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マライサアの瞳が紫色に光る~かつて大陸の覇者であった民族の末裔は、蔑まれながらも抗い続ける~  作者: 成吉灯篭


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第四章『兄妹』

 第四章『兄妹』


「うっ、くう…」

 うめき声を上げながら、カラルは目を覚ます。

 ぼやけた視界は、徐々に焦点を合わし、その視界に見慣れた天井が広がっていく。


「くそったれ」

 忌々しそうに悪態をつきながら、ベッドの横に置いてある水差からグラスに乱暴に水を注ぎ入れ、それを一気に口に運ぶ。

 あのろくでもない夜から、既に一週間が経過していた。

 その間、カラルの身体は、以前と変わらず問題なく動いていた。

 だが、時折不愉快な感覚が身体中を駆け巡り、自分が以前と違う存在になりつつあることを否応に自覚をせざる得なかった。

 そして、その不安に対する回答を持っているであろう、あの声の主は、あの晩以降、一度も自分に応えることはなかった。


「カラル様、お目覚めになりましたか?」

 外から、軽いノックの音と共に、メイドから確認の声が入る。


「あぁ。今行く」

 その声に適当に応えながら、着替えに手を伸ばす。

 体の不調を休む言い訳にできる程、自分の立場はよくない現実に、ため息を一つ付きながら、カラルは立ち上がった。


「本日ですが、ヤマック商店の会長より昼食のお誘いが入っております。その後、第七工場の視察が予定されています」

 食堂に向かって階段を下りるカラルに対し、メイドの一人がテキパキと今日の予定を告げてくる。

 昨日とは異なる、だが変わらない日常。

 身体の痛みと不快感にも徐々に慣れてきている。

 あの晩のことは、ただの悪夢で、このまま元の生活に戻っていくのであろう。


「あら、お兄様。おはようございます」

 そんなカラルの意識と思考は、冷たい若い女の声によって、無理やり中断させられた。


「あぁミリー。おはよう」

 その声がする方向、妹ミリーの方に、無理やり顔を向けると、カラルは感情を押し殺したように素っ気無く挨拶を返す。


「お加減は如何ですの?なんでも数日前に暴漢の襲撃を受けて負傷されたとか」

 そんなカラルに対し、ミリーはワザとらしい声で、こちらを気遣うような言葉をかけてくる。


「大した事ではない。そっちこそ、こんなところにいるなんて珍しいな」

 苛立ちを隠し、目の前の妹に応える。

 長いロングストレートの美しい金髪、均整がとれた整った身体、そして、それらの魅力をより引き立てるような冷たくも美しい顔。

 男であれば、誰もが振り向く様な美しい女ではあったが、カラルは、この畑違いの妹が嫌いであった。


 自分の居場所に入り込み、立場を脅かす存在。

 自分より明らかに優れている優秀な人材。

 そして、先の襲撃に関わっている可能性がある人物の一人。

 そのような人物と、必要以上に関わり合いなど持ちたいと思わなかった。


「お嬢様。次の予定が迫っております。急ぎましょう」

 ミリーの従者の一人、細見の優男が、こちらに見下すような視線を向けながら、二人の間に割り込み、彼女を急かす。

 この屋敷の主でもある、アラルスター家の一族を相手に、随分と礼を失した態度であるが、カラルは、それを咎めず、不快そうな視線を一つ向けるだけにして、その優男の好きにさせる。


 この家においては、今やミリーの方が力が強く序列が上であることが事実であり、カラルの存在は、既に蔑ろにされている。

 故にミリーの派閥に属する者達は、カラルを露骨に見下し、最低限、形だけの礼儀だけを見せてくるだけであったが、それを咎めるだけの力も気持ちも、既にカラルの中からは抜け落ちていた。

 ただ、この不愉快な存在が一刻も早く、目の前から消えてくれることだけが、カラルの望みではあった。


「お兄様。もしご体調が悪いのでしたら、お休みになっていて頂いても結構ですわよ。お仕事は、私の方でもお手伝いできますし」

 だが、目の前の愚妹は、カラルの気持ちを逆なでするかのように、優男の誘導を無視してこちらに声をかけてくる。


「何、大丈夫だ。心配をかけたな」

 しかしここで怒鳴っても、何かが変わるわけでもない。

 カラルは大人しく、ミリーの言葉を聞き流しながら、その場を先に立ち去ることにした。


 多くの点がカラルより勝っているミリーであったが、彼女が唯一手を出せないカラルの強み、それが鉄道会社であった。

 彼女がこの家に正式に養子として迎え入れられる前から、カラルの物であった鉄道利権。

 これが、自身の立場を脅かそうとする彼女に対して、カラルが持ちうる唯一にして最大の武器であった。

 だがそれも、このままでは彼女に奪われることも時間の問題であろう。

 いや、先の暗殺事件も、この権利を一刻も早く、手に収めたい彼女側の工作活動である可能性も十分にあり得た。

 その可能性を十分に考えているからこそ、カラルは、必要以上の接触を避けたいというのが本音であった。


「あら、お兄様。朝食に行かれるのでしょう?たまにはご一緒をさせて頂けないかしら」

 だがミリーは、そんなカラルの気持ちを知ってから知らずか、わざとらしく笑いながらこちらに擦り寄ってくる。


 女性特有の甘い臭いが鼻を刺激する。

 同時に、わざとらしい愛想笑いがこちらに向けられる。


 その顔に不愉快そうな表情を向けて拒否の意思を示すが、そんなこちらの意思を無視するように、ミリーはこちらに笑みを浮かべている。

 見れば、彼女の周囲の従者達も、この流れは予想外だったのか、驚きの表情を浮かべている。

 先程、無礼な態度を見せてきた優男は、特に苦虫を嚙み潰したような表情を向けてくる。


 そんな様子を見ていると、ふと、この誘いに乗ってみるのも一興だと感じてくる。

 特に先の襲撃のことを考えると、このタイミングで接触をしてくる、目の前の妹の思考にも興味が向いてくる。

 果たして彼女は、白なのか黒なのか。


「勝手にしろ」

 素っ気無く応えながら、カラルは、寝ぼけ気味だった思考を稼働させて食堂へと歩を進めた。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。とても楽しく読ませていただきました。
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