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ムジカ  作者: 由樹
23/29

op.23 微かな異変

「あ、澄海ちゃん……」

 駅に降り立った彩音は、ホームに立っている澄海に軽く手を振った。

 いつもなら声を掛けるまでもなく気付き、飛び付いてくるというのに、今はじっと目の前を見据えたまま微動だにしない。

 どうしたものかと首を傾げる彩音だが、きゅっと口角を上げ、

「ただいまっ」

 ぽんっと澄海の肩を叩いた。

「ひぁっ……」

 とても驚いたらしく目を真ん丸に開けて彩音の方を見る。

「はぁ〜……、なんだ、彩音ちゃんかぁ……」

 澄海が溜め息をつく場面なんて始めてだ。

「え、私のお迎えに来てくれたんじゃなかったの?」

「え……」

 軽くうつ向いて、じっと考え

「あぁ、そうだった」

と照れ笑いする。

 おかしすぎる……。

彩音は、この異変に首を突っ込んで良いものかと少し考え、そうすることにした。

「何かありましたか?」

 柔らかいトーンで包み込むように尋ねる。

彩音の透き通る声は、澄海の心にすっと入っていく。

「うん……澄海、バカなことをしたみたいだよ。どうすれば良いと思う?」

 そう訊かれても皆目見当が付かない。

「ん……どんなことをしちゃったの?」

「なんていうか……あぁー、恥ずかしいことをしたみたいだよ。どうするべき?」

 だから、何をしたの。思わず溜め息を付いてしまってから慌てて、

「別に恥ずかしくないから言ってごらん?」

 と微笑みを作る。

「澄海、好きな人がいてね。告白しちゃったの……。でも、恥ずかしくって逃げて来た」

 彩音は意外な言葉に仰天した。

どうせ圍にからかわれたとか、川で滑ったとか、そんなドジな体験だろうと思ったからだ。

「だっ…誰に……?」

 恐る恐る尋ねる。とてつもなく嫌な予感がする――。

「あのね……芳くん、なの」

 チラリと何かを窺うような顔で彩音を見る澄海。

彩音は、一瞬頭が真っ白になって何も考えられなくなる。

 芳くん、芳くん、芳くん……。

「――…んっ、彩音ちゃん? 大丈夫…?」

 心配そうに、そして少し、いぶかしげに彩音に声を掛ける。

「あっ、はい、大丈夫です」

「彩音ちゃんがヘンになったぁー」

 あははといつもの澄海のように笑い、弾んだしゃべり方に戻る。

「あの……芳くんを好きって、いつから?」

 笑顔を作って尋ねる。

「さぁ……いつの間にか好きになってたよっ。恋に落ちる瞬間が分からなくって残念っ」

 いつの間にか……そう、突然その気持ちはやって来る。澄海にも、そして彩音にも。

 その気持ちにどれだけ早く気付けるかという違いだけなのだ。

「ねぇ……彩音ちゃんどうしたの? いきなり黙っちゃって」

「あぁ……うん……」

 そのまま黙々と二人は歩き続ける。

 なんで彩音ちゃんはいきなり元気がなくなっちゃったのかな? やっぱりあの歌詞は、芳くんへの……。

やだやだ、そんなこと考えたくもないよっ。

 そう澄海が思いを廻らす中、彩音も自分のもやもやした気持ちに疑問を抱いている。

……どうしたの、私……。体の力が抜けそう。なんだかすごくショックだよ……。


「澄海!!」

 大きな、男の声が前方からとんでくる。彩音も澄海も、ビクリと体をこわばらせる。

「話がある…ちょっと来て」

 少し息の荒い芳だ。

「芳くん……」

 澄海よりも先に彩音が反応する。

「えっ、あぁ……。おかえり」

 彩音はまた衝撃を受けた。

澄海と横に並んで歩いていたのに、芳は彩音のことなど眼中になかったのだ。

「話?」

 澄海が尋ねる。

「あぁ、来て」

 ぐいと澄海の細い手首を掴み、足早に去っていった。

「あ……っ」

 彩音が芳や圍と関わらないでいた長い間に何かが起こったのだと彩音は感じた。

ライブのことも怒っているのかもしれない。彩音はただ呆然と立ち尽くした。

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