op.27 後悔しかない
まだ彩音が気付いていない、芳に恋する気持ち。それを知れば彼女の動揺はおさまるのだろうか。それともより、混乱するだろうか……。圍はじっと彩音を見つめ、思案する。
「圍ちゃん?」
これ以上彩音を不安にさせるわけにはいかない、そう考えた圍は決心した。
「あのさ――彩音、もしかして芳のこと、好きだったんじゃないか?」
そして今も、とは言わないでおく。
その言葉を聞いた彩音は一瞬言葉が呑み込めなく、ゆっくりと驚きの表情を作った。
「好きって……圍ちゃんは、loveの方を意味して言ってるの?」
「勿論」
「そんなこと……」
そんなこと、ない? 彩音はすぐ否定しようと思ったがそう出来ない。芳の真剣な眼差し、力強い腕、はにかむ笑顔、優しい言葉。そして澄んだ曲――。
芳を思い出そうとすると胸が苦しくなる。早く会いたい、あの瞳に見つめられたいといつも思っていた。
「そんなことなくないよ……。私、好きだ。芳君のこと」
ベッドから滑り落ちぺたりと力無く床に座り込む。
「ちょっ……大丈夫か?」
同じように床に座り、軽く肩を叩く。
「私好きだよ……今も。でも芳君は澄海ちゃんと付き……合ってるよ……」
もっと早く気付いていれば良かった! そしたら澄海ちゃんともフェアに話せたかもしれないのに。彩音はとにかく後悔する。想いに早く気付けたからと言って澄海と同じ人を好きになり、その人は澄海を好きになるという事実は変わらないというのに、それでも悔やんだ。
「彩音、仕方ないよ。もう付き合ってるのが現実なんだからさ。意外とすぐ別れるってこともあるし、深く悩まないで」
懸命に励ましてみるものの、彩音は苦しそうに顔を歪め涙を必死で堪えるだけだった。
『大人っぽい』と表している彩音ですが、それはあくまで外見と冷めた考えのこと。恋愛に関しては普通の女の子よりも子どものようなんです。それ故、なかなか前に進めなかったりしますが暖かく見守ってやってくださると嬉しいです。