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僕のジェニファー 3

肉食系女子になろうと決めたら肉食系の生き物と道端で遭遇して対処にとっても困る。しかも、ライバルの女性キャラからよく知る黒いオーラが見えて可愛い子なのにちょっとショックだ。

 女の子はきっと素敵なもの出来ているんだと思っていた。リボンにレースにぬいぐるみ。色はピンクが好き。そういう分かりやすい女の子が梅吉の理想で、きっとほづみはそういうタイプの女の子なんだと思っていた。

 しかし人は外見で判断しちゃいけないと言うし確かにそうなのかもしれないと此処に来てから思い知らされる。

 まずそれが一番分かりやすいのが真澄。不良かと思ったら真面目。そしてもしかしたらほづみもなんじゃないかと今、そんな考えが脳内を巡っている。

 今日一日、真澄は何故か梅吉のクラスに休み時間の度に現れた。

 そして二人でジェニファーの話しや動物の話しをする。どうやら真澄は自分の話しを関心して聞く梅吉の好意を持ち始めているようだ。

 それはいい。それに関しては悪人面で『計画通り』そう言ったっていいぐらいだ。例え短い時間だろうが会えば好感度は上がる。これで周や千景と同じぐらいまで彼の好感度を上げるてしまえば後々のゲーム攻略的にも楽になるだろう。

 しかし計算外の事はそこに必ずほづみも付いてくることだった。梅吉の内心としてはほづみが付いてくるのは嬉しい。どうしても口下手な二人だから彼女が入る事により会話も弾んでいる気がしてる。

 けれど、真澄が自分相手に警戒心を解き打ち解ければ打ち解ける程、ほづみの背後の黒いオーラはいっそうどす黒くぐるぐると渦巻いていくようなようで気が気ではない。

 (どいつもこいつもヤンデレばっかりかよ!)

 周と言いほづみと言い、このヤンデレ率の高さはなんなのか。ヤンデレよりもクーデレやツンデレが好きな自分にはこれは中々キツイ。

 そもそも梅吉は基本的に『人と付き合った事が少ない』異性と――と言う意味ではない。人間付き合い自体があの子供の頃の出来事以来怖くてできていないのだ。

 だから人の行動、感情を考える場合、基準を自分に定める事しかできない。一般論的なものは分からないし「身近にこういう人がいた」なんて経験もない。あっても本当に家族ぐらいなものだ。

 その狭い梅吉の認識の中で『ヤンデレ』と言う生き物は行動不能で予測不可能な生き物だった。まず理由が分からない『好きだから』その理由だけで相手にそこまで執着できる事が理解できないでいた。

 それはきっと、梅吉が今まで誰にも執着する事なく生きてきてしまったからだろうけど。

 


 「ほぅ……幼馴染以外にも友達ができたか」

 

 

 6時間目の生物の授業の終わり、梅吉を迎えに来る二人の姿を見て千景がニヤニヤと笑みを浮かべながら呟くのが聞こえた。

 この間でまで周と梅吉を取り合っていた癖に、やたら上から発言なのはまだ真澄の好感度が自分より低いからの余裕なのだろうか。もしそうだとしたなら、これは好感度が上がれば上がる程面倒な事になるだろう。

 (憂鬱だ)

 しかし決めた以上、もう本当にこの計画に変更なんてない。誰も選ばないし誰も捨てない。女の子キャラともちゃんと円満ハッピーエンドを目指してやる。そう決意したのだから。

 ぎゅっと拳を握り新な決意を固めて、梅吉は二人の居る方へ一歩踏み出した。

 



 しかし問題は一つも進展していないのだ。そう実感したのはケージの中のジェニファーを見た時。

 (――は、話すの夢中で飼い主探すの忘れた)

 休み時間の度に二人が自分の所に来るものだから飼い主探しをつい忘れてしまった。

 「あっ!これがジェニファーちゃん?かわいいー!」

 背後からそう華やかな声をあげてほづみが喜んでいる。ワニの様子が気になるからと、真澄が梅吉の家に寄ると言い、当然ながらほづみ着いてきた。

 女の子が自分の部屋に来るなんて本来なら両手を上げて喜ぶし、これが梅吉の好きなエロゲーならそのままエロフラグなのに、ここが乙女ゲーム内で自分が女性と言うのがな残念でならない。

 「ほづみちゃん爬虫類とか平気なんだね」

 彼女は絶対蛇とかトカゲとか怖がりそうな感じがしてたが、ほづみは可愛い可愛いと言いながらさっきからジェニファーの写真を撮っている。

 (ああ、しかもなんて)

 本格的な一眼レフカメラだろうか――細く白い二の腕に似合わない、大きく黒い重たそうなカメラを軽々手に持ち構えながら彼女は色んな方向からジェニファーを激写していた。

 (ははは……本当に人は見かけによらない)

 梅吉は心の中で乾いた笑い声をあげた。

 (ああ、でも花とか空とか可愛い写真とってそうだな)

 そう思えば彼女に不似合いな一眼レフの重たそうなカメラも彼女に似合っているような気がするから不思議なものである。まぁ、それを持ち歩いているのはそんな細い身体のどこにそんな筋肉が――と思わずには居られないし腰を低くし膝を折って撮る構え方とかプロっぽすぎて今までのほづみの可愛い女の子イメージからはかけ離れているが。

 「あっ、俺餌買ってくる」

 暫くぼんやりと撮影されるジェニファーを見ていた真澄だったが、急に思い出したのかぽつりと独り言に近い言葉を残して部屋から出ていった。

 自分も――そう思ったが、撮影に夢中でほづみが真澄の退室に気が付いていない。これで置いていってしまったらきっと彼女の梅吉に対する評価は悪くなるだろう。今だって多分良いとは言い難い。だから梅吉はこのまま自室に残りほづみを見守る事にした。

