいて「怖いのが得意じゃない」はないだろう。と思うが不安そうな表情からして多分本当の事だろう。

 反対にきっと鈴之助は目を輝かせて喜ぶに違いない――と思ったが。

 「?」

 その横顔は険しいくて、睨み付けるように梅吉の示した方向を見つめていた。

 「ある筈のない部屋とか、そんな怪談あったな」

 真澄が屋敷の方を見ながら呟く。

 「ああ、俺も知ってるそれ!」

 手をポンと叩いて言ったのは周だった。

 「確か、壁だった場所を壊したら一部屋あってーってやつでしょ?」

 何時の間にか切り分けられたスイカを食べながら静が言った。

 「あー……夜、隣からカリカリ、カリカリ壁を引っ掻くような音が聞こえて、おかしいからって調べたら壁だと思ってた場所から扉が出てきて部屋の中にびっしりと『お父さんごめんなさい』って血文字で書いてあったっていう」

 七緒の説明にほづみが止めて止めてと首を振る。

 「ん?『お母さん出して』じゃなかったか?」

 冷静にそう訂正したのは千景。

 「あれ?そうでしたっけ?でもこの話オチが分からないからイマイチ怖くないっていうか。遺体が見つかったとかもないし」

 梅吉からしたら十分怖い話なのだが、七緒はそうでもないらしい。

 「噂話にありがちだな」

 千景も呆れたように笑ってその話はそこで終わってしまった。

 でも梅吉は確かに見たのだ。

 窓は五つあって、人影かこちらを見ていた。

 しかし、今、何度見ても窓は宛がわれた部屋分の四つしか存在しない。

 (変だな――……)

 やはり見間違えだったのか、なんだかんだで海に入ってはしゃいだせいで疲れて居たのかもしれない。

 ここへ来る途中も大層騒がしかったし、一人でも疲れるのに全員そろうと梅吉は基本誰かに突っ込みを入れるような状態になって

 (突っ込み疲れ?)

 そんな物は聞いた事がないが見間違いなら見間違えでそれでいのだ。

 怖い事なんて起らないに越したことはない。あのお化け屋敷みたいな経験はもう二度と御免なのだから。




 



 二等辺三角形に切り分けられたスイカの赤い身を口に含めば途端にさわやかで甘い果汁が広がる。

 浜辺で食べるからだろうか?スイカはなんだか普段食べるものより美味しく感じた。

 勝手に静が切り分けてしまったから予定していたスイカ割りは出来なかったけれど、波音を聞きながら下らない事を話しをして仲間と騒ぐのはとても楽しい。

 (仲間――か)

 自然とそんな風に思って居る自分が居て、なんだかくすぐったい気分になる。

 なんだかんだで自分はこの面子が好きだと思う。

 一歩間違えばヤンデレな周も動物が大好き過ぎる天然な真澄も、ちょっと危機感を覚える事もあるが何だかんだで梅吉の事を心配してくれる生徒思いな千景も、いつも梅吉の背中を押してくれる七緒は勿論、腐女子なのが玉に致命傷だけど優しく接してくれるほづみもお嬢様だけど憎めない百花も、頼れる先輩の三郎も、何を考えているか分からない静も、色々色相談に乗ってくれるこの世界で唯一梅吉の正体を知ってる鈴之助も

 (千鶴は――やっぱり苦手だけど)

 でも千鶴の事も心から嫌いになれない。きっと彼がこんな風なのはあの事件のせいだから。

 そもそも、誰一人初対面で気に入った人間なんていなかった。

 全て分からなくて、梅吉には理解の範疇外の人物ばかりだった。

 今も、理解できない事が大半で、一人一人一体何を考えているのかよく分からない。

 それでも、一緒に居て楽しいと思う。戸惑う事も多いけれど一人で部屋に籠ってゲームをしていた時より幸福な気持ちになる事がある。

 もしかしたら、これが自分が手に入れられないとあきらめていた青春なのかもしれない。人と関わる事は相変わらず怖いけれど、一人では手に入らない喜びがあるのだと言う事が分かった気がする。

 「夏のいい思い出作るぞ!」

 思わずそう声に出して叫んでしまった。

 恥ずかしさに両手で口を塞ぎ俯いているとポンと肩に誰かが触れた。

 「そうね。作りましょ」

 俯いた梅吉の顔を覗き込むように少し身体を屈めて鈴之助が視線を合わせてくる。

 「まずは――」

 そう、まずはまた海で泳いで、夜はバーベキューで盛り上がって、

 「ホラー映画上映会をしましょう!」

 色々あれこれ考えていた梅吉の思考を見事に裏切るような鈴之助の言葉。

 「お前!海にまで来てホラー映画見る必要ないだろ!?むしろ、もう見ただろ!?まだ見る気か!?まだ足らんのか!?」

 キレ気味で巻き舌気味に問い詰めれば「冗談よー!」と返ってくるが多分冗談ではなかったと思う。

 「そもそもお前、さっきだってビーチに女子呼び寄せておいて自分はリビングで映画見てるたぁどういう事だ!?」

 別に呼ばれなくても、海には行ったと思う。

 しかし、言いだしっぺの本人が冷房の効いたリビングでカーテンを閉め切りホラー映画を見ているとはいったいどういう事なのか。

 何か意図が――いや、無い。

 どう考えても意図なんてない。

 鈴之助の事だからきっと呼んでおいて忘れてしまったに違いない。

 まったくはた迷惑なオカマだとそう梅吉が腹を立てていると。

 「???」

 鈴之助が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

 「おま、まかさ、少しも悪いと思ってないな!?」

 なんて奴だと梅吉が鈴之助に言葉を投げつければ鈴之助は少し言いにくそうに。

 「あのさ、さっきも思ったんだけど、あたしあんた達呼びになんて言ってないわよ?」

 と、言葉が返ってきて。


 女子全員の顔色が一気に青冷めた。



 「じゃ、じゃ、じゃ!あれ誰だよ!?」

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