op.20 杉本 芳
晴れた日だった。
抜けるような青い空にターコイズブルーの透き通った海。
太陽は鋭く、そして暖かく世界を照らしていた。
「まだ父ちゃんと母ちゃん帰って来ないの?オレ早く泳ぎたいよ」
家の縁側に座り、足をばたばたとつまらなそうに動かす。
「よっちゃん、もうそろそろ帰るだろうからいい子に待ってなさい。ほら、そんな悪い顔しないの」
ぶうっと頬を膨らまし口をタコのように尖らせてカネを睨む七歳の芳の頭をぽんと叩く。
「ちぇ。オレ一人だって泳げるよ。めぐと健太はもう遊んでんのにさ」
お前の親はカホゴだな、ってめぐにはからかわれるんだ。
「ばあちゃん、かほごって何?」
何故バカにされるのか知りたくなった芳はカネに尋ねる。
「おや、そんな難しいことを誰に聞いたんだい」
感心したように質問をしかえす。
「めぐだよ。父ちゃんか母ちゃんが見てないと海と川じゃ遊べないって言ったら、笑われた」
あぁ…、と納得したような顔をして頷く。
「めぐちゃんは親戚がいなくて健太君の家に住ませてもらっているからね、親がいるよっちゃんを羨ましいと思うのかもしれないね」
「え?健太とめぐは家族だよ」
きらきらと輝く強い光を持つ芳の目が、真っ直ぐにカネを見つめる。
この子は素直ないい子だとカネは度々思う。
「めぐちゃんの両親は何処かに行ってしまったのさ。そこで村で一番人の良い土屋の洋とやっちゃんが引き取ったんだよ」
芳は眉間に皺を寄せて思案深げな顔をした。
「――父ちゃんと母ちゃんがいないって…寂しいのかな」
そしてぽつりとそう呟き、黙りこんでしまった。
もしオレも父ちゃんと母ちゃんがいなかったら、めぐの気持ち分かるのかな…?
「さぁさ、おやつにしようかねぇ。ドーナツを揚げたんだよ」
「おっ、ばあちゃん特製だな!」
跳び上がるように立ち上がりにこにこ笑う。
「そうだね、ばあちゃんお手製の特製ドーナツさ」
「ややこしいなぁ」
けらけら二人で笑って小さな幸せを味わっていた。
……だが。
その後かかってきた電話がそれを壊した。
ほのぼのと笑っていたカネの顔が一瞬にして凍りついた。
何か大変なことが起こったことは子どもながらに分かった――というより、子どもだからこそ分かったのかもしれない。
すぐさま病院に向かった。急激に大きな不安がのしかかってくる。
偉そうな先生が悔しそうに唇を噛んでいたこと以外、何も思い出せない。
世界が一瞬にして白黒になった。
光なんてない…蝉の鳴き声も川のせせらぎも消えていった。
“もしオレも父ちゃんと母ちゃんがいなかったら、めぐの気持ち分かるのかな…?”
――俺のせいだ。