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血霧と狂狼  作者: やまく
9/32

09 河

「で、そいつは人間なのか?」

 シュダを眺め、マルハレータは尋ねた。はじめは無視しようと決めていたが、あまりに彼らが平然としているために逆に気になってきたのだ。

 シュダはだいぶ風変わりな外見をしていた。暗い貨物車両の中では目立たなかったが、肩を越えるほどの波打つ髪は白地に光の角度で様々な色に変わるようだった。間近では確認していないがどうやら瞳も髪と同じも色合い。そして肌は髪の色に近い桃色がかった乳白色。だが色白といえるマルハレータでさえ肌には僅かな色の濃淡があるのに、シュダにはそれがなくひどく均一な色合いだった。


「シュダは私が住んでいた所にいたんです」

 尋ねられた問いには答えず、シュダの髪をなでながらベリャーエフは言う。シュダの方はベリャーエフの上着のすそを掴み、不安そうにしている。

「ずっとひとりきりだというので可哀想に思い、一緒に外へ出て、以来ずっと一緒にいるんです」

 マルハレータはベリャーエフを眺めた。

 シュダとは違いベリャーエフは街に住むごく一般的な男といった風貌で、皺の刻まれた顔は穏やかだ。茶色の瞳と同色の頭髪には白髪が目立つ。体つきも特に筋肉がついている様子もなく、どちらかといえば細身だった。

 シュダの外見が少女を越えようやく女になろうとしているたあたりに見えるため、二人が並ぶと老人と孫娘といったほうが違和感がない。この時代の風習でそういった年齢差のある婚姻が好まれているのかもしれないと気にしていなかったが……

「シュダは私と出会った頃からこの姿です。理由はわかりませんが老いる様子がないんです」

「追われているのはそれが原因か?」

「ええ。この国の王はもうだいぶ歳ですから」

 どこか疲れた様子で老いた男は答えた。

「不老技術が目的か。ありがちな話だな」

 マルハレータは目をすがめた。この奇妙な夫婦は単なる逃亡者ではなく、しかも追っ手の背後には国家がいる。騒動に巻き込まれるのは問題ないが、そこに国が絡むのはあまり歓迎しない。

「お前らはこの先の行くあてはあるのか?」

 尋ねられ、ベリャーエフは懐から地図を取り出した。

「山あいの知り合いの村へ身を寄せようとしていました」

 示された場所をローミングパッドからの情報と照らしあわせて見ると、ちょうどこのまま線路上をすすめば近くまで行けそうだった。



 日がすっかり昇り、そして陰りを見せ始めた頃に追手が現れた。

「わりと早かったな。竜の飛行速度はかなり速いらしい」

 四頭の竜と、それに乗った人間。他の存在はみあたらない。追手は追いつくだけでも精一杯らしく、機関車との距離はなかなか縮まらない。

 マルハレータは片手を広げ周囲の空気を圧縮し、追っ手へ向けて放る。鋭い刃となった空気が竜の翼をたやすく切り裂くと、騎乗者もろとも地面へと落下していく。二回それを繰り返すだけで、追っ手はすべて視界からいなくなってしまった。このまま線路の上を走り続けるとまた同じような事を繰り返すのだろう。マルハレータは思わず唇をゆがめた。

「つまらんな」



「この停止装置は壊れてるぜ」

 今までかがみこんで機関部の様子を見ていたローデヴェイクが立ち上がり、口を開いた。

「そうか」

「こいつら抱えて飛び降りるか?」

 ローデヴェイクが目の前の元上司に尋ねれば、彼女は目で彼の背中の荷物を差した。

「“それ”があるだろう。こういうのはとことん走らせりゃいいんだ」

 そう言うとマルハレータは片手を上げ、指を広げた。

 駆動機関の出力はさらにあがり、車体から悲鳴のような音があがる。機関車は速度を落とすこと無く荒地に敷かれた線路をまっすぐに走り続ける。


 遠くに見えていた山々はだいぶ近くなり、広大な渓谷に差し掛かる。機関車が金属と木材で出来た吊り橋の中程に到達した時、突如機関車は閃光を放ち橋もろとも爆発した。そして煙が晴れると橋はすっかり落ち、全ては谷底の河に消えていた。

 



「ちゃんと“喰え”たか?」

「ああ。あんたの術も一緒に喰わせたから、そこそこの力になったらしい」

 三分の一ほど色が変わった『それ』を眺めると、ローデヴェイクはそれをまたケースの中へしまった。


「本当に見事な術だ」

 ベリャーエフは感嘆の声と共に周囲を見渡す。シュダは状況に怯えるように彼にしがみついている。

 あたりは水だった。水中特有の淡い光に包まれ、魚の影も見える。だが彼らのいる空間には空気があり楽に呼吸が出来た、岩だらけの地面もある。

 ローデヴェイクが背中のケースから出したものを動力部に突き刺すと機関車が発光し、同時にマルハレータが橋を破壊。落下中に4人まとめて空気の球で包み込むと、そのまま河底へ水没した。


「本当に貴方がたは何者なんですか?」

「遠い遠いところから来た旅行者だ。ソレ以外の何者でもない」

 そう言うとマルハレータは暗い銀灰色の瞳でベリャーエフ夫妻を見る。

「おれ達は一応用事も目的もあるが、急ぎではない。このまま村まで同行してもいいか?」

「ええ、それはかまいませんが」

 ベリャーエフが頷くと、マルハレータは上を見上げた。

「さっきのを追っ手が見ていたとしても探すのは河下だろう。この河の上流へ向かえばお前らの進行方向だ」

 そう言うとマルハレータは水の膜にローミングパッドの地図を写し出す。その光景にまた驚愕しつつもベリャーエフは地図を見て、川沿いのある地点を指差した。

「このあたりから村へ行けそうです」

「わかった」


シュダの髪の色はホワイトオパールみたいな感じです。

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