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マライサアの瞳が紫色に光る~かつて大陸の覇者であった民族の末裔は、蔑まれながらも抗い続ける~  作者: 成吉灯篭


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第七章『兄の商談』

 第七章『兄の商談』


「いやいや、有意義な話ができましたな。カラル殿。では残りの話については、こちらの席で固めてしまいましょう」

 そう言いながら、ヤマック商店の会長であるタルトは、年齢を感じさせない物腰で、カラルに座席を進める。


「いえ、こちらこそ。タルト様となら良いお取引が出来そうだ」

 愛想笑いを向けながら、カラルは彼が進めた席に腰を掛け、目の前に並べられた軽食を見つめ、心の中で一つため息をつく。


 目の前には、如何にも高そうな香りがする紅茶が注がれ、その隣には、お茶請けのクッキーとチョコレートが、少量置かれている。

 取引の最後の詰めのタイミングで出されたお茶と菓子は、重要な取り引きの締めのアクセントとしては悪くなかったが、朝食を碌に食べられず、昼食をタルトとの会談で得るつもりだったカラルにとっては、非常に貧相に思えた。

 だが空腹に耐えながらもカラルは愛想笑いを崩さずに、取引の詰めとして出された条件を吟味し、時折意見を出しながら、話をまとめていくことに注力をした。

 朝方、妹と話したことには、思考の奥にやりながら、タルトが出す条件に目を向けながら妥協案を見つけようとする。


「それで、鉄道の車両使用権の件ですが、何とか、三両は回していただけないでしょうか」

 こちらの一挙一動を見通すような目で見つめながら、タルトは、懇願するように必死に頼み込んでくる。

 これは、演技か、それとも本心か。

 カラルは、それを見通そうと視線を向けるが、腐っても一商店の会長、早々こちらに底を見せてこない。


 ヤマック商店が行っている魔鉱石の発掘、貿易産業への投資として、タルトは、そこまでの出資金は求めてきてはいない。

 魔鉱石が発掘できる鉱山が少ないこの国で、その貴重な鉱山に関する権利を有しているタルトから出された条件自体は、一見こちらにとって大分好条件に思えた。

 それなりに需要が高い魔鉱石の産業に関われるのであるならば、投資話としては、そう悪くはないだろう。

 だが、出資金を抑える代わりに、タルトが求めてきている車両使用権、これが厄介であった。


 車両使用権、鉄道の一部の車両を、ある程度自由に使うことができる権利。

 勿論、自身が認めた企業にその権利を貸し出すことも可能である。

 そして、アラルスター家は、鉄道事業に初期の頃から出資をした見返りとして、この貴重な車両使用権を、十五両、認められており、カラルは、そのうちの四両までは、ある程度自由に使える権限を与えられていた。


 大量の物資を、それなりの速度で各地に運送できる手段は貴重だ。

 故に貸し出すとしたら、それなりの見返りを得る必要があった。


 そう言う意味で、ヤマック商店が出してきている条件自体は、決して良い物ではなかった。

 提案資料に書かれている車両の賃料は、ヤマック商店への出資金を抑えられているとしても、相場から見ると大分安く、魔鉱石作業に関する投資に関わることができたとしても、そこまでの利益が出せるかも分からない。

 ただ、カラルにとっては、今後を考えると魔鉱石産業との関りは持っておきたかった。


 そのことをわかっているのか、タルトは、こちらがギリギリ納得できそうな利潤を提示して、牽制をしてきている。

 明らかに車両使用権を目的としての取引であろう。


「ふむ。悪くはないのですが、この車両使用権、三両。これについては、私の一存では決められないですな」

 笑いながら、書面の内容に牽制を入れてみる。


「そちらに回せるのは一両、いや、何とか頑張って二両といったところでしょうか。個人的には、出資金を増やすので、この車両使用権については触れないで頂けると助かるのですが」

