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血霧と狂狼  作者: やまく
31/32

31 砦2

久々の更新です。

 

 

 

 かなりの強行軍で一行は進み続け、最後の森を抜けた時は歓声があがる程だったが、すぐさま悲痛な声に変わった。

「どうした」

 歩けなくなり倒れた者を担いで最後尾を歩いていたローデヴェイクが先頭のイェルマークに声をかけるが、返事はない。

 ローデヴェイクは早足で先頭に出ると、見えたのは煙をあげる砦の姿だった。

「襲撃も読まれていたんだ。こっちの場所も情報が漏れて当然だったな……」

 そう力なく吐き出すイェルマークの前に、ローデヴェイクが担いでいた人間を下ろす。

「おい、約束の情報をよこせ」

「ああ……そうだったな。すまない、報酬は渡せない」

「何故だ」

「地図はあそこだ」

 視線の先は砦だった。ローデヴェイクの腕がイェルマークへと動きかけるが一呼吸置き、一行を見渡す。

「先に向かう。お前らは後から来い」

 そう言ってフツヌシを持ち直すと砦に向かって走り出した。



《マスターは相変わらず無茶が好きだな》

「ごちゃごちゃ考えるよりぶん殴りに行ったほうが早いだろうが」

 ローデヴェイクは呆れたような物言いをするフツヌシにそう返す。砦の門は崩れた城壁に埋もれていたのでいくつか岩石をフツヌシで殴り飛ばし、瓦礫を乗り越え中に侵入する。

 そこには見覚えのある箱と、人間の身体の破片が共に散らばっていた。

「……これは襲撃側か」

 いくつかの破片に列車襲撃の際に見かけた赤い生地が見えたのでローデヴェイクはそう判断し、さらに箱の中身を確認すると、マルハレータが顔色を変えた品がいくつか入っていた。

 それぞれが粗織りの布で包まれており、一つ取り出して引き裂いてみるとあきらかに生物の一部であった物体と、金属と石を組み合わせたものだった。

「これが何かわかるか、フツヌシ」

《自爆兵器だが細部の機構は不明だ。それとその生体部分からはまだ生命反応がある》

「なるほどな、あいつがキレる訳だ」

 ローデヴェイクは納得すると興味を失い、ソレを放り捨て砦の奥へ歩いていく。


 砦の内部に戦闘の跡は少なく、人の気配もなかった。焼け落ちていない建物を探していたローデヴェイクは倉庫が無事であるのを発見した。

 扉は内側から固く閉じられていたので、内部の配置を思い出しながら石積みの壁の一箇所にフツヌシを突き刺し、その周囲を殴り壊して穴を作ると薄暗い中へ侵入する。

「やめろ。外はもう誰もいない」

 ローデヴェイクが立ち止まり声をかけた先には人影がおり、緊張した様子で例の布袋の兵器を頭上に掲げていた。


「あ……あんたは」

 声に気づいて手を下ろし、前に出てきたのはフツヌシの部品探しを手伝ってくれた老人だった。

「ここはあんただけか?」

「そ、そうだ。わしだけここに残った。……また部品か? もうここにはゴミしか無いぞ」

 確かに倉庫内にあれほどあった部品の山は消え去り、あるのは空の棚と老人の周囲に数箱あるだけだった。

「他の奴らは逃げたのか?」

「抜け道からな。皆決めておった地点へ集合しとるだろう」

 どうやら砦の者達は襲撃を察知していち早く脱出していたらしい。

「わしは襲撃には興味がないから残った。あんたはどうやってきた。門は塞いだと聞いとるが」

「これでふっ飛ばした」

 そう言って担いでいたフツヌシを床に突き刺す。

「その機甲器はそんなことが出来るのか!」

「いや……単に頑丈だからちょうどいいだけだ」

 説明してローデヴェイクはなんだか後ろめたい気持ちになってきた。これは本来振り回すような物体ではない。

《マスターの役に立てるなら当機は気にしていない。打撃武器としても存分に活躍してみせよう》

「今の声はなんだ!」

「気にすんな。おい爺さん、ここに地図があるだろ。俺様にはそいつが必要だ」

 イェルマークの言葉が嘘だった場合でもローデヴェイクの次の行動は手当り次第赤麗国軍を襲撃することなので、やはり地図は必要だった。



 老人は地図の場所を知らないが、あるにはあると言うので、ローデヴェイクはイェルマーク達が到着するまで残った城壁を破壊することにした。憂さ晴らしになる上に、風の道を作れば気脈が増えて多少は影霊の身体の回復にもなるだろう。


 フツヌシを振り回し轟音を響き渡らせながら城壁を突き崩し、岩を砕く。動いていれば、何かを破壊していれば少しは気が紛れる。

 国からの連絡は静かなままで、それはマルハレータに動きがないという事なのだろう。ならばこちらから勝手に追いかけてやる。追いかけて、あの変わらない寒々しさを持つ瞳に己を映させてやるのだ。

 途中で岩肌に照明の配線を見つけるとそのまま壁を崩しながら辿っていく。砦の敷地の片隅に金属の箱が埋められているのを発見し、掘り返して引っ張りあげると取っ手を掴んで蓋を力づくで外す。中身は黄色いゲル状の何かと金属と石で埋まっていた。


「……フツヌシ」

《当機には名称がわからない。生物ではないようだが》

 ローデヴェイクはマルハレータがこれに似た物体を不愉快そうに法術で刻んでいたのを思い出す。

「あー、じゃあ精霊か。前からちょろっといただろ、星の維持だか環境の何かの。アレが変質したモンだろ」

《アレか》

「そうだソレだ。だが何のためだ? 発電機にしてはでかいな」

 箱をひっくり返すか破壊しようかと考えているところでイェルマークが歩いてくるのが視界に入る。いつの間にか砦に到着していたらしい。


「なぜ城壁を破壊するんだ」

 怪我の手当をしたらしく頭や首に包帯を巻いたイェルマークは、疲労はあるが目に生気が戻りつつあった。

「ここはもう必要ないだろ。地図をよこせ」

 ローデヴェイクは今度こそ殺気を抱きながら言った。

「わかった。約束通り報酬を払おう」

 イェルマークは自らの腕輪に触れ、何かの操作を始めた。

 すると箱の中のゲル状の物体が動き出し奥から小箱が出てくる。箱の中には金属の板と正方形の物体、そして数枚の紙が入っており、イェルマークはその中から紙を取り出す。

「地図はこれだ。説明するので一緒に来てくれ」

 そう言って小箱と板を抱えたまま歩き出した。

「こっちは良いのか?」

 ゲル状の物体が残ったままの金属の箱をローデヴェイクが示すとイェルマークはちらりとそれを見る。

「それはもしもの際にこの砦を爆破する為のものだが、ここまで崩壊していればもう必要ないだろう」



 生き残り一行は倉庫に集まっていた。彼らはローデヴェイク達を気にしつつも、各自傷の手当をするか、老人が運んできた食料で腹を満たすのに集中している。

 イェルマークは作業机の上に紙を置くとローデヴェイクを真っ直ぐに見た。

「俺はあんたに感謝している。生き残った者を皆連れ帰る事ができた。だから情報を提供しよう」

「もう秘密主義はいいのか」

「仕事は失敗に終わったからな。もう利用されるのをやめることにした。これから生き延びる為にもあんたを利用させてもらう」 

 頭の入れ墨をなで、男は初めて笑った。

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