op.15
彩音ちゃんがおかしいよ…。圍ちゃんと口きかないなんてすっごく変!圍ちゃんも変!
流石の澄海も、何週間もお互いの存在に気付かない振りをし続ける彩音と圍に違和感を感じていた。
澄海は一人で考え込むタイプではなく、疑問はすぐに質問をして解決していく。
だが今回は重苦しい雰囲気を身に纏っている彩音に訊くわけにはいかないし、圍は澄海を見ると冷たい眼差しを送ってくる。
だがこれ以上自分で推理しても何もわからないであろうと考えた澄海は、二人の共通点でもある芳に話を訊くことに決めた。
「芳君っ、ちょっと来てっ」
夕焼け空を見上げながら一人で下校する芳を見掛けた澄海は、慌てて駆け寄った。
「うわ!」
いつもの芳とは思えない、大声。
澄海は突然のことできょとんとする。
「わ…悪い、つい」
バツが悪そうに言い訳をする芳を見て、澄海はなんだか楽しくなってきた。
「ううん、澄海こそ驚かしてごめんね」
二人は森を右手に見ながら通学路をゆっくりと歩いて行く。
「――で、話…?」
先程の芳のように、真っ赤な空を見上げて楽しそうにしている澄海に、話を促す。
「あっ!そうなの…澄海、ずっと気になってることあって。ずっとって言っても一週間くらいだけどね」
話を思い出した澄海は、真剣に芳の目を見つめる。
「最近彩音ちゃんと圍ちゃんの様子が、不自然な気がするの。芳君は、何か知ってる? 教えてもらえないかな…」
一瞬どう伝えれば良いか躊躇った芳だが、ありのままを話すことにした。澄海なら信頼出来ると思っているのだ。
「学校でやるライブ知ってるか?」
「うんっ、楽しみにしてるよ」
満開の花のような明るい笑顔に、芳の鼓動が高まる。
「それが――中止になるかもしれない」
気まずそうに話す芳を見て澄海は困惑する。
「どうして…?」
笑顔は萎み、今は少し泣きそうな顔をしている。
「彩音の模試がかぶったらしい」
「……もし?」
一瞬わけが解らないといったとぼけた表情をした澄海だが、はっと何かを思い出したように真面目な顔になった。
「そっか、あの都心でやる模試のことだよね、きっと。分かった…芳君ありがと」
哀しそうに笑ってぱたぱたと走って行った。
途中で澄海はくるりと振り向いて、
「もし彩音ちゃんが出れなくたって二人で出来るよっ!」
と明るい声を残していった。
「受験で何かあるのか…」
澄海の感じから深い理由があるであろうことを察した芳だが、それ以上は何も分からなかった。