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血霧と狂狼  作者: やまく
24/32

24 列車強盗

 

 

 

 旅は順調に進んだ。

 盗賊に遭遇したりもしたが即座に撃退したため被害にあうことはなく、精霊に襲われることもなかった。 崖際を往く際に落石があって道を塞がれたが、マルハレータの法術やローデヴェイクの馬鹿力もあって障害物は即座に取り払われ、足が止まることはなかった。

 旅の間、外套で隠してはいるがマルハレータが女性だと気付く人間はおり、休憩のたびに視線を感じることはあった。だが常にローデヴェイクが傍におり、夜にはめいめいが天幕を張って寝床をしつらえる中、マルハレータ達は夜の歩哨を担当するか、木の上で眠っていたおかげで特に騒動は起きなかった。

 マルハレータは始終不機嫌ではあったが。


 そして予定通りの日程で目的地に到着した。

「ここまで順調にすすんだのは正直予想外だった。感謝する」

 イェルマークはそう軽く礼を言うと、マルハレータ達に残りの賃金を支払った。

「あんた達の最終目的地はどこなんだ」

 受け取った貨幣を財布代わりの小袋にしまい込みながらマルハレータが尋ねる。

 現在地は丘の上。周囲に人の集落はなく、木立と草原がひろがる何もない場所だった。空は大きく広がり、見晴らしがよく風には草のと花と土の香りがふんだんに含まれている。ここにあの厳重な荷物を運んできて、一体どうするのか

「俺達の目的はあそこだ」

 イェルマークが丘の上から指さしたのは青々とした平原を走る線だった。二本の金属線が平行に地面を走る。見覚えのあるもので、しかも遠方からは車両がこちらに向かってきている。

「おい、まさか……」

「護衛の礼として忠告だ。お前達はさっさとここから去れ」

 そう言うとイェルマーク達はマルハレータとローデヴェイクに構うこと無く素早く武装の準備と荷物の解体を始めた。


 マルハレータはローデヴェイクと視線を合わせる。

(「どうする?」)

(「ここにいるのは不味そうだ。離れた場所で見物でもするか」)

 目線だけでそうやりとりをし、この場を離れようとしたところで一人の男が大声を上げ走りだす。


「おい、待ち伏せだ! 敵襲だ!!」

 その言葉が響き渡った瞬間、木立の向こうから大勢の男たちの掛け声と、重い足音が響き渡った。

「ちっ、遅かったか。落ち着いて荷解きを急げ! やることは一緒だ。計画通りいくぞ!」

 襲撃に焦ること無くイェルマークはそう叫ぶと仲間を叱咤しながら迎撃の準備を指揮し、いくつかの班を目的の場所へと向かわせる。

 男たちはイェルマークの声に従い荷車の箱を開け、中から取り出した何かを持って駆けていく。

「破壊するだけ破壊して、貨物を奪え!」


「おいおい鉄道強盗かよ」

「しかも待ち構えてやがるってことは初犯じゃないな」

 マルハレータ達も否応がなしに敵襲に巻き込まれた。が、向かってくる相手は剣と槍、それに弓矢を使っており、使ってくる法術での攻撃も(マルハレータ達にとっては)弱いため、ぶちのめしながら会話するだけの余裕がある。

「お前はどう見る?」

「服装も武器も共通している上に統率もとれている。どう見たって軍隊だろう。おそらくこの国のな」

 切りかかってくる相手を素手でいなしつつ、ローデヴェイクが全体を鋭く見渡す。

「イェルマーク達の目的がかわからない。テロなら待ち伏せされた時点で失敗だ。それでも作戦を遂行しようとするのは、先の目的が見えん」

「自滅覚悟かもしれんぞ。荷物の方をどうするのかはしらんが」

 マルハレータがちょうど背後にあった荷車に視線を送る。厳重に梱包されていた貨物の箱は開かれたままになっており、中が見える状態で放置されている。イェルマーク達が慌てて準備したたせいか、中の荷物はまだ残っていた。

 マルハレータは箱を荷車から蹴り落とし、中身をぶちまける。

「おい、こいつは……!」

 足元に広がったソレをみてマルハレータの顔色が変わる。

「本当に何してんだこいつらは」


「残りは構うな、行ける者は先へ進め!」

 イェルマークは慌てる仲間たちに指示をだしながらなんとか防戦している。

「おい」

 なんだ、と振り返れば不機嫌そうなマルハレータがいた。

「教えろ。お前らのこの行動の目的はなんだ」

 そう言って貨物の中にあったソレを掴み、突き出す。

「ソレは俺たちの商品だ」

 そう言ってイェルマークは部下に守られつつ答える。戦闘中で会話できる余裕などほとんどないのだが、マルハレータを目にして無視するのは危険だと彼の直感が告げていた。

「ソレを使って派手に動くのが商品の売り込みに繋がる」

 マルハレータは目を細める。

「ふぅん。それが今回は列車強盗ってことか」

「そうだ」

「よくわかった」

 マルハレータはそう言うと、突然高速で踏み込みイェルマークの首に手刀を叩きこむ。加減はしたのでイェルマークの首は折れずただ気絶して倒れた。

「情報の礼だ」

「お、おい、何をするんだ!」

 倒れたイェルマークを囲むように部下たちが立ちふさがり、状況が飲み込めないままにマルハレータに武器を向ける。

「そいつを連れて逃げるか、あいつらに捕まるかしてろ」

 持っていたソレをイェルマークの上に放り投げ、マルハレータは別の方向を向く。

 その口元には小さく笑みが浮かんでいた。


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