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彼女と彼女の歩調 1

謎のキャラクター七松三郎と真崎千鶴の間に一体何があったのか?謎は増えていくばかりで、

 朝起きたら世界が真っ白になっていて酷く驚いた。

 「ちょっと待て……もうすぐゴールデンウィークだぞ」

 四月の終わり、何故か大量の雪が降り注いだのだ。

 現実なら、ないとは言わないがここはゲームの中、異常気象とは無縁の筈の世界なのに一体何がおこっているのだろうか。

 (明らかにおかしい)

 明確な異常を感じたところで結局梅吉には何もできない。ただ、ゲームを進めていくしか道は残っていないのだった。

 だから今日も、周に遭遇する前に起きて、多少女の子らしく身なりを整え母の作る朝食を食べて一日を始める。

 暖かくなったからとしまってしまった冬物のコートをクローゼットから出して制服の上に羽織り学校へと向かった。

 




 『王子がもしツバメに裏切られていたならいったいどうなっていたと思う?』


 そんな三郎の問いかけに梅吉は何も答える事が出来なかった。

 怒る事も、悲しむ事も、慰める事も自分にはできない。だって自分は彼らの事を無い一つ知らないのだ。

 だから何も言えない。言葉が一つも浮かんでこなかった。

 元々人の相談に乗れる程、自分は立派な人生を歩んできては居ない。むしろここに来て学ぶばかりの自分が一体彼に何がいえるだろうか。

 結局、笑って誤魔化す事しかできない自分は本当に不甲斐ない。 

 全てを白く染めて、それでもまだ飽き足らないのか雪は相変わらずしんしんと降っていた。

 早朝の誰の足跡もついていない新雪を踏みしめながら千鶴のあの真っ白な部屋を思い出す。彼の部屋は金持ちらしい豪華な部屋だったのに、どうして寂しいと思ってしまのだろう。

 家具は溢れているのに、冷たい感じがするのは白と言う色が今降り注いでいる雪をイメージしてしまうからだろうか。

 (知ってみようか)

 不意にそんな考えが浮かぶ。

 千鶴の事、三郎の事をもっと分かるよう努力してみようか――と。

 三郎はともかく、千鶴は攻略キャラなわけだし、その行為自体はマイナスではない。そもそもこういうゲームは相手の事を知ることだって大切な攻略法の一つなのだ。

 でも一体どうすればいいだろう。あの一人で踏み入れたら二度と無事に出れそうもない屋敷に出向くのはもう嫌だし、もし誰かに話を聞けたなら

 「おはよう」

 可愛らしい声を背中で聞いて梅吉は振り向いた。

 「おはよう。ほづみちゃん」

 そこにはほづみの姿があった。首にマフラーを巻き、黒タイツを履いて梅吉と同じようにyはり冬物のダッフルコートを身に着けている。

 (かわいいいぃぃぃ黒タイツかわいいいぃぃ)

 生足も好きだが、タイツもいいと梅吉は心の中で歓喜していた。

 「急に雪降るからびっくりしちゃった。ずっとこの街に住んでるけどこんなの初めてだよ」

 白い息を吐き出しながらほづみはどこか興奮したように言う。

 「そう、なんだ。やっぱり普通じゃないんだ」

 やはり、この雪は初めからプログラムされたものではない。梅吉はそう確信した。

 「普通じゃない!普通じゃない!だってこの前お花見したばっかりだよ?お花見した後に雪なんて普通じゃないよ!」

 そう『普通ではない』と連呼するほづみその肩にかかる――。

 「運動部みたいなその鞄もなかなか普通じゃないね」

 確か一年はまだ部活動は開始されていなし、ほづみが運動部だと言うのは聞いた事がない。

 けれどほずみのか細い肩にかかる鞄は大きな円柱形のバスケ部とか運動部がよくもっているもので、

 「そうかな?今日は少ない方なんだけど」

 まさか薄くて高い本とか大量に入っているのだろうか――とりあえず一眼レフカメラはあの中にあるのだろうけど。

 「やっぱり本が入ってたり?」

 「そうだよー」

 や っ ぱ り ね !

 恐る恐る問い掛けた疑問はあっさり肯定される。

 この大きな鞄の中には禁断の書物が山盛り入っているに違い

 「ミステリー小説とか、ミステリー小説とか、ミステリー小説とか」

 が、予想外の回答に一周回って梅吉は驚く。

 「ミステリーゴリ推しですね」

 「うん。大好きなの!よかったら梅ちゃんも読む?」

 ニコニコとしたまま、ほづみが自分の鞄の中をさぐる。

 「おすすめはね。コレとコレ」

 てっきり文庫本とかハードカバーとかが出てくると思ったのだが、ほづみが取り出したのは辞書ですか?と問いかけたくなるほど分厚い本で、表紙には確実に人じゃないイラストが入っている。

 「そのなんちゃらの匣とかしってます。すごく読める気がしないですし、それを二冊も持ち歩いてるほづみ△(さんかっけー)」

 「やだ、なんでいきなり敬語なの?」

 相変わらずの柔らかな笑顔、それだけ見てると本当に好みのタイプの可愛い子なのに。

 「それに二冊じゃないよ?全巻もってるから読みたいやつあったら言ってね」

 その細い腕と薄い身体のどこにそんな力があるんですかと聞きたい。発行する本が分厚いことで定評のある作者のシリーズを全てだなんて

 「お、重くない?俺持つよ!」

 男として、いや今は女だけど――か弱い女子にそんな重たい荷物を持たせるわけにいかないと梅吉はほづみの鞄に手をかけそれを持とうとしたのだが。

 「!?」

 ずっしりとした重さはまるで地面に吸い寄せられるようにずどんと落ちた。

 (う、動かない……だと?)

