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彼女と彼女の歩調 2

異常気象な雪が降っても腐女子ほづみちゃんは今日も掛け算で頭がいっぱい。でもでもあれれ?なんか、様子がおかしいような?

 人と言うものは自分の理解できないものに対して嫌悪してしまう習性がある。いや、人じゃなくても――例えば突然変異で生まれた白い鴉は仲間である筈の鴉達に虐められたり、自分と違うものを異様と捕えてしまうのはそう言う話から考えてもきっと当たり前の事なのだ。

 でも、自分達は人で、野生では無くて、思考する事ができるのに消える事はない。

 「中等部の頃は、クラスみんなに無視とかされてた事あったみたい。ここってエスカレーター式だから今でもクラスにはあまり馴染めてないらしいよ?まぁもっとも初等部からずっと一緒の神藤くん?が居るから中等部の時よりはいいんだろうけど」

 教室についてから七緒にほづみの事を聞いてみた。何故そんな事をされたのか七緒は違うクラスだったから知らないと言っていた。ただ、他のクラスから見てもいじめられっ子特融の雰囲気がほづみからはあって、花見の時に会った時に話してみて何故そんな事になったのだろうと不思議に思ったと――。

 「いい子じゃんね?可愛いし――クラス違ったし、よく分からないから話しかけなかったけど中等部の時に声かけとけばよかった」

 原因が分からないと首を傾げる七緒、しかし梅吉にはその理由が分かる気がした。

 (多分、アレだろうな)

 ほづみの趣味がいじめの原因だろう――と梅吉は思った。

 (まぁ、ほづみちゃんの趣味を白い鴉に例えるのはかっこよすぎな気がするけど)

 今はほづみに嫌悪してない七緒でも彼女の趣味を知ったら、彼女に対する見方が変わるかもしれない。

 自分はいい。辛うじて理解がある。別に好きではないが、自分も人に誇れる趣味を持ってるわけではないからほづみの気持ちが分からなくもないのだ。

 きっと今、彼女は自分の趣味を隠しながら学園生活を送っているのだろう。

 (でも、俺には隠してないよな?なんでだ?)

 それは嬉しいような隠していて欲しかったような複雑な気分だ。

 (オタクの匂いでも染みついているんか……)

 そして、その結論に達すると中々ショックだった。

 でも、

 「そっか、今のクラスでも馴染めてないんだ」

 そう聞けば途端に彼女の事が心配になる。

 「放課後にでも会いに行ってみようかな……」

 本当ならもっと計画的に誰と会い、誰との好感度を上げるとか考えなくてはいけないのだけど――だって、気になって仕方ない。他人事のように思えないのだ。

 梅吉だって大きくカテゴリー分けしたらほづみ側の人間だから

 「あ!じゃあ私も行く!」

 梅吉の言葉に七緒がそう乗ってくる。

 「え?それは、ちょっと」

 やめた方が良いのではないだろうか、ほづみも七緒が居たら話しにくいかもしれないし

 「ずっと気になってたの。なってて、知っててそれでも自分からは声かけないで見てるだけだから、今、梅と話しててさ私って卑怯だったなぁーって思って、知ってて何もしないのも虐めてたのと一緒だよね。可哀想だって思ってて切っ掛けがなくて友達になれなかったから」

 少し恥ずかしそうに言う七緒を本当にいい子なのだと梅吉は思った。

 そして、七緒ならば大丈夫じゃないだろうかと期待してしまう。

 (駄目な時は駄目な時かな)

 別に、二人の間に何かおこったとしても自分だけは変わらず接していけばいい。誰が誰をどう思うかは個人の自由だから、できれば仲良くなって欲しいけど無理強いはできない。だから、そう楽天的に考えてる事にした。

 キーンコーンカーコンーと、定番のチャイムが流れる。

 「じゃあ、放課後、私も六組に連れてってね」

 そう言って七緒は自分の席へと戻っていく。

 ガラリと教室の扉が開き千景が教卓の前まで来たのを見計らい梅吉は号令をかけた。

 「それでは――」

 千景の低くけれど教室の隅まできちんと届く声がホームルームを開始した。

 その声をぼんやりと聞きながら梅吉は考えていた。

 そもそも女子と言う生き物に梅吉は苦手意識が強い。そもそも誰かと交流する事自体が苦手な上に女子と言う生き物はその上をいく。

 まず一に、彼女達は群れて生活する。

 女子にはグループがあって、それは幼稚園から今通う予備校でも変わらない。そしてそこに所属できないものはそれだけで疎外される。

 梅吉の妹、桜子は女子と群れるより男子と外で遊ぶような子供だったらしくいろいろとあったらしい。

 『男の子と遊ぶだけで男好きだって言わるんだもんたまんないわよね。まぁ、影でそんな事言う奴らより男子の方がいいから男好きでいいけど』

 そんな事を昔愚痴っていたのを聞いた事があった。

 馬鹿らしいと笑い飛ばして、さして悲しそうでもなかったから『女の子は面倒だ』と、当時はその程度しか思っていなかったけど。もしかしたら妹だってそれなりに傷ついていたかもしれない。

