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ムジカ  作者: 由樹
7/29

op.7 練習の始まり


 ガラッ

 勢い良く音楽室の扉を開ける。圍も芳も、まだ来ていない。

「気合、入れ過ぎたのかな…」

 少し恥ずかしい。こんなにも今日という日を待ち望んでいたなんて、自分でも思わなかった。

 気を取りなおして、すぐにスタジオに行く。昨日の雰囲気のままの楽器が置かれていた。また歌えるのだと嬉しくなり、興奮しだす。



「まだ来ないよ…」

 午前十時。集合は九時半だった筈だ。彩音はもう一時間も待っている。暇なのでキーボードのスイッチを入れ、弾く。

「ドーレーミーファーソーラーシードー」

 音程は狂ってないし、声も出る。早く、早く歌いたいと気持ちばかりが焦る。

 そして、ふと気付く。

「私、一人で歌ってたんだよね…」

 昨日まで、一人で歌うことが大好きで堪らなかったのに、忘れていた。ここならキーボードがあるから適当に音を確認しながら歌うことが出来る。

 昔、母親に買ってもらったディズニーの楽譜。初心者の曲から、少し難しい曲が入っているが、彩音は右手だけで弾くのが精一杯だ。

 バサッ

 楽譜を広げ、譜面台に立てかける。慣れない手付きでたどたどしく弾く。

「あっ、指が足りないよ。指遣いとかどうするんだろ…」

 ぼそぼそと独り言。

 ガラッ

「おはよーっ。って彩音、キーボード弾けないんだ?」

 サバサバした喋り方で、明るく笑いながら彩音に近づく圍。

「何々?ふーん、ディズニーかぁ…。めぐは『星に願いを』とか弾いたな」

 ずけずけと入りこんで来ても、彩音は気にしない。逆にその態度を嬉しいとさえ思っている。

「あの……。一回、弾いてみてくれる?」

 おずおずとお願いしてみる。圍は軽く、おう、と言いキーボードーの正面に立つ。


♪♪♪


 心地良いテンポで曲が流れる。乗ってきた圍は、アドリブを入れまくり、より楽しい音楽へとしていく。

「こんなもんかな。……お、芳、遅いぞ!もう十一時過ぎてる」

 音もなく現れた芳に、圍が話しかける。彩音は芳が来たことに気付いていなかった。

「あぁ、悪い。母ちゃんが色々手伝わせるもんだから…」

「何ごにょごにょ言ってるのさ!さっさと始めよう。スコア作って来たんだろう?」

 圍は芳の言い訳を遮り、スコアを要求する。

「スコア…?」

 耳にした事はあるが、よく知らないので彩音は圍に質問した。

「うん。スコアってのはな、指揮者が持ってたりする、色んなパートの楽譜が一つになったもんさ。日本語だと総譜ってゆうんだ」

「そうなんだ…」

 スコアを見ると、タイトルに『扉の向こう』と書かれていた。

 芳は彩音の目をしっかりと見て、こう伝えた。

「彩音が歌った詞を入れてみた。歌詞はちゃんと、考えてもらおうと思って」

(私が歌詞を考える…?)

 彩音は戸惑った。ただ、零れて行く存在としか見ていなかった詞を、どう拾い集めて行けば良いのだろう。

「ふぅ〜ん。じゃ、ぼちぼち考えてみといてくれよ。さ、合わせようぜ」

 歌詞のことが頭に引っ掛かりながらも、早く歌いたかった彩音は即座にマイクを持った。

「あ、ごめん。ギター、チューニングするから…。それと圍、メンバーにベースかドラムやれる人入れたい」

 芳が少し慌てながら、圍に伝える。

「はぁ?なんでさ。どれも芳が出来るだろ」

「いや、俺にはたくさんの手がないから…」

 すこし天井を見て、考える圍。

「……あぁっ!そか、一つしか楽器出来ないもんな。ま、曲によって変えるしかないんじゃん。いきなりメンバー増やしたら不安定になるし、だいたいメンバーになれるヤツなんてそうそう見つからないだろうさ」

「だから、頭に入れておいて欲しい。今すぐじゃない」

 ぺらぺら喋る圍を声の低さで抑えるかのように、短い言葉で応え、チューニングを終わらせる芳。

「はいはい。じゃ、始めるか」

 彩音は圍と芳の遠慮の無い会話に憧れながら、歌を歌い始めた。

 スッキリと響くその歌声は、青い空に吸いこまれて行った。

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