op.29 偽りの防御
朝が来た。
彩音はいつも目覚まし時計がなくとも自然に目覚めることが出来るのだが、今日は時間が来ても布団に潜りこみ目をギュッと固く瞑っている。
圍の目覚まし時計が鳴っても、圍が大きな欠伸をしてベッドから立ち上がっても、それは変わらなかった。見かねた圍がそっと彩音を揺り起こす。
「おはよ、彩音。朝だよ」
応答がない。布団から顔を出さない彩音に痺れを切らし、ひっぺがそうと試みる。
「もー起きろって」
彩音はしっかりと布団を握り締め、圍に抵抗する。なんだ元気に起きてるんじゃないか、と圍は微笑する。
「ほら、早く服着替えて顔洗ってご飯食べる! 遅刻するぞ」
半分笑いながら圍がこう伝えると、彩音は間髪入れずに返事した。
「……やだ」
突然の子どもっぽい発言に圍は目を見張る。やだ? 何が。まるでダダをこねているガキじゃないか。
「もうやだぁ。めぐちゃん一緒に遊ぼーよー」 続けざまにこの発言。何がどうしたと言うのか。慌てて布団を剥がすと、少しふてくされた表情の彩音が圍を見つめていた。
「どうした、彩音」
「どーもしないよーだ。ねぇめぐちゃんめぐちゃん!」
「え、何」
「読んだだけー」
ニコッと笑い布団から起き上がる彩音。まるで意味が分からない。幼児返りと呼べるような奇怪な行動に圍はただ困惑した。
洋服に着替えるときも、ずっとニコニコと笑いながら楽しそうに鼻唄をし、ときに圍を盗み見ては手を振る。その自由気ままさは――どこか澄海を連想させた。