op.11 大切なもの
「彩音、聞いて驚け!二ヶ月後に学校でライブすんぞ!」
はしゃぐ圍が、彩音が音楽室に入るなり伝える。
「二ヶ月後…?」
何かなかったかな、二ヶ月後って。
ふと考える彩音だが、初めてライブをすることが出来るのだと喜んだ。
「校長が許可してくれた」
芳も今までにない程にこにこ笑い、ギターのチューニングをしている。
「へぇ…校長先生がねぇ…」
ここの校長は、堅物のような風貌をしているが、実は音楽が好きなのだそうだ。
クラシック、ジャズ、ボサノバ、ラテン、ヒップホップ――ジャンルにこだわらず気に入ったものならなんでも聞くらしい。
「客は物珍しさに入るだろうしさ、曲は三曲程度やれるって。今一曲決まってるし、他にも芳が良い曲書いてくれてる」
ふと真剣な表情になった圍が、
「で、彩音?歌詞はどうなってる?」
正直言って、まだ一つしか出来ていない。
「いつも練習してる歌は…もう決定で良いんじゃないかな…?」
恐る恐る伝える。
「真夏の夢の中 眠れる君を見た
心 ふんわりと飛んで シャボン玉のように消えた
少し切ないね と呟く君の横顔を見て
余計 胸がきゅんと締め付けられるようにうめいた
今から逢いに行くよ
例え果てなき扉の向こうでも
後ろ振り向かずに ただ進めば良いから
出会ってから ずっと 言いたいことがある
何度も遠回りして 結局口 つぐむけれど
伝えれば きっと 思いも通じるかな
臆病な自分を 壊す何かになるかな
今だからこそ
これから逢いに行くよ
例え深い沼の中でも
希望失わずに ただ向かえば良いから
…だよな?」
譜面を見ながら確認する圍。
「うん、もう覚えたし…」
自信なさげな彩音を見て、芳が、
「彩音、あまり悩まなくて良い。俺の主旋律だけのデモテープ聴いてイメージで書けば良いから。もし浮かばなければ皆で考えよう」
思わぬ芳の優しい言葉に彩音は泣きそうになる。
「有り難う…」
ぐっと堪えて笑顔になる彩音。
「あぁっ!」
突然圍が大声を出し、彩音の顔を覗き込む。
「えっ…?」
訳が分からず硬直する彩音に向かって、
「良かったじゃん」
と、にかっと笑いながら頭を軽く叩く。
「なっ、何……」
“何が?”と言おうとした彩音だが、ふと気付く。
(私今、笑った…?)
「何気心配してたんだぜ、めぐも芳も」
完璧な笑顔である筈の偽りの笑顔を芳と圍はすぐに見抜いていた。とても痛々しく見えていた。だが、心を開こうとする姿勢が伝わって来ていたから何も言わなかったのだ。
「やっぱり、笑った方が可愛い」
ぽそりと呟く芳の声を聞いて、また笑う。皆で笑う。
彩音は幸せだった。自分のことをしっかりと分かってくれている友達に出会えたことが、何よりも嬉しかった。望んでいた笑顔も手に入れることが出来た…。
歌と笑顔と友達。
それが今の彩音の、一番大切なもの。
やっと笑顔になりました。本当はもっと感動的というか、盛り上げようかと思っていたのですが、実際は笑うときって一瞬なので敢えてあっさりさせてみました。
「一番大切なもの」が三つもありますけど…その気持ちは皆様わかっていただけるのではないでしょうか。
ここまで読んでくださった方、有り難う御座いました。感想やアドバイスなど、もしよろしければ送ってください。