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血霧と狂狼  作者: やまく
18/32

18 砦

 三日ほど歩いてたどり着いた場所は山あいの集落だった。

 石の城壁に囲まれている面積は広く、集会所らしき大きな棟を中心として似た形状の木造の平屋が並び、離れた場所に厩舎や倉庫らしきものが建っている。一目見て集落全体が計画的に作られているのがわかる。

「砦だな」


「荷物がすべて無事なのはあんた達だけだったよ」

 門を通る際にそう告げられ、案内されるまま門のすぐ傍の広場に荷車を運びこむと、他にも500人ほど似たような人間と荷車が集まっていた。

 どうやら荷物を運んできたのはマルハレータ達が手伝った村だけではないらしい。

 広場の片隅には草で編んだマットの上に怪我人が並んで寝かせられており、さらにその隣には野ざらしの地面に死んだ人間が並べられていた。

「やはりどこも襲われましたか」

「緑閑国付近から来た奴らがうっかり森ワニの巣に遭遇してな。あんたらもだいぶやられたようだな」

「いえ、これは出発前の怪我でして……」

 案内係がボフダンの言葉に首を傾げつつ、人数や怪我人の有無と状態を聞き紙に書き留めている。また別の男は荷車の木箱を開け、中の状態を一つ一つ調べている。


「こりゃ品を運んで市場を開くってわけでもなさそうだな。明確な目的があってブツと、人間を集めている」

「だろうな」

 マルハレータのつぶやきにローデヴェイクが同意する。

「荷物運びの連中は組織だってはいないが、あそこで指示を出している奴らはどこかに所属している」

 仲間内での独特の意思疎通の雰囲気があると、ローデヴェイクは言った。集まって案内係達の報告を聞いている数人を観察していると、そのうちの一人がボフダンに声をかけ、二人してこちらに歩いてきた。

「村の倉庫の中を探っていたのはお前らか?」


「まあな」

 マルハレータが返事をした。

「見たものが何なのか理解できるそうだな?」

「ああ、使い方も知っている」

 これは移動中にボフダンに会話をふっかけ、あえて教えた情報だ。

「知りたきゃ教えてやる」


 詳しい話は集会所のような場所で行なわれることになった。ボフダンはおらず、ローデヴェイクが指摘した組織だって動いている数人と、あとは見知らぬ人間が二人ほどおり、マルハレータ達を遠巻きに囲んで木の椅子に座っている。

「改めて、この集落を取り仕切っているイェルマークだ。まず尋ねるが、お前たちの目的は何だ」

 警戒する雰囲気の中、ひとりだけ立っったままの背の高い男が発言する。つるりとした頭に火を噴く竜の赤い刺青が入っており、両目は赤茶色。首は太く、むき出しの両腕も充分に鍛えられており、あきらかに農民ではない体つきだ。

「ここは集落じゃないだろ。赤麗国軍か何かの駐屯所か?」

「赤麗国ではないが、お前たちが知る必要はない」

 イェルマークはきっぱりと言った。

「情報を提供すればボフダンの村での騒動は不問にし、無事に帰してやる」

 提示された胡散臭い条件と相手の不遜な態度に、マルハレータは一瞬全てが面倒くさく感じられ、今この周辺全てをなぎ払い、跡形もなく吹き飛ばしたい気分になった。だがローデヴェイクに暴れるなと言った手前気を取り直し、マントを脱いだ。

 深夜の室内はオイルランプらしきものが灯されており、暖かみのある光が銀髪と、灰色の瞳を彩る。

 マルハレータの視界の端でローデヴェイクも銀髪を晒したのが見えた。

 奇異な姿の二人を見て全員が息を飲む。そして、マルハレータに集まる男たちの視線。彼女は動じないがローデヴェイクから不満気な気配が漂い始める。


「おれは『霧』、うしろのは『狼』と呼べ。一般人という身分だ。こう見えて人間だが、詳しい説明はしない」

 マルハレータが話し始める。ローデヴェイクは彼女の左斜め後ろに立ち沈黙を貫いている。

「おれ達はあの村の倉庫の地下に用があった。真上に建っているこの建物をどうにかできないかと思って調べていたら穴を開けちまったんだ」

「地下にあるものが目的だと? あれどうするつもりだったんだ?」

「単にゴミの処理だ。あれはいわゆる廃棄物だ。おれ達が処理しなければおそらく当分無くなることのない種類のな。まあもし何かに再利用しようってのなら好きにすればいい」

 そう言いつつマルハレータは周囲のものを眺める。集会所には荷車に載せていた木箱も運び込まれており、その上には中身が並べられている。ランプの明かりしか無い薄暗い空間だが、法術で少し意識すれば夜の闇でも十分な視力を保つことが出来るため、見慣れた形がよく見えた。


 マルハレータの言葉に周囲がざわめく。

「あの、あなたはここにあるものが何なのか分かるんですか」

 見知らぬ人間の一人、赤茶色の髪の線の細い男が声をあげる。動揺しているのか、語尾が震えている。

「ああ。使い方も、本来の目的もな。だがわざわざ地下から掘り出し、ここまで運んで、それから何に使うつもりかは知らない。そういや……」

 そこまで言うとマルハレータは首を傾げた。さらりと銀の髪が額を流れ、ランプの光りに照らされうっすらと光沢の一部が金色に輝く。

「お前らこそ、こういったものの存在は知っていたのか?」

「ここにある発掘品は大陸各地の山奥や砂漠地帯で見つかるが、頑丈な金属の箱や筒は開けられない物が多く、ほとんどは解明できていない。古い文献に“機甲術”と書かれているらしいが、文献自体が希少で本当に機甲術と同じものなのかどうかはわからん。出世に興味のない学者しか研究しないからな」

 イェルマークが言った。

「ただ、相当古い時代に作られた謎の物ということだけがわかっている。世間一般ではな」

 暗に正体を尋ねられ、マルハレータは一瞬目を閉じ、それから答える。

「おれ達の元いた国ではよく使われているものだ」

 正確には元いた時代だが。


「『これ』の使い方をおれは一つしか知らないが、お前達は何に使うつもりだ?」

【森ワニ】

トカゲが竜脈の影響で変質した上に繁殖した種族。見た目はワニ。森に住むワニ。一歳くらいの個体で体長3メートル。あとは生きるだけ大きくなる。

森の中で集団で生息している。木の根を埋め尽くすかのように十匹単位でのんびりしている事が多い。

冷血動物なのでじっとしていることが多いが、怒りやすいのでうっかり足元を見ていなかった人間が群れの中に入っちゃって、しっぽでも踏みつけてしまうと、足の一本は確実に持っていかれる。


竜脈については「くろやみ国の女王」をどうぞ

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