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血霧と狂狼  作者: やまく
13/32

13 村 2

 いきなり暴れだしたローデヴェイクを取り押さえようとして、村人達は一斉に襲いかかってきた。仲間であるマルハレータも危険視されたようで襲いかかってくるので、それをいなしつつ、地面から拳大の石を拾うと、銀髪頭へ向かって投げつける。

 それは見事に、まっすぐに、ローデヴェイクの後頭部に激突し、石は砕け散った。

「何すんだ」

 特に痛がる様子なくローデヴェイクは振り返りながら睨んでくる。

「勝手に暴れやがって。お前こそ何をしているんだ。せっかくおれが無抵抗を演じていたのに。ぱぁにしちまいやがって」

 そう言いながら、マルハレータは背後から襲いかかってきた男を蹴り飛ばす。

「んなこと知るか。気に食わねえもんは気に食わねえんだよ」

 当たり前の事を聞くなと言わんばかりの様子でローデヴェイクは答える。

「そういう奴だったな、お前は」

 同時に剣を振りかざしてきた男二人を殴り飛ばし、マルハレータはため息をつきながらつぶやいた。


「ようやく静かになったな」

「あ、あなた方は!」

 ひと通りぶちのめし終わった頃、ベリャーエフが現れた。村人たちを踏まないようにもたもたと歩きながら二人の元へやってくる。

「しばらくぶりだな。帰りに立ち寄ってみたんだが、ずいぶんと面白い村だな、ここは」

 腰に手をあてて立つマルハレータが口の端をまげてベリャーエフに言う。

「は、はは……。あの、どうしてこうなったんですか?」

 ひきつった笑いを浮かべながらベリャーエフは周囲を見渡した。

「ちょっとした行き違いだ。全部のしちまったんだが、一応生きている。こいつらを運ぶ場所、わかるか?」

「は、はい」

「おいローデヴェイク、運ぶぞ」

「……わかった」


「あ! お久しぶりです! マルハレータさん、ローデヴェイクさん」

 村の中に入るとシュダが声をかけてきた。他の村人達は気配はするが姿を見せない。物陰から様子を見ているようだ。

「ベーさん、みなさんどうされたんですか?」

 シュダはうめき声をあげる人間の山をローデヴェイクが担いでいるのを見て目を丸くした。

「ちょっとね。ローデヴェイクさん、緑の草が生えている屋根が村の診療所ですので、そちらへ運んでください」

「ああ」

 彼らの後を黒い合皮ケースを背負い、村人たちの武器をまとめて担いで歩いてきたマルハレータは、シュダが立っている木枠のそばに武器をぶちまける。シュダはグローブに包まれていない白い手が土や泥に汚れているのを見た。

「マルハレータさん、手、洗います?」

「? ああ」

 返事を受けてシュダは足元にあった縄のついた木箱を持ち上げ、腰ほどの高さに組まれた木枠の中に放り込む。深い場所で水が跳ねる音が聞こえ、シュダが慣れた手つきで縄をたぐり木箱を引き上げると、中には澄んだ水が入っていた。

「手をどうぞ」

 マルハレータが言われるがままに両手を差し出すと、木箱から冷たい水をかけられる。水を受けながら両手をこすり、あふれた水が石畳の隙間から地面に掘られた溝へと流れていくのを眺める。

 続いて受け取った布で手をぬぐうと、マルハレータは木枠に近づき中を覗きこむ。暗い奥の底に空を反射する光が見えた。

「これは井戸ってやつか?」

「そうですよ」

 マルハレータは井戸を珍しそうに眺めると、今度はシュダの持っていた物に目を留める。

「それはなんだ?」

「これですか? これはお大根で、こっちはお芋です。ここで泥を落としていたんです。今日の晩ゴハンです」

 シュダが持っていた木でできた桶には濡れた植物らしきものがいくつも入っており、白く長いものや、茶色い拳大のものなど様々な形をしていた。

「そこの畑で作っているんです。わたしが採ってきたんですよ」

 頬に泥をつけ、シュダは自慢げに見せてくる。

「そうか」


 怪我人が運び込まれ騒がしくなると、状況を知ろうと村人たちが外へ出てきた。マルハレータは不安と警戒に満ちた視線をすべて無視し、ローデヴェイクに続いて木造の小さな診療所から出てきたベリャーエフを捕まえる。

「おまえに事情説明は任せる。おれに謝罪する気は一応あるし、倉庫にブチ開けた穴を修復するつもりもある。これから一日監禁されてやる。一日経っておれ達をどうするか決まらなけりゃ、あの倉庫を破壊して勝手に立ち去る。いいな」

「わかりました。あの、なんで倉庫を破壊するんですか?」

「ちょっとな。聞きたきゃそのうち説明する」

「じゃあひとまずベーさんとわたしがいる家に行きましょう」

「わかった」

 脅しとしかいいようのない説明をして、マルハレータはローデヴェイクを引き連れてシュダの後を歩いて行く。



「なんでこんな面倒くさいことするんだって顔だな?」

 歩きながらマルハレータはそう言うとローデヴェイクの上着の襟元を掴み、顔を近づけた。

「……あんた」

 吐息が交じり合う距離で、瞳と瞳が睨み合う。

「なんだ?」 

「怒らねえのか?」

「暴れた事をか? 別に、おれだって気に入らないことがあれば暴れる。ムカつきはしたがさっきの石で気は済んだ。おまえはおまえ、おれはおれ、だ」

 マルハレータは両目を細める。

 ローデヴェイクの瞳が震え、何かを言おうと唇がひらくが、マルハレータは無視して続けた。

「この村の奴ら、あの倉庫の中で面白いことをしてやがった。どうも普通の村じゃなさそうだ」


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