 そう言いながら、頭の中で計算をする。

 今度は、こちらが少々吹っ掛けている計算になるが、車両使用権を貸すのであれば、そこまで悪い話ではないであろう。


「いやはや。先程お話をしましたように、車両の使用権がどうしても必要なのですよ。ただ、私共払えるものは決して少なくない。そこをこの出資金額と相殺をしてほしいというのが本音なのですが」

 笑いながらも、困惑を混ぜた口調で、タルトはこちらに応えてくる。

 どこまで本気であるが、車両使用権については、希望を譲るつもりはないようだ。

 だが、こちらにとっても魔鉱石産業と、何らかの繋がりを持っておくことは決して悪くはない。

 そのためには、多少の利回りの悪さは、目を瞑るべきかもしれない。


「これが、計算書です。ご確認ください」

 そんなカラルの考えを遮るように、背後に控えているカラルのお目付け役である老執事のナザスが、こちらに書面を回してくる。

 一見すると、今回の取引の内容をまとめた簡易的な計算書類であるが、その実、必要な情報は、手紙内の文字色で伝えてきている。


 文字色は赤。

 つまり、この取引は、基本断れと言う内容である。

 ちなみに、青文字であれば、話に前向きな意見を表明している。


「ふむ」

 書類に書かれた数字を、興味深そうに眺める振りながら、ナザスに軽く視線を向ける。

 老執事は、興味がなさそうに視線を外して部屋の様子を眺めているが、こちらに一瞬向けた視線は、言う通りにするように、強いプレッシャーをこちらに向けてきている。


 カラルと妹の二人については、比較的、平等な扱いを見せてくるナザスであったが、そもそも彼が忠誠を誓っている主は、カラルの父である。

 基本、彼は、カラルの考えや才覚は信用しておらず、こちらの指示に従う様に圧をかけてくる。


 普段であれば、カラルもナザスの言う通りにし、商談をその様に誘導をしたであろう。

 だが、カラルにとって、この取引は、是が非でも取りに行きたいものであった。


 一つに、魔鉱石産業に関わることで、リスクはあるが、大きなリターンが期待できた。

 二つに、妹のミリーと比べ、まだまだ弱い自分の基盤を固めるために、それなりの規模の商店とは繋がっておきたかった。

 そして最後に、常にこちらの指示を否定してくるナザスがどうしても好きになれなかった。


「わかりました。でも車両使用権は、二両にしてください。そこはどうしても外せないですな」

 笑いながら、タルトに、基本的な条件については、納得をしている意思を見せる。

 後ろに控えていた、ナザスが一瞬眉をひそめたのが確認できる。

 だが、この商談を止めるつもりはないようであった。


「ふむ。二両ですか。少々きついですが」

 そう言いながらも、タルトは、何とか話をまとめられると考えたのか、少し表情を崩す。

 やはり、車両の使用権を認めたことがよかったのであろう。

 大まかな条件は、まとまり、ある程度固い結論で話をまとめることはできた。


「なぜこの取引を進めたのですか?」

 帰り道、ナザスの淡々とした声での問いかけがカラルに向けられる。

 一見、無関心を装い、興味がなさそうな声を出しているが、決して納得はしてないのであろう。


「鉄道の車両使用権は、貴重な権利です。そもそも貴方に貸し与えられただけのものであって、それを、この手のリスクが高い投資話に出しては欲しくないのですが」

 くどくどと文句をいうナザスを無視して、カラルは、先程交わした契約書を今一度確認をする。


 出資金と、鉄道二両の使用権を一年貸し与える。

 代わりに、魔鉱石取引の上がりの17%を配当として受け取る。

 魔鉱石の出荷量にも大きく左右される、リスクが高い取引だという事は十分に理解していた。

 だが、この取引の本質は他にあった。


「聞いているのですか?坊ちゃん。五の金を使って、六の金を得られない可能性があるような取引等、避けるに越したことは無いでしょう」

 呆れたような、ナザスの言葉が耳に響く。


「あぁ分かっているさ」

 そう応えて目を閉じる。


 あぁ分かっているさ。

 この取引は、ただの撒き餌。

 こっちは、ここから自分の計画を進めるだけだ。


 そう考え決意を固めたカラルに、迷いはなかった。

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