 自分なら耐え切れない。そして今、ほづみが同じ苦しみを味わっているなら少しでも楽になって欲しい。

 (女の子でよかったかも)

 ようやく、自分が女性になれた事を少し良かった思えた。

 中身は男だしオタクだし、良い所なんて何一つないけれど、女の自分にしかこれはできない気がする。

 







 放課後、七緒と一緒にほづみのクラスへと向かう。

 そもそも、ずっと一人きりでいた梅吉にとって自分のクラスじゃないクラスに行き尚且つ誰かを呼ぶなんて事ハードルが高すぎだったが、

 「あ、香々見さん呼んでもらえる?」

 教室に付くなり人見知りする事なくクラスの人間にそう声をかける七緒のおかげで事なきを得た。

 七緒にそう言われた生徒は梅吉達が立っている場所から真逆の方向へ向かう。すると教室の隅、俯きながら帰り支度をするほづみの姿があった。それは髪の毛で顔が見えないせいかそれはまるで別人のように見える。

 生徒に声をかけられほづみは顔を上げる、そして指で示された先、自分達の姿を見つけるとほづみの顔は途端にぱぁぁっと明るくなる。

 「梅ちゃん――に、一条さん?どうしたの?」

 それは、梅吉が知ってるいつものほづみだった。

 「一緒に帰ろうと思って」

 歯を見せて、ニィっと七緒が笑う。

 「今朝、途中から一緒に学校来れなかったし」

 七緒に続いて梅吉なりに懸命にそう誘ってみた。必死に言い訳を探してこれしか出てこない自分の発想力の無さを呪いたいが、

 「嬉しい!待ってて!今、したくしちゃうね」

 こんな下手くそな誘い文句でもほづみは嬉しそうに微笑み駆け足で自分の席へと戻っていく。帰りの支度をするほづみは先ほどまでの俯いた元気のない感じではなく、まるで遠足の支度をする子供のような楽しそうな顔をしていた。

 



 「今日は真澄くんが居なかったから、一緒に帰ってくれる人いなくて寂しいなぁって思ったの」

 だだ帰るだけじゃつまらないと、七緒が言いだし以前七緒と一緒に来たショッピングモールへと三人で来てみた。

 (女の子って感じだなぁ)

 モール内のファストフード店、自分の隣にほづみ、七緒は前に座っている。

 「真澄、くんは今日はどうしたの?」

 真澄の事だからもしかしたらまた妙な動物でも拾って学校に来れなかったのだろうか――と思いながら何気なくそう尋ねてみる。

 「んー?風邪かな?真澄くんが体調崩すなんて珍しいんだけど、今朝迎えに行ったら熱があるから休ませるって真澄くんのおばさんが」

 ほづみの話しを聞きながら梅吉は大分溶けて来てしまったバニラシェイクを飲み込む。今朝雪が降ったと言うのに何故か今は熱くさえ感じる。

 それは、季節外れの雪せいで暖房が効き過ぎているのと、厚着をしているからなのかもしれないが、そういえばここに来るまでの帰り道、太陽の光は強くて白い雪に反射し目がチカチカするぐらいだった。

 異常気象もハッカーのせいなのだろうか、こう温度差が激しかったら確かに普通の人間なら体調を崩すだろうしそう考えたらゲーム内であっても真澄の不調は自然な事のようにも思える。

 「すごい!ほづみって意外と肉食系なのね!自分から朝迎えに行くなんて」

 ほづみの言葉にそう食いついたのは七緒だった。女の子は恋愛の話しが好きだ。七緒も例外じゃない。

 「ち、違う!違う!全然そういうんじゃないんだよ?」

 ほづみは顔を真っ赤にし慌てて頭を横に振った。

 (肉って言うか、ホモを喰うんだけどな)

 と、梅吉は内心で思ったがもちろん口が裂けたって言えやしない。

 こうやって顔を赤らめて、恥ずかしそうにする彼女の姿はどう見ても可愛い女の子でしかなくて、

 「んー…なんか、今日、雪降ったくせにたあっついよね?ここ暖房効きすぎなのかな……ドリンクもう一個かってくる」

 手でぱたぱたと顔を扇ぐ動作をして、七緒はそう言って立ち上がり二個目のドリンクを購入するために席を外した。

 やっぱり、自分以外も熱さを感じているのかと七緒の発言で梅吉は思い知る。

 自分も何かドリンクの追加を買いに行こうかと店内を見渡していると、

 「梅ちゃん、今朝は急にごめんね。誘ってくれてありがとう」

 そうほづみから声を掛けられた。

 「え?ん!?全然!全然!こっちこそ一緒に来てくれてありがとう」

 見ればほづみは笑顔を浮かべていてやはりほづみは笑っている方が可愛いと思った。

 (俺が男のままなら、両手に花だって素直に喜べるのに)

 とても複雑な気分だけど、少なくとも今、自分はこの状況が少し楽しいから細かい事は考えないようにしよう。

 (性別の問題だから全然細かくないけどな!)

