op.6 小さな変化
「彩音ちゃん聞いてぇ〜っ!」
家に帰ると玄関に澄海が飛んできた。
「…なに」
突然でうっすら困った彩音は、無表情のまま応える。
「あのねっ、今日川に行ってたら、すっごいきれぇ〜な音楽が流れて来たの!友達とビックリしながら聴いてたの!!」
とてつもなく嫌な予感がする彩音は尋ねてみた。
「川って近くに森とか学校とかある?」
「うんっ。中学校があるよ。彩音ちゃんも通うよっ」
予感的中。
防音になっていないスタジオで思う存分歌ったのだから、周りに聞こえないわけがない。
辺りは森だから音を吸収してはくれるが、それでも近くの川にいた澄海達はハッキリと耳にしたことだろう。
知らないふりも出来る。
後にバレても気付かなかった振りを突き通す自信もある。
でも誤魔化すのは面倒だし、隠すことでもないと考えた彩音は、澄海に伝えることにした。
「それ、多分私だと思う」
笑顔にする。それを聞くと澄海は、
「えぇ?!ほんとっ?澄海、感動した程だよ。どこで誰と歌ってたの?」
すぐに質問攻めにする。彩音は一つ一つ、ゆっくりと答えた。
「本当だよ。その中学校で、芳…君と、圍…ちゃん?とだよ」
結局、芳と圍の名前を呼ばなかったことに気付く。
「芳君と圍ちゃんって同じクラスの……あの?そうだったんだぁ…。なんでそんなことになったの?」
澄海の“あの”という言葉に引っ掛かりながらも、
「私が一人でいたら、芳君が話しかけて来て、一緒にバンドの練習することになったんだ」
「えぇっ、あの無口で有名な芳君がぁ?凄いね、思い切ったコトするんだぁー」
心底意外だというように、驚きの声をあげる澄海。
「あ…それ、圍ちゃんも言ってた。人見知りなのに、って」
彩音はあまり人のことを話し過ぎるのは良くないと思い、ここで話を切る。
「圍ちゃんの方も、気難しいって有名だよ。なんかぁ、気にいらないとすぐに怒鳴ったり、居なくなっちゃったりするって」
確かに、気の短さも持っているように見えたので、へぇー、と曖昧な相槌を打つ彩音。
「でも嬉しいなっ。彩音ちゃんがあの二人と仲良くなったら、澄海も仲良くなれるよね。ずっとずっと、話してみたかったんだぁ!」
本当に嬉しそうにはしゃぐ澄海。
彩音は、澄海の心が綺麗なままであることに喜びを感じた。
「うん、きっとなれるよ。明日も練習しに行くから私も仲良くなりたいし」
久々に人と仲良くなりたいと思えた。それがとても大切なことだと、初めてわかった。
少しずつ、少しずつ、彩音の心が変化して来ていた。