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恋人岬の灯台守が差し伸べる手

作者: 満原こもじ

 絶景かな、絶景かな。

 俺もこの仕事に就いて二〇年になるが、海を見るたびに感動を呼び起こされるね。

 今みたく青い空にたなびく雲もいいが、夕暮れ時に水平線の彼方に沈む太陽は最高だ。


 俺かい?

 ここ恋人岬の灯台守だよ。

 おいおい、灯台守じゃなくて恋人岬の方に食いつくのかい?

 どうせ灯台守なんてつまんねえ、寂しい仕事だけどよ。

 しかし副業の方は面白いんだぜ?


 岬の正式名称は長ったらしいのがあるんだけどよ。

 誰もそんな地図上の名称は覚えちゃいねえ。

 誰もが恋人岬と呼ぶんだ。


 恋人岬と呼ばれるのはもちろん理由があってよ。

 昔結婚を反対された二人がここまで来て、来世で夫婦になることを誓って身投げしたという言い伝えがあるんだよ。

 岬の海側は断崖絶壁になってるんだ。

 絶景たる所以だが。


 灯台守なんて退屈な仕事だ。

 しかし恋人岬は街道沿いの集落から徒歩二時間くらいと比較的近いこともあって、辺鄙な場所にしちゃ観光客も時々来るんだよ。

 自殺志願者もな。


 観光客と自殺志願者の区別?

 つくに決まってるだろ。

 俺が何年灯台守やってると思ってるんだよ。

 誰か人がいないかと灯台管理室を覗くのが観光客。

 暗い顔して誰もいないことを確認するのが自殺志願者。


 さて、その判別法からすると、今来た二人組は自殺志願者だな。

 仕事するか。

 副業だ副業。


「やあ、いらっしゃい。恋人岬にようこそ」


 ハハッ、ビクッとしていやがる。

 若い男女の二人組か。

 深刻そうな顔をしちゃってまあ。


「こ、こんにちは」

「あなたは?」

「恋人岬の灯台守さ。灯台の保守点検、維持が役割だが、恋人岬には観光客も時々来るんだ。謂れに悲劇的なロマンがあるし、それ抜きにしてもここから見る海は絶景だろう?」

「「ええ」」

「副業でガイドみたいなこともしているんだ。話を聞いていくかい?」


 明らかに迷惑そうだな。

 今から死ぬのに水を差されたと思っているんだろ。

 気付かぬふりで話を続ける。


「おっと、足元に気をつけろよ? 下は満潮の時でようやっと水に浸かるくらいの岩場なんだ。落ちでもしたらグチャグチャで、鳥と魚のエサになっちまう」

「「……」」


 こう言っとけば身投げには躊躇するだろ。

 もっと奇麗に死にたいと思うだろうから。


「恋人岬なんて結構な異名で呼ばれちゃいるが、ここは自殺の名所でもあるのさ。知ってたかい?」

「「い、いいえ」」

「あそこに二本立ってる柱みてえな岩があるだろう? 『地獄の門』って呼ばれてるんだ。ここから投身自殺した二人は地獄行きだよ。天界で結ばれるなんてことはねえのさ」

「「……」」


 『地獄の門』って呼んでるのは俺だけだがな。

 さて、意気阻喪した二人にサービスタイムだ。


「お二人さんは観光かい?」

「え? は、はい」

「じゃあ恋人岬の異名の由来は知ってるかな? 昔々、身分の差を理由に結婚を反対された令嬢と騎士が、この崖から身を投げて死後に幸せになったの、来世に結ばれることを祈ったのという」

「「知っています」」

「実はその話は脚色されたものでね。本当は二人は自殺なんかしなかったんだ。足が竦んじまってな」

「そうなのですか?」

「知りませんでした」

「本当も本当。何せ俺はその二人の子孫だからよ」

「「!」」


 驚いていやがる。

 毎度この種明かしはたまらんな。


「どうやらあんた達も自殺志願者のようだが、やめといた方がいいぜ? 崖下の鳥と魚にエサをやるのは」

「ご、御明察でしたか」

「まあ俺も灯台守歴が長いんでね。自殺志願者を救えというのが副業みたいなもんなんだ」

「わ、わたし達も切羽詰まってしまって……」

「もうこの世に身の置きどころがないのです……」

「俺に事情を聞かせてみ?」


 ふんふん、王都の大店の一人娘と手代か。

 愛し合っているが結婚を反対されて。

 よくあるパターンだ。


「それで恋人岬までやって来て、死後の幸せを願おうと考えていたのですが……」

「ええ、灯台守さんの話を聞いて気後れしてしまって」

「今までの俺の話は、ただあんた達の自殺を止めるためのものだ。しかしこれからの話はあんた達の未来に繋がるんだぜ。聞くかい?」

「「ぜひとも!」」


 生きようと思い始めたか。

 そうでなくてはな。

 死んで花実が咲くものか。


「あんた達は街道沿いシェウプの集落からここまで来たんだろう?」

「「はい」」

「これまで隣国テスカルとの国境付近は、恋人岬一帯を含めて開発が進んでいなかったんだ。何故なら我がネフューゲル王国とテスカルの交易は海路が中心だったから」

「存じております」


 ほう、この手代は勉強してるじゃねえか。

 色男ってだけじゃねえんだな。


「陛下は考えた。テスカルとの陸路交易が発達しないのは、街道が古く、このあたりの人口が少なく、魅力的な産業がないからだと。恋人岬一帯の開発を進め魅力的な産物ができれば、街道を活用でき陸路交易を活発化させられる。より一層の発展を期待できると。それで現在、シェウプ及び恋人岬一帯は特別経済自治区に指定されているんだ」

「それはどういったものでしょう?」

「これは知らなかったか。王都では話題にならねえのかな。もっと宣伝が必要なようだってのは置いといて、今この特別経済自治区はいろんな事業が動いてる。人手が足りてねえんだ。あんた達も手伝ってくれれば助かるな」

「た、体力にはあまり自信が……」

「商家の関係者なら読み書き計算は達者なんだろう? 大歓迎だぜ」


 ハハッ、喜んでら。


「やる気になったかい? もう一つ、あんた達に有利だと思われることがあるな」

「何でしょう?」

「ここは自治区だからな。ネフューゲル王国内の他地域とは法律が違うんだ」

「……私達に有利という意味がちょっとわかりませんが」

「仮に王都からあんた達の追っ手が来て連れ戻そうとしても、自治区長が拒否すれば不可能ってことさ」

「「!」」


 これも心配事の一つだったろ。

 一層目が輝いてきたぜ。


「俺も自治区内ではかなり顔が利くんだぜ。あんた達も特別経済自治区で暮らすってことでいいかい?」

「「はい!」」

「じゃあ待ってな。自治区長宛てにあんた達の事情を知らせる手紙を書いてやる。自治区長はシェウプにいるからな」

「「ありがとうございます!」」


 手を取り合う二人。

 おうおう、恥ずかしげもなく見つめ合いやがって。

 まったく若いやつらは眩しいぜ。

 おいこら、ラブシーン始めようとするんじゃねえよ。

 まあ自治区の人口が増えるのは結構なことだがな。

 恋人岬と呼ばれる場所はあちこちにあるようです。

 グアムや伊豆にあるものが有名ですね。

 本作の恋人岬は東尋坊がモデルです(笑)。


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