 でも、ほづみが笑ってくれていてそれで良かったと心から思える。

 「あのね。ジェニファーちゃんに初めて会った日に梅ちゃん私に聞いたでしょ『攻めの反対は?』って、それでね。反射で『受け』って答えちゃったんだけどお家帰ってから違うって気が付いてね。きっと嫌われちゃったなぁって思ったの」

 もじもじと耳まで赤くしてほづみは話しはじめた。

 どうやら、以前問いかけた問題の本当の答えにあの後気がついたらしい。

 「でも、あの後も梅ちゃん私に対して無視とかしなかったし『ああ、そういうの大丈夫な人なんだな』って思ったの」

 なりほど、そもそもあの質問をできる次点で同類である可能性は高いわけで、それでほづみは自分の前では隠す事をしなかったのだと納得できた。

 「でもでも、本気で無理だと思ったなら言ってね?知っても梅ちゃんがこうして私とお話してくれる事だけで嬉しいから」

 必死の形相でそんな事を言われたら

 「そんな事ないよ!ほづみちゃんと話すのすごく楽しいし!」

 そう返してしまうのはしょうがない事で、

 「本当?嬉しい!」

 それから、飛び切りの笑顔でそう喜ばれたらどんな掛け算の話しだって聞いてやろうと決意してしまう。

 (まぁ、今は自分は女だしホモの話しされても他人事と言えば他人事だし)

 聞けなくもないだろう。自分も対象になりうると言う恐怖があるからどうしても一歩引いてしまうだけで、対象じゃないから腐女子なんて怖くない。

 「なんか梅ちゃんって普通の女の子と違うよね。一人称『俺』だし、たまに男の子みたいだなーって思っちゃう。TS?トランスセクシャルとかも私最近好きなの!あっ、元からねBLもGLも好きなんだけど最近更に好き嫌いが――」




 

  

 訂正。

 腐女子おっかない。





 朝、かなり積もってた筈の雪は自宅に着いた頃にはすっかり全て溶けてなくなっていた。

 アスファルトは渇いているし、まるで何もなかったかのようだった。

 ハッカーによりゲームのシステム自体がおかしくなっているのだろうか。

 「結局受け取ってしまった」

 話しの流れでほづみから貸されてしまったBL本の表紙をみながら梅吉はぼんやり今後の事を考える。

 (ハッカーの目的はなんなんだろう)

 出れない事自体には困っているが、他には不便を感じない。

 いや、ずっと出れなければ梅吉は衰弱死するか家族がみつけて病院に運ばれていたとしても、眠ったままで一生を過ごすかもしれない。

 この世界で自分が死んだなら多分脳死状態になって身体もいずれ死んでいくだろう。

 相手はそれを狙っているのだろうか?もし狙っていたなら、いつか梅吉の目の前に現れ殺しに来るかもしれない。

それは何時だろう。

そして誰なのだろう。

今の所これと言って妖しい人間はいない――と言うか、妖しいと思いたくないと言うのが正直なところだ。

 確か昔見たアニメにVRMMOから出れなくなった話しはあったが、

 (あれはゲームマスターが元凶だったしな)

 オフラインゲームだしそもそもゲームマスターなんてこのゲームにはいない。ある程度シナリオが決まっていて、それに沿ってイベントが展開されているんだと思う。

 けれど、ここの住人が驚くぐらいなのだから、この時期の雪もその後の暑さもきっとシナリオにはないものだ。

 メニュー画面を開いてみる。チャプターから制作会社の名前をみれば「スタジオ錫色」と描かれていいた。

 (――よめない)

 見慣れない漢字と見覚えのない制作会社。何かヒントがあるかと思ったが結局なんの思いつきもなく梅吉はメニュー画面を閉じるしかなかった。

 自室のベットにごろりと横になる。瞼は綴じずにただじぃっと天井を眺めた。

 最近眠るのが少し怖い。

 また夢をみるんじゃないかと思って、意識を手放すのが怖くなる。

 夢の内容自体は怖いものはないけど、でもいつも懐かしいような悲しい感覚が胸の中に残るからやはりできるならあまり見たくない。

 結局、あの夢の中の青年が誰かも自分は思い出せていない。

 (いずれ思い出すのかな)

 そうしたら、この自分の回りを取り囲むような謎の正体が明らかになるのだろうか?

 (もし思い出したら)

 この世界からログアウトできるのだろうか?

 

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