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血霧と狂狼  作者: やまく
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06 列車

 音ともに男は水面から浮かび上がり、マルハレータの足元に倒れた。指先を軽く振り、男の額にあてると相手の顔が痙攣する。

「おれの質問に答えろ。女をどこに連れていった?」

 数回の質問を繰り返し、ようやく理解できる回答を得たマルハレータは、立ち上がるとローデヴェイクを振り返り、言った。

「おい、オマエの好きそうなオモチャがあるらしいぞ」



 ローデヴェイクは足元から夜闇の中に続いている二本の金属の道を見つめた。

「この時代に鉄道があるのか」

「らしいな。ここはその終着点らしいが」

 最終便が出発したばかりらしく、遥か彼方を走り去る僅かな光が見える。小さな小屋のような駅にはすでに人はおらず、「本日は終了」と書かれた板が下げられていた。

「攫われた女、これで輸送されたらしい。お前、目的地はわかるか?」

「お、おそらく首都です…この線路は国家鉄道につながっていますので」

 老いた男の返事をきき、マルハレータは途切れた線路の先にある大きな建物に向かって歩いて行く。扉の取っ手にかけられた鎖をねじ切ると、横からローデヴェイクが片手で扉を開ける。

 中に入り、法術でランプに明かりをつけると、ほとんど塗装の剥げた古びた車両が現れた。赤い色に黄色いパーツ。マルハレータが見る分には古びてはいるが車輪は動きそうだった。腰に手を当て、無言で隣の銀髪の男を見上げる。見上げられた方は興味深そうにじっくりと目の前の物体を観察している。

「…こんなのがあるのか」

「どうだ?」

「使えそうだ。いちおう必要なもんは揃ってそうだな…」

 ローデヴェイクはつぶやくように言いながら車両に歩み寄り、錆だらけの金属製のはしごに足をかけ、軽い動きで機関部らしき狭い空間に入る。

「動きそうか?」

「仕組みはだいたいわかるが…動力はなんだ?」

 ひととおり確認してみるとローデヴェイクが知る駆動機関と構造は似ていたが、動力源が不明だった。動力炉らしき場所はぽっかりと穴が開いているだけだ。

「あれなんじゃねえの」

 マルハレータが壁際に並ぶ金属製の棚を指さす。頑丈そうな棚板の上にはそれぞれがひとかかえ程もある透明な球体が並んでいた。

 棚脇の脇には同じ球体が水槽に浸かっており、どろりとした液体の中でゆっくりと回転している。マルハレータはそれにグローブのはまった手をかざして周囲に張り巡らされた結界の種類と力の成分を確認すると、水槽を蹴り壊し、中の球体を法術で空中に持ち上げた。

「これをエンジン部に取り付けるらしい」

 ローデヴェイクはそれを受け取ると駆動機関の中央部に空いた穴にはめこむ。続けて動かす為の起動装置を探していると、マルハレータが隣にやってきた。

「こいつもどうせ法術で動くんだろ」

 そして球体を穴のさらに奥へ蹴り込んだ。

 マルハレータの蹴りで車両に衝撃が走り、玉は穴の中で淡くオレンジ色に光り始めた。低い振動音が響きわたり、それが機関車全体にも伝わると、巨大な車輪がゆっくりと前へ進み出した。

「お、動いたな」

「これで追うか」

 そう言うとマルハレータは左手をひろげ、法術で地面に転がっていた線路のパーツをつなぎあわせ、機関車を目的の線路へ乗り入れるための道を作る。


「あの、もしやあの子を助けてくれるんですか」

 いきなり現れた二人組に連れられるがままだった老いた男は、ようやく思考が追いついてきたらしく、線路をつなげる作業をするマルハレータに質問した。

「嫌ならこのまま去るが」

 男の背後でローデヴェイクが腕組みしながら言う。

「い、いえ、お、お願いします! 助けてください」

「お前らにさほど興味はない。最近運動不足だったんでな。単に目の前にきっかけがあったんで乗ってみただけだ」

 マルハレータはそう言うと、目を細めて両手を握り、指の動きを確認するかのようにゆっくりと開き、また握った。



「仕組みは理解したろ、管理は任せた」

 目的の線路に乗って機関車が順調に走り出すと、マルハレータはローデヴェイクに後を任せ、車両後部にあったはしごを使って屋根の上に出る。細い二本の足で立ちあがると、両手をポケットに入れ、向かい風にシャツの襟と前髪をはためかせながら遥か前方の地平線を見つめた。

「おれの時は兵器や殺し合いの道具としてか使わなかった技術だが…色んな事に使うようになったんだな」

 線路の続く先ではすでに夜明けが始まっており、目に入ってくる朝日の眩しさにマルハレータは顔をしかめた。

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