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ムジカ  作者: 由樹
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op.4 秘密の共有

いつかは 君がいた

ふと 思い出し 涙

この世はきっと

冷たく 寒くて

辛いものなのでしょう?

でも貴方には感じるの

暖かさと優しさを


 思ったより声が出る。程良く乾いた空気が、音をよく響かせてくれる。

 カサッ

「――?」

 砂浜に立っている高い木によっかかりながら、音がした後ろの茂みをちらっと見る。

「!」

 また、男の人。がっちりした体格に、昨日の少年、健太のような黒い肌。目は大きな二重瞼で彫りの深い顔立ち。髪の毛はとても短くうっすら立っているだけ。

 何も言わず、じっと見つめてくる。強い眼差しが痛い。

 威を決して話しかける彩音。

「あの……何か?」

 一体何歳なのだろう。彩音と同い年にも、三、四歳年上にも見える。

「お前…歌を歌うのか?」

「…っ」

 聞かれていたんだ、と彩音は思う。

誰にも知られずにさりげなく歌うことが大好きだったのに。

「歌は、好きです」

 答えにならないような返事をする。

「今歌ったのは誰の歌だ?」

 単調に質問をする男の人。

「今のは…私が適当に創った歌です」

 何をしたいのか掴めない。無表情な顔。

「もう一度歌って欲しい。最初からずっと」

 痛いところに来た。もうさっきのメロディーなど流れ去っている。

「もう歌えないんです。思い付きで歌っただけだし、歌詞も浮かんだ曲にいい加減に合わせてるだけだから…」

「本当か…?」

 答える代わりに頷く。

「もったいないとは思わないのか?あんなに歌が溢れているのに」

(もったいない…?)

「えぇ、別に。少し淋しいとは思うけど」

 自分の歌に価値などない。儚く消え行くだけの存在でしかないのだ。

「それはおかしい。心に染み入る声をしているのに。曲も歌詞も浮かんでくるのに。才能だとは思わないのか?」

「はい」

 才能などない。気ままに歌うだけだし、それを残すことさえできないのだ。

「―でも、歌は好きなんだな?」

「はい」

 これにも即答出来る。歌は唯一の心の在り家だから。

「よし、なら来い」

 いきなり彩音の華奢な右手首を掴み、ぐいぐい引っ張って行く。

彩音はなんとか着いて行くので精一杯だ。

「あのっ…どこ行くんですか!痛いんですけどっ」

 堪らず声を張り上げる。

「うん、良い声だ。しっかり響いてる」

「ちょ…ちょっと…」

 悪い人には見えないが周りが見えてないような感じだ。右手がビリビリする。

「ここだ」

(…?)

 森の中にそびえたつ一軒の建物。

「学校…?」

 たくさんの鳥のさえずり。どこからか川のせせらぎも聞こえる。

「俺たちが通う学校だ。お前は…どこに通っているんだ?」

 ふと不思議になったように彩音に訊く。

「私は……どうなんでしょう。最近越して来たので、中学校の場所は知らないんです」

「そうか。まあ良い。音楽室に行こう。仲間が待っている」

「えっ?仲間ってなんですか!」

 ズルズルと引きずられ、校舎に入る。木の良い香りに包まれ、とても雰囲気が良い。

 ガラッ

(よし)!今頃来たのか、遅刻だ」

 戸を開けるなり彩音を引きずってきた男に向かって声が飛んでくる。

「あぁ、今スカウトして来たからな」

「スカウトぉ?…あぁ」

 男―芳に手を掴まれ、固まっている彩音に気付く女の子。

 随分男っぽい喋り方をしているが、目はパッチリと可愛らしく、ベリーショートの髪型がよく似合っている。

「アンタ大丈夫か?怖がらなくて良いよ。芳は人見知りをする優しいヤツだから。めぐにとっちゃぁ、ただのノロマだがな!」

 あっははは、と豪快に笑う“めぐ”。

(めぐる)。あまりペラペラ喋らないで欲しい。折角ボーカルを連れて来たんだから」

 真剣な表情の芳。圍は楽しそうな顔をして、

「そっかぁーお前でも納得出来る人材がやっと見付かったか!そりゃぁ逃がしたくないわな。それにしても、よく連れて来れたもんだよ。えっと……何ていう子なんだ?」

 彩音の方をちらっと見て、芳に名前を聞く圍。

「あぁ…訊いてなかった」

「はぁっ?!」

 すっとんきょうな声をあげ、慌てる圍。

「おっ前〜…、無理矢理連れて来たのか?バカ!悪いな、女の子。名前はなんてーんだ?」

 名前…。そういえばまだ名乗ってなかったし、男の名前も圍という人の発言によって知ったのだと気付く。

「彩音…。高梁彩音です」

 取り敢えず、いつもの笑顔を浮かべておく。

「彩音か。私は圍、キーボード担当。めぐって呼んで。このおっきいのは杉本 芳。ドラムもベースも出来る」

「えっ…あの、私はなんでここに?」

 人に振り回されるなんて初めてだから、少し慌てる。

キーボードにベースやドラムだなんて、まるでバンドのようではないか。

「なんだ芳…。お前、拉致して来たのかよ」

 呆れながら圍が説明し始める。

「めぐと芳はずっとここで育って、曲を作って演奏して来たんだ。

もちろん遊びで。

中学に入った頃、いきなり芳がバンドやりたいって、神妙な面持ちで言って来てさぁ…」

 その時のことを思い出したのか、軽くぷっと吹き出す圍。

「圍…余計なことは言うなよ」

「はん!彩音が可愛いから良いトコ見せたいんだろ。無理無理、この辺で彩音に釣り合うヤツはいないよ。少なくとも見た目ではな」

 ケラケラ笑い、話を続ける圍。彩音はあくまで“笑顔”を続けている。

「どこまで話したっけ。とにかく、そんなこんなでバンドをしようって話になったんだけど、よく考えりゃボーカルがいない。めぐが弾き語りしても良かったんだけど、なんか違うだろ?」

「違うって…別におかしくなんかないけど」

 少々戸惑いながらも、話に加わりだす彩音。

「んー…まぁ、そういうことにしとけ。でな、芳がボーカルを探して、めぐが機材を揃えることになったのさ。マジ頑張ったぜ。後で見せるけど」

「うん…あれは、流石圍としか言えなかった」

 余程、良い機材を揃えたのだろう。芳の瞳が一層力を持ったように見える。

「で、やっとボーカルゲットってわけよ。やってくれる?」

 歌を、皆に聞かせることになるんだ…、と躊躇う彩音。

「機材を見せてもらえる?」

 バンドというものに興味が無いわけではない。設備を見てみたいと思った。

「あぁ、来な。防音は出来ないけど、良いんだなーこれが」

 自慢したい気持ちを隠せないらしく、楽しげに進んで行く圍。その後に彩音、芳、と着いて行く。

 音楽室の隣の小さな部屋に、宝が隠されていた。

新キャラ続々登場です。圍は元気に喋ってくれるので話を動かしやすく、本当にいい子です…。だんだんとお話も動いて来ました。感想やアドバイス等ありましたら宜しくお願いします。ここまで読んでくださり、有り難うございました☆

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