op.22 隣で笑って
「おはようございます。今こっちの駅で、もうすぐ電車が来ます。あっ、いえいえー元気ですよ。のんびり泊まりましたから。そっちに着くのは三時くらいになると思います。――はい、有り難うございます。また」
駅のホームで友季子に電話をする。
携帯電話なんて高いものは持てないからもちろん公衆電話からだ。
少し懐かしい雑踏を背に、彩音は澄んだ空気の方へと帰っていった。
「芳くん、もうすぐ彩音ちゃんが帰ってくるんだよ」
昨日圍と話した大きな切株の上で、放課後仲むつまじく話す澄海と芳。
「そうか」
結構長い期間彩音と話していないが、この歌詞のことを伝えようと芳は思う。とても曲に合う、良い詞だ。
「――嬉しい?」
悪戯っぽく上目使いで微笑む澄海に、
「あぁ」
と微笑み返す。
そっかぁ…、と澄海は呟き一瞬顔に影を落とす。
「どうした」
人の変化に敏感な芳は、心配そうに尋ねる。
「うん――ねぇ、芳くん?」
ゆっくりと、反らした視線を芳に戻し真剣な顔で言う。
「澄海のこと、どう思う?」
「――え?」
「あっ……。やだやだっ、なんでもないっ。どうしたのかな、澄海…。ごめんね、変なこと言っちゃって。――忘れて?」
いきなり顔を真っ赤にして、手を無意味に慌ただしく動かす澄海。
その様子が可愛くて、おかしくて、芳はあははと大きな声で笑った。
「澄海はいい子だ。そう思うよ」
にっこりと目を細め、とびきり優しい顔で笑う。
もうだめだぁ……。
「芳くんっ!」
きゅっと芳の手を握り、
「澄海……澄海、芳くんが大好き。これからもずっと、隣で芳くんの笑顔見ていたいよ」
カタカタと震えながらも笑顔で、想いを伝えた。
とうとう澄海が芳に告白をしました。もうすぐ彩音、合流です。そろそろ完結でしょうか。
読んでくださっている皆様、本当に有り難うございます。力を頂けています。