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マライサアの瞳が紫色に光る~かつて大陸の覇者であった民族の末裔は、蔑まれながらも抗い続ける~  作者: 成吉灯篭


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第十章『商人の失言』

 第十章『商人の失言』


 ミリーが裏で動いている。

 カラルが、その情報を得たのは、ある実業家主催のパーティの場であった。

 最も、その情報の出どころは、偶々パーティで顔つなぎの挨拶をした相手がふと漏らした雑談程度のものであったが。


「あぁ、アラルスター家の。いや、ミリー様には、大変お世話になっておりまして」

 そう言いながら、ヤノクと名乗った初対面の商人は、こちらに深々と頭を下げてきた。


「おや、そうなのですか。では、今後もよろしくお願いできれば…」

 ミリーと繋がりがあることを、自分に話してくるという事は、あまりアラルスター家とは深い付き合いではない一商人であろう。

 カラルの初印象はその程度であった。


 なんせ、カラルとミリーの不仲については、社交界だけではなく、それぞをする両名の支持者達の工作もあり、ある程度の取引や繋がりがある者の間では、よく知られている話ではあった。

 その関係を知っていれば、カラル相手にミリーと繋がりがあるなどと、口が裂けても言えないであろう。

 当然、その程度の繋がりの者が、わざわざこちらに接触をしてきたことに不快さを感じながらも、パーティの場ということもあり、カラルは表情を取り繕い好意的な態度を見せる。


「いえいえ。私のような下賤の身にもお付き合いを頂き、本当に、感謝をしておる次第なのですよ。ただ、あの件については、さすがに参りましたが」

 だが、そんなカラルの耳に、ヤノクの、わざとらしく丁寧な口調の言葉遣いの最後に漏れ出てきた、その言葉は届いた。

 その喋り方や、こちらに露骨に取り入ろうという態度と、どちらかというと、不愉快な印象が強いヤノクであったが、その言葉に興味を持ち、カラルは会話を切り上げずに問いかける。


「あの件?はて、あの愚妹めが、何かご迷惑をおかけしましたか?」

 わざとらしく微笑みと、少しの困惑が入り混じったような表情を見せながら、世間話のようにして、ヤノクに問いかける。


「あっいえ、大した話ではないのですが」

 だがカラルの反応を見て、ヤノクは失言を悟ったらしい。

 わざとらしく話題を変えようと、適当な言葉を口から吐き出しながら、少しずつこちらから離れていく。


「いやいや、そうは言わず教えてくださいよ。何があったんですか?」

 そんなヤノクの肩を掴み、こちらを向かせて、再度問いかける。

 笑みを浮かべた表情、だがその視線は笑っていないであろう。

 ヤノクは、そんなカラルの態度を見て、少々恐れたように後ずさる。

 だがカラルに肩を強く掴まれている以上、ここから逃げるわけにもいかない。

 緩まない自身の肩に置かれたカラルの手を見て諦めたのか、ヤノクは、周囲を見回すと声を落として喋り始めた。


「いえ、ミリー様というより、ミリー様のお付きの人からの相談だったのですが」

 ヤノクの言う話というのは、こういうことであった。

 ミリーから、いくつかの宝石の仕入れの依頼があったらしい。

 だがその依頼が入った後日、ミリーの部下から別口で、その宝石の仕入れと合わせて、武器を仕入れてほしいという依頼があったのだ。

 勿論、武器の仕入れ自体は、何の問題もない。

 しかしその依頼にヤノクが難色を示したのは、その武器を、宝石仕入れに紛らわせる形で、秘密裏に進めてほしいという者であった。


「貴公に迷惑をかける話ではないし、特別な報酬も弾もう」

 ミリーの部下は、そう言いながら話を一方的に進めてきたが、ヤノクからしたら面倒な依頼であった。

 ただの武器の仕入れではない。

 周囲にばれぬように、それなりに大量の武器をカモフラージュをして仕入れたい。

 下手をすれば、国家反逆を疑われるような依頼の片棒を担ぐことに、ヤノクは当初は難色を示したという。

 だがミリーの部下達は、そんなヤノクを強引に押し切り、結果、ヤノクは秘密裏に依頼があった武器を、宝石と共にミリーに届けることに協力することにしたのであった。

 元々、あまり大きくない小口の取引だけの付き合いである。

 これを機に、もっと大きい仕事に絡ませてもらえるかもしれないという下心もあった。


 その後、依頼は無事に完了し、ヤノクはミリーにボーナスも含めたそれなりの報酬をもらい、この話は完了したはずであった。

 しかし、ヤノクの心は落ち着かなかった。

 少なくない武器を秘密裏に届けさせるという、明らかに危険な依頼である。

 武器の使用目的はあえて聞かなかったが、その使われ方次第では、自分にも類が及ぶ可能性が高い。


 そう考え、しばらくの間怯えていたが、その後、自身が持ち込んだ武器に関する事件や話が出てくることもなく、ミリー達が動くこともなかった。

 そのことに安堵をしながらも、やはり気になっていたヤノクは、たまたまミリーの兄であるカラルをこのパーティ会場で見かけ、軽く探りを入れるために声をかけてきたということであった。


「それで、その後ミリーから何か依頼はあったのか?」

 話を聞き終えたカラルは、人目が付かない場所で、怯えたヤノクと向き合い質問を続ける。


「いえ、細かい商談は入ってきますが、武器のようなものはあの一回きりでして」

 明らかに面倒ごとに巻き込まれたことを悟ったヤノクは、周囲を気にしながら、ひそひそ声で応えてくる。


「ふむ。なるほど」

 ヤノクの話を頭の中で反芻しながら、カラルは考えをまとめる。

 ミリーが武器を集めているという話は、全くカラルの耳に入っていない情報であった。

 何か裏で動いているのか。

 少なくても、アラルスターの家とは関係ない場所で、彼女とその部下達が独断で秘密裏に行動をしているのは間違いないだろう。


「あの、私はどうすれば?」

 そんなカラルの思考を断ち切るように、不安そうにヤノクが声をかけてくる。


「また話を聞かせてくれ」

 少なくても今、必要となる情報は確認できた以上、話すこともない。

 後日、ミリーとの取引の明細や資料一式をこちらに届けるように命じ、思考の邪魔となる男を追い払う。


 わざわざ武器を集めた理由は、自身に対抗するためか、あるいは他の目的のためか。

 いずれにせよ、探りを入れて損はないだろう。

 予想もしない場所で入ってきた情報を吟味しながら、カラルは、次の一手のために動くことにした。

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