op.28 此れから
圍が柳瀬家に電話をし、今日は彩音を家に泊まらせると伝えた。電話に出た澄海は寂しそうに、彩音ちゃんの力になりたいな、と呟いた。
「ごめんね、圍ちゃん。……圍ちゃんが居てくれて良かった」
お風呂に入って気持ちを落ち着かせた彩音は、床に敷いた布団の上に座り、夏掛けを抱える。
「めぐも力になれて嬉しいよ。いいか、彩音。めぐは絶対彩音の味方だから。弱音も全部吐けばいい」
そう言いながら冷えた烏龍茶を彩音に手渡す。受け取った彩音は思う。友達とは此れ程までに力強いものなのか、と。今まで自分しか信じることが出来ず、又、取り乱すことなどなかった自分が支えてもらっていることが不思議で、何より暖かい。
「明日……どうすればいいのかな」
ぽつりと溢す彩音の言葉に、圍も難しそうに顔をしかめる。
「兎に角、澄海は彩音の芳への想いに気付いていないことは確かだな。そして芳はこの状況を知らない。……普段通り振る舞えるか?」
普段通り。
いつもの自分はどのような行動をとっていただろうと彩音は思い返してみる。
澄海とはあっちが話し掛けてくれることに対して、笑ったり軽く突っ込んだりしていた気がする。芳とは……。
「あれ、圍ちゃん。私は芳君と何を話していたのかな」
普段の彼との関わり、それは音楽を通してのものだけのように感じる。
「言われてみれば、二人きりで居る姿を見たことがないかも」
「だよね……」
思ったよりも彼が遠い存在であることに気付いた彩音は、軽く溜め息をついて、
「大分落ち着いた。寝るね」
とだけ言って、パタリと横になり、すぐに寝息を立て始めた。彩音の唐突な行動に違和感を感じながらも、圍はおやすみと呟き眠りに落ちていった。