 そして落ちたが最後、まるで地面と接着してるんじゃないだろうかと疑いたくなるほどびくりとも動かない。

 「大丈夫!?」

 ほづみは慌てて、鞄を拾い上げるとひょいっと持ち上げた。

 「梅ちゃんって女の子らしくてかわいいね」

 そう言って彼女は笑うけど、自分が女の子らしいのではなくほづみの筋力がきっと雄々しいのだと思う。

 「ところでさ、ほづみちゃん千鶴…真崎先輩の事詳しかったりする?」

 再び学園に向かい歩き出し、歩を進めながらそう尋ねてみる。

 ほづみはある種憧れのようなものを千鶴の抱いていたと思い出したのだ。

 委員会の時の彼女の態度を見てもそれは明らかだった。だからもしかしたら何か情報が得られるかもしれなない。勿論駄目元のそれは質問だった。

 「もしかして、梅ちゃん真崎先輩を狙ってるの!?」

 途端に目の色が変わるほづみに梅吉は思わず半歩下がる。

 「いや、そういう訳じゃ」

 言いかけてはたと気が付く。

 ――あると言えばあるのだ。自分は彼を攻略しようとしてる訳だし。狙っているで間違いないのだが、

 「えっとホラ、七松先輩?とかとは古い付き合いみたいだし仲いいのかなぁーとか」

 まさか、攻略しようとしてます。だなんて言えなくてそう言葉を濁す。

 「梅ちゃんって王道カップリング好きなのね!いいの!いいの!私がマイナーなものに萌えてるのは分かってるから!でも分かる!確かにあの二人妖しい!なんでも幼馴染でずっと学校一緒らしいし子供の頃から一緒みたいだしね!どこまでいってるのか妄想しちゃうよね!わかるぅ!」

 キラキラと輝き出す瞳、


 一体彼女ハ何ノ話ヲシテルンデス?

 

 「でも、あの二人不仲節でてるのよね。中等部の頃にさ変な噂が流れて、それを流したのが七松先輩だって」

 そうだ――昨日三郎自身がそう言っていた。千鶴の悪い噂を自分が流したのだと。

 「それ俺も知ってるよ……もし、七松先輩だとしてなんでそんな事したんだろうね」

 そんな事をする必要が何故あったのだろう。例え不仲と回りに思われ、過去に何かあったとしても今の二人の関係はやはりある程度の信頼関係がある気がするのだが。

 「なんかうちの学園って結構お金持ち多くて、株?とかそういうのの関係だって言ってたよ。真崎先輩のうちの悪い噂を流して株の操作を七松先輩の家がしてたとかそういう大人の事情なんじゃないかって」

 ほづみからの情報に梅吉はなるほどと少し納得する。そういう事ならありそうだと思ったのだ。実際、それが真実なのかは分からない。でもきっと何かそうしなければいけなかった理由がある筈だ。

 七松三郎と言う人間が理由もなくそういう行動をするようにも思えなかったからだ。

 「私の家は普通のサラリーマンだけどね。お金持ちの家の子は色々大変みたい。人付き合いとか――」

 ほづみは少し沈んだ顔をして何かを言いかけたが

 「おはよう香々見さん月見里さん」

 投げかけられた朝の挨拶にそれは途切れた。

 自分達にそう声をかけてきたのは確か、梅吉のクラスにいた女子で

 (名前知らないな)

 多分モブキャラだろう。とりあえず挨拶を返すが、

 「香々見さんの荷物大きいわね」

 大きなほづみの荷物はやはり自分じゃなくても気になるらしい。しかしそれは触れてはいけないパンドラの匣だぞ、と梅吉は内心で思った。きっと途端にお気に入りの小説の話を――。

 「う、うん。着替えとか入ってて」

 してこなかった。さっきまで梅吉には隠す事なく中身は本だとほづみは言ったのに。

 「着替え?部活まだなのに気がはやーい!」

 モブは不思議そうな顔をした後にクスクスと笑う。気のせいだろうか、少し小馬鹿にしたような態度に見えてしまうのは――。

 (なんか嫌味っぽい?)

 印象悪いと思いながら、でも相手に悪気はないかもしれないと梅吉はなるべく不愉快そうな顔をしないようする。だってほぼ初対面みたいな相手なのだ、モブと言えどよく分からない人間にいきなり失礼な態度をとれない。

 もし自分が相手の立場ならよく知らない相手にそんな態度とられたくない。

 自分がされて嫌な事はしない。子供の頃から染みついた習慣のようなものだ。

 それはコミュ障で会話をするのが苦手な梅吉がそれでも唯一気を付けている事だった。

 だから精一杯の笑顔を浮かべてみせる。笑顔の練習なら鏡を見て毎日したからきっとできて居るはずだ。

 少しまだぎこちないからほづみみたいに綺麗に笑えないけど毎日の練習のおかげか、最近少しはマシになってきていると思う。

 ほづみも合わせて笑っているがどことなく元気がなかった。

 「ほづみちゃん?大丈夫?」

 思わず心配になってそう声をかけてみる。さっきまでこっちが引くほど元気だったほずみは今は視線を下に落として浮かない顔をしていた。一体どうしたと言うのだろうか。

 「う、うん……あっ!私、ちょっと用があるから先行くね!」

 早口でほづみはそう言うとまるで逃げるように走り出して言ってしまった。

 (早いなおい)

 その足の速さが陸上部並みだし、あの重さの荷物を持ってるにのに軽やかで走るフォームが綺麗すぎた。 

 でもそんな事より、

 (――なんか、あったのかな?)

 急に態度が変わってしまった彼女の様子が梅吉は気になって仕方なかった。

 

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