 室内に二人きり。シャッター音だけが響いている。

 (本当に写真が好きなんだな)

 ほづみの様子を見ながらそう思う。初めの方こそ違和感を感じたその容姿とは似合わないプロ顔負けな撮影ポーズや黒くておもそうな一眼レフカメラは見慣れればなんの違和感も無く彼女に似合って見える。

 レンズを覗き込む彼女の顔は本当に真剣で、七緒の時もそうだったけれど何かに夢中になれると言うのは凄く羨ましいことだ。

 梅吉には回りの物が見えなくなる程夢中になれる事はない。あってもゲームぐらいなものか――しかし彼女達のようにそれは前向きな趣味じゃない気がする。

 いつか何かの役に立つ『そういう好きなもの』は羨ましい。どんなにゲームをプレイした所で終わってしまえばそれはただの時間の浪費でしかない。ゲームの世界でどんなにレベルを上げても伝説の勇者になっても現実ではただの非力で非凡な人間でしかないのだから。

 「あー!久しぶりに撮ったなぁ」

 そう言ってほづみがレンズから顔を離したのは真澄が出かけて三十分も経った後だった。

 「あれ、真澄くんは?」

 そうきょろきょろ辺りを見回す彼女の集中力は物凄い。真澄が居なくなった事に本当に気が付いてなかったようだ。

 「えっと、もう三十分も前にジェニファーの餌を買いに行ったよ?」

 真実を告げればほづみは顔を真っ赤にし「ごめんね。つい夢中になちゃった」と軽く舌を出して言った。その様子があざとく、しかし可愛かったので、さっきまでの人は見かけじゃない理論は再びくるりと翻ってやっぱり見かけかもしれないと思い直す。

 やっぱり内面的なものは外見から滲み出るものなのかもしれない。可愛いとかカッコイイとかそういう単純な容姿ではなくて、その人から感じる雰囲気とかチョイスする服装とかそういうのはその人の内面が反映されるような気がする。

 (いや、でもそれでいくと真澄の説明はつかないな)

 ただの趣味なのだろうか――彼が何故ああいう性格でああいうファッションそするのかは想像できなさ過ぎてかなり興味がある。

 「ほづみちゃんって写真とったりするの好きなんだね。他にはどんな写真撮るのかな?」

 ともかく、折角二人きりだしほづみとも親交を深めようとがんばって話しかけてみる。

 「他に?えっと空とかお花とか」

 やっぱ想像通りの回答で梅吉は胸を撫で下ろす。

 「あとは人物かな?」

 「人物?どんな?みてみたい」

 こんな可愛い女の子が撮る人物写真はどんなものだろうか。子供の写真とかいかにも撮っていそうだが、

 「え!?だめだめ!見せられないよ!全然上手に撮れてないし!」 

 けれどそう言われて断られてしまった。あまりしつこくして嫌われても嫌なので、それ以上は頼まないが少し残念だ。

 「ところでさ」

 ほづみがぺたんと床に座りもじもじとして上目使いで梅吉を見上げた。

 (うっ……可愛い)

 自分が男ならそれだけでもう襲って押し倒しているか、もし股間にジョイステックがあったなら多分反応していると思う。

 「な、なに?」

 もしや百合的展開だろうか。ホモより百合展開のが大歓迎だと思ってしまうのは梅吉も男なので許して欲しい。今は女の子だけど一応健全な成人男子なのだから。

 「真澄くんとは付き合ってるの?」 

 でも直ぐにそんな甘いものではないとほづみの発言で思い知る。そうだったこれは乙女ゲームだった。そして彼女はライバルキャラクターだ。

 「いや、付き合ってはいないけど」

 これからガンガン誘惑しようと思います。自分は肉食系女子を目指しています。だなんて口が裂けても言える訳がない。だからそう言葉を濁したのだけれど。

 「――けど、好きなんだ。梅ちゃん真澄くんが」

 梅の濁した言葉尻を彼女はそう解釈してしまったらしい。俯きスカートをぎゅっと握って何かを必死に耐えているようだった。

 (うぁっ!ヤバイ!)

 違うけど違くない。否定したいが、確かに自分は今は真澄をターゲットにしている。

 (泣いちゃったらどうしよう)

 おろおろとしながら、とりあえず泣いてしまった時ようにティッシュの場所を確認する。性的な事以外でするとは思わなかった。

 エロゲーか自家発電時磨かれた梅吉の眼力は部屋の片隅に置かれた箱ティッシュを即座に視界に捕える事ができた。こんな能力のスキルばかり高い自分に軽く落胆を覚えずにはいられない。

 「真澄くんは……真澄くんには」

 絞り出される声はとても震えていた。

 ああ、泣いてしまう。違うのに泣かせたくなんてないのに。

 泣かないで、泣かないで、泣かないで、みんな、誰も泣かないで欲しい。だからハッピーエンドを目指している。

 誰の手も取らないが、誰も見捨てない、そういう終わりを――。

 「真澄くんには――!いつかスーパー攻めな生徒会長が現れて嫁に貰っていくんだから!!!!!!」

 


 はーい?



 涙混じりの告白、知りたくないないけど梅吉が若干オタクのな故に知ってしまった専門用語が彼女の可愛らしい口から飛び出した。




 「えーと……ほづみちゃん。攻めの反対は?」



 「え?受け?」



 香々見ほづみは腐女子だった。

 

 

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