op.9 学校の友達
「おはよっ、この子が彩音ちゃんだよぉ」
「あぁ、この子が噂の」
「確かにべっぴんさん!」
新学期。クラス中の生徒が転校生の周りに集まった。中学二年生のクラスは彩音を含めて六人で、三年生は圍と芳を含めた三人だけだった。一年生は二人しかいない。
「あぁ、転校生来たんか。覚えてるか?砂浜で会ったじゃろ」
何弁と言えば良いのかわからない独特の、のんびりした喋り方の男の子。
「あっ、えぇと……健太君?」
ここに来た初日に、砂浜で会った土屋健太。あのときはなまっていると思わなかった。ただなんとなく特徴のある話し方だとは思ったが。
彩音は新しいクラスにすぐ馴染むことが出来た。普通の友達として、本当の自分を出さなくて良いのなら簡単なこと。いつものようにただ笑っていればよいのだから。ありのままの自分を受け入れて欲しい、と欲張りな気持ちを持つと、口数の少ない怖じ気付いた子のようになってしまう。
だからバンド仲間とははっきりと喋ることが出来ないのだ。
「私の従姉妹の、澄海です」
放課後、音楽室で澄海を紹介する彩音。
「初めまして、澄海ですっ。皆とずっとお話したかった人ですっ」
脳天気に明るく自己紹介する澄海を見て圍は、
「ふぅん、よろしく」
大して興味が無いのか、素っ気なく返事する。芳も大きく強い瞳でじっと見るだけ。
「私は今澄海の家に住まわせてもらってるの。本当にいい子だからすぐ仲良くなれると思う」
一息で一気に話す。あまり長い文で話したことがないから、緊張した。
「ふぅん…じゃ、練習始めよーぜ」
いつもの明るく圍からは想像出来ない冷たさ。
“気に入らないとすぐに怒鳴ったり、居なくなっちゃったりするんだって”――。
彩音の脳裏に、澄海が言った言葉が蘇る。でも、それと同時に思う。
――澄海は私でも好きだと思う優しい子だから、仲良くなれる。
最初は煩わしいと思った。頑丈に建てた筈の壁を、見えないのか何も感じずに乗り越えてくる彼女に苛立ちや焦りを感じた。それを認められるようになったのは、きっと、圍と芳、そしてバンドのお蔭なのだと思う。
(私を少しだけでも前向きにさせてくれた二つのものが、繋がらないわけないじゃない)
体中から湧き出てくる自信。こんな感覚は初めてのこと。
明るい未来が朧ながらも浮かんできた。
やっと新学期の回になりましたね。世間ではもうすぐ夏休みに入ろうというところですが。栗山は今年は何回浴衣を着られるかしら、なんて浮き足立っています。約二ヶ月の長いお休みなので、小説もばんばん更新させていただきたいと